第34話 いつでも笑顔で
「メイ、いるか?」
あの後、どうやって自室まで戻ってきたか覚えていない。
「はい、ここに」
「――俺は、俺はただギルのことが可愛くて……頑張ってるから……」
「坊ちゃま……私はいつまでも坊ちゃまと一緒ですよ」
今一番欲しい言葉。あぁ、メイ……君と一緒なら――。
「婚約者の前で堂々とイチャつくなんて、興ふ――、いい度胸ですわ!」
エリー!? 何で俺の部屋に!?
「エ、エリー、いたのか……」
「そりゃいますわ!」
「もちろん私もいますよ」
いや、当たり前ではないと思うんだけど。不法侵入なんですけど。いや、今はそれより言わなければいけないことが……。
「エリー、それにサリー。大事な話があるんだ。実は俺――」
「知ってますわ! ここから追い出されるんですのね?」
相変わらず耳が早い。いや、あれだけの大人数がいたんだ。当たり前か。
「あぁ、だから俺との婚約も――」
言うが早いか、エリーが抱き着いてくる。
確かに、いずれこの王宮を出て世界を回る、その前にエリーとの婚約は破棄するつもりではあった。
危ない旅になるだろうし、そんな目には合わせられないからだ。待っていてくれなんてことも言えない。最悪死んでしまうかもしれないから。
しかし、まだ……こんな形を望んでいる訳ではなかった。エリーのことは嫌いじゃなかったし、いつか笑ってお別れできればと――。
「すぅ~」
? エリーが大きく息を吸う。そういえば昨日も臭いを嗅がれていたな……最後だから、恥ずかしいけど我慢――。
「キャー! 攫われるぅーーー! ですわー!」
「キャー! エリー様がアレク様に攫われるー! 誰かっ誰かー!!!」
「へ?」
何これ、どういうこと!? エリーとサリーが訳わからんこと叫んでる!?
「いやエリー離して――力つよっ!?」
「キャー! もう傷物にされちゃいましたわー!」
「キャー! 追放される身なのにエリー様を傷物にした上に攫うなんてー! 誰か捕まえてー!」
え? え?
「坊ちゃま、行きますよ! その荷物をお持ちになって!」
「え? 荷物って? エリー? 他の物何にも持ってないんだけど!?」
「キャー! それ以外に何が必要なんですのー!?」
いやいやいやダメでしょ! エリーはここに残って別の道を――!
「坊ちゃま。私がエリー様の立場で置いていかれたら、死にます」
「――っ!?」
「愛する人とともに在れないなど、生きる意味がありません。死にます。エリー様もきっとそうでしょう」
「……」
ふとエリーを見ると、大粒の涙を流しながら精一杯の力を振り絞ってしがみついている。
エリーを悲しませようと思ったことはないし、エリーを泣かせたことはない。思い出がそれだけだと辛いから、笑って別れたいと思っていたから。
大事だから……大切だから……だから……。
だけど……それなのにエリーが泣いている。泣かせてしまった……!
「エリー、すまない泣かせて――」
「泣いてなんか、いませんの! 妻は笑顔で、いつだって幸せいっぱいの、笑顔で……っ!」
……そんなことを考えていてくれたのか……会うときはいつも笑顔で……。
「い、いたぞっ! アレキサンダー様を……捕まえる、のか?」
「さ、さぁ……? と、とにかくエレーヌ様を離せ、離してください!」
そこに流れ込んで来た兵士たち。
「……エリーは、我が最愛の妻エレーヌ=アルティスは俺が連れて行くっ!!! 必ず幸せにするとアルティス家に伝えろっ!!! さらばだっ!」
これでいい、これがいいんだ。何て馬鹿だったんだ俺は。こんなにも素敵な女性を手放そうとするなんて……。
「キャー! エリー様! ……どうぞ……お幸せに……」
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