第33話 爪を隠し過ぎた結果
「長らくご無沙汰しております、聖ゴルディック教会の大司教を務めております、バルツィヘルムです」
そして迎えた当日。クイードァ王国第2王子、ギルバートの適性の儀。重要な儀式というこもあって、再びあのおっさんが来た。
ちなみに、普通は町の教会で1年に1度、その時までに12歳を迎えた子どもを一堂に集めて行う。使用される魔道具は廉価版だ。それでも貴重っちゃ貴重らしい。
今日は俺の時のように家族だけでなく、王宮勤めの宰相や役人、それにメイドや兵士など多くの人が参加している。
ギルの提案だそうだ。王族への不安、つまり第1王子が無能という噂から来る不安を払拭することが狙いらしい。
失敗したら取り返しがつかないある意味博打だが、今回は、ギルは大丈夫だろう。
親父もその確信があったからこの提案を受け入れた。
しかしあの魔道具、いつかは調べてみたいな。もしかしたら、俺みたいに判定に不備出てしまうあるような欠陥品かも知れない。ま、負け惜しみじゃないよ?
今回もそういった結果が出たら遠慮なくぶっ壊すつもりだ。
可愛いギルに俺のような思いをさせる訳にはいかない。ってゆうか国がヤバい。
「再びこのような大役を任せて頂きまして、名誉の極みでございます。ささ、では早速……」
「うむ」
視線をギルに移す。堂々とした佇まい、そこには一切の不安も感じられない。
「ギルバート様、頑張って……」
あれはギルの婚約者である……名前何だっけ? あまり見かけないから忘れてしまった……。
エリーはこっちに来過ぎなんじゃい。最近ほぼ毎日来るどころか、たまに起きたら一緒に寝てる。温かいけどひやひやしてる。
「安心しろ、グレイシア。心配などいらぬ。どこかの誰かと違ってな!」
婚約者はグレイシアと言うらしい。
こちらをチラッと見るギル。うむ、不甲斐ない兄を越えてくれ!
「さぁ! その偉大なる魔力をこの魔道具に!」
「うむ! うぅーっ! はぁぁあああーーーッ!」
おぉ! 眩い光が魔道具に注ぎ込まれる! かなりの魔力量なのでは!?
今まではSが最高だったと聞くけど、それを超えたんじゃないの!?
「で、ででで!」
大王?
「でぇ? こ、これは……魔力総量S……S!?」
「おぉ! 流石は我が息子ギルバート! 魔力量Sとは!」
「ちっ違います! SS! 何と前代未聞のSSでございます! さらに適性は『火・水・風』の3つ!」
凄い! 最高だったSの上! SS! さらに通常多くて2つの適性が3つも!
弛まず努力してきた結果なのだろう! 俺も鼻が高い!
「――っ!!! 何とめでたいっ! 素晴らしいぞギルバート!」
「ふっ……はっ、ふっはっはっはっはっはぁーっ!」
凄い! 高笑いも一段と凄い!
「「「ワーワーキャーキャー!」」」
会場も大盛り上がりだ!
「兄上ぇっ! 王位を賭けて決闘を申し込むッッ!!」
「キャーキャー……んえ?」
しまった、間抜けな声を出してしまった!
会場も静まり返っている。
「なななな、なにを……?」
「な、何を言っているのだ、ギルバートよ……?」
ほれ見ろ、親父も鳩が豆鉄砲を食らったような顔してるぞ? ちなみに俺は鳩がテキーラ一気飲みしたような顔をしている。つまり吐きそう。
「この軍事大国クイードァにあって! 無能な王などいらぬ! 故に俺が王位を継ぐというのだ! お前らもその方が安心だろうっ!」
今日ここに来た王宮勤めの者たちに投げかける。そうか、このために呼んだのか……これでは誤魔化しようが……。
「た、確かにそうだよな……」
「無能な第1王子より……」
「魔力SSだぜ! ギルバート様の方が……いや、ギルバート王の方がっ!」
いや親父はまだ健在なんですけど!
「ふざ――っ! ふ――っ! ふざっ――!?」
「~~~~~~~~っ!!!」
見るとパーシィとシアーが怒りのあまりどうにかなってしまいそうな顔してる。あかん、あのままじゃ襲い掛かりそうだ!
「(デールは……!?)」
いた、幸いにも2人の近く!
アイコンタクトで合図する。
「――っ(コクッ)」
デールは頷くと、鞘に収まる剣の柄を握り――違う、そうじゃない!
どうにか2人を頼むと伝え、2人に『睡眠』をかけ――かからない!?
あ、魔道具! し、仕方がない……魔力を多めに……っ。
「(『超級睡眠』)」
「「……」」
「――っ」
急に眠った2人を支えるデール。強めの睡眠だからしばらくは目が覚めないだろうが、仕方がない。
「どうした兄上っ! 返事はまだかっ!?」
そうこうしてるうちに、事態は進んでしまった! どうするっ! どうする!?
「まさか決闘まで逃げる軟弱者ではあるまいな! 兄上、いやアレキサンダー!!!」
「――っ!」
ギル……可愛い弟、ギルよ。嘘だと言ってくれ……兄上と……。
「俺はお前の……お前の兄で……」
「黙れッ! 貴様のような雑魚など……戦わぬならこの国から去れっ! アレキサンダー!」
――っ!
「……俺は……戦わない……弟とは、戦えない……」
「……臆したか軟弱者め。まぁいい、次期王はこの俺だーっ! 負け犬は去れっ! はーっはっはっはっは!!!」
「ギルバート王! ばんざーいっ!」
「無能は去れーっ!」
「「「ギルバート王! ギルバート王!」」」
……。
…………。
………………。
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