第37話 エリーの才能(ギフト)

「キシャー!(え~い!)」


 クネクネがついて来てくれることになったので、試しにダンジョンに潜ってみました。

 元はSS級、伝説級の魔物ではあるが、体が小さくなったためどのくらいの力があるかの確認だ。


「キャー! クーちゃんいい感じですわ!」

「キュッ!(えっへん!)」


 という訳で、一番ランクが高くてすぐに来れるBランクダンジョンに来ました。

 以前デール君にドッキリを仕掛けたあのダンジョン。あの時はDランクダンジョンからバレないように転移をして、このダンジョンへと飛んだ。

 メイちゃんは気付いたけど、純粋なデールは全く気付いていなかった。手が塞がってて魔法が使えないってのも信じちゃってマヌケ、いや素直なやつだ。


 そのダンジョンの敵、ミノタウロスを難なく倒して見せたクネクネ。エリーはクーちゃんと呼んでいる。

 そしてボス部屋のオーガに挑戦と思ったんだけど……。


「2組の順番待ちですね」

 残念なことに、今日は先約がいたようだ。

 このダンジョン、罠も少ないし敵も単純パワー系なので強さが比較的人気らしい。


「よし、王子ックパワーで順番を譲って貰おう」

「坊ちゃま、残念ながらもう王子ではありません」

 おぅそうだった……しかし王子ックパワーは一度も有効活用されたことがない気がする……。




「おうお前ら! たった3人でボスに挑戦か? やめといた方がいいぜぇ!」

 おうお約束のように絡まれたぜぇ! どうせあれだろ、助けてやるから女を寄越せ的な奴だろ? 俺ならそうする。


「敵はオーガだぜ? 見たところ壁役がいないようだけど、大丈夫かよ?」

「ご心配どーも。俺たちのことはほっといてくれ」

 壁にでも話しててください。うちに壁役いないんで。


「おう大層な自信だな! ランクはいくつだ?」

「……自分たちの心配をしていたらどうだ?」

 マジでほっといてくれ……ランクDだから! ここにいるのバレたら怒られるから!


「そうかい、邪魔したな。だが、今まで調子よくやってきていたパーティがオーガ戦をきっかけに崩れちまうのをよく見てきた。悪いことは言わねえから、無理だと思ったら迷わず退散しろよ。これ、やるからよ」

 そう言って青い魔石を投げ寄越す。


「転移の魔石だ。ボス部屋でも使える特別性のな。本当に無理すんなよ? もう若ぇやつが死ぬのは見たくねぇんだ……」

「……」

 ……こいつらマジでいい奴らだったんじゃ……。


「(いかがですか坊ちゃま。親切な人とその好意を疑った気持ちは)」

 やめろメイちゃん! こっそり心を抉ってくるな!


「……不要だ。お前らのようなやつらこそ長生きするべきだ。俺らの分は自分のためにとっておけ」

 セ、セーフ? ギリ不愛想だけど実はいい奴系を装えてるハズ……! ハズ!


「……変なやつだな! 俺は『質実剛健』のモーリーだ! ……死ぬんじゃねえぞ」

 ちょうど順番が来て『質実剛健』はボス部屋に消えて行った。


「坊ちゃま」

「……いいやつらに出会えたな!」


 オーガ、通称『上級の壁』。ここでリタイアする冒険者が多いのもあり、周回がてら若い奴らに忠告しているんだろう。

 いい出会いではあった。あったが、俺は名乗っていないのですぐ忘れられるだろう。


 だって俺ランクDなんだもん! バレたら絶対めんどくさい……。


 ◆◇◆◇


「キシャー!(わーん! 糸きれたー!)」


 その後、俺らの順番がようやく回ってきたので早速クネクネが戦う。

 オーガの筋力が高いのもあり、どうやら今の状態の糸では負けてしまうようだ。


「キュー!(うわーん!)」

 そしてオーガにバシーンと叩かれて吹っ飛んでしまう。身体能力的にもオーガには太刀打ちできない。

 ふむ、今のクネクネはB―3程度かな?


「キャー! クーちゃん頑張ってですのー!」

「キュッ? キュー!(わぁ! 力が湧いてくるー!)」

 お、エリーのバフ! クネクネがオーガに突っ込んでく!


「グゴッ!?」

 そしてクネクネの突進はいともたやすくオーガを粉砕してしまった。


「キャー! クーちゃんやったですのー!」

「キュッ! キュッ!(わーい! エリちゃんのおかげー!)」


 バフが凄いのかクネクネの基礎値が高いからなのかわからないが、どうやらあの2人、もとい1人と1匹は相性がいいようだ。


「いいコンビだね! 今後もエリーがクネクネにバフをかけて戦うのがよさそうだね」

「無敵のコンビですわ!」

「キュッ!」




 さてさて、討伐報酬の回収ですな! 正直大したものは期待できないけど……。

 そう言えば、ここの宝箱は罠があるんだっけ。


「アレクちょっと待ってくださいですの……むむむ~」

 エリーが宝箱を前に唸っている。これは……魔力を流して解除している? 以前俺がやったようなことをマネしているのか?


「むむむ……できましたわ! アレクが前やっていたことをマネしてみたのですが……できてますか?」

「……うん、バッチリだよ! エリー凄い!」

「――っ!」

「ふふーん、ですわ!」

 しかし見ただけでマネできることではないと思うんだけど……メイも驚いてるし。

 おそらくエリーの才能(ギフト)。どういったものか分かればもっと伸ばしていけるんだけど……。


「アレクに褒められましたわ! クーちゃん、やったですの!」

「キュッキュキュー!(わーいわーい!)」


 ……ま、焦らなくっていっか!

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