第32話 大切な家族たち

「ふぁ~、やっと戻って来れたー!」

 

 あれから3日程、遅れてやってきたセイスとともに後処理をしたりして過ごした。

 セイスはやはりほとんどのことを察していたようだ。


 まぁ、彼ならうまく折り合いを付けられるはずだ。熱い心は持っているが、冷静な頭脳を持っている彼なら。

 ……人間に復讐! とかしないよね? ね?




 そんなこんなで目的の日の前日、王宮に戻ってきた訳だが……。

 正直疲れた。


「アレクー! おかえりですの!」

 そこに現れたのは我が婚約者、エリー。


「ちょっ! エリー、はしたないって!」

 ドゴッとそのままの勢いで抱き着いてくる。


「ふわぁーアレクの臭い……寂しかったですの……」

「エリー……ごめんね」

 臭い、はともかく寂しい思いをさせてしまったのは事実。甘んじて受け入れて――。


「うん……アレク、どうしましたの?」

「……え? 何が?」

「何だかとっても疲れている気がしますの!」

「……長旅で、ちょっと疲れだけだよ」

 避暑地で休暇を満喫しすぎたんだよ!


「アレク……いいんですのよ。今はあなたの愛しのエリーに甘えてくださいな」

 そっと、暖かく体を……いや、心までも抱きしめられる。




 今は、今だけはこの温もりに甘えてもいいか……もうすぐ手放すときが来る、そんな予感を抱えながらも、エリーの優しさに包まれるのだった。


 ◆◇◆◇


「エリー、ありがとう! もう大丈夫だよ!」

 おし、いつまでもくよくよしてらんない! 未だ見ぬ強敵のためにも止まってなんかいられるかー!


 エリーと別れ、王宮内を進む。そこに――。


「兄さま! お会いしたかったです!」

「パパパパーシィ! 久しぶりじゃないかっ!」

 私の甘い天使、パーシィ! 約10日ぶりの俺には刺激が強すぎるっ!


「アラアラさんに聞きましたよ! 兄さまに元気がないって! どうか、このパーシィと一緒にゆっくり過ごしてください!」


 ……。


 …………。


 ………………。


「……はっ!?」

 いかん、ここ数時間ほどの記憶がない。確かエリーと別れて、天使に会って……。


「あんっ、兄さま……そこはっ、でも兄さまになら……」

 パッ!?

 い、いかんいかん、俺は誓ったんだ! 止まってなんかいられない!


「……ん? ところでシアは?」

 基本的にいつも一緒にいる2人だが、血の繋がっている方の妹がいないことにようやく気付く。

 パーシィは妹じゃないけど……。


「シアならデールさんの所に行きましたよ。兄さまと同じく元気がないと聞いたので」

 デーーーールゥゥゥッ!!! おのれ我が可愛い妹を奪うつもりかァッ!?


「デールゥ! 誰かデールを呼べぃ!」


 ◆◇◆◇


「殿下、急に訓練場に来いとはどうしたのですか? 今日戻られたばかりですのに……」

「剣を取れ! デール!」

「はぁ、訓練ですか? しかも真剣とは……さすがに真剣をわが主に向けるのは……」


 訓練だと!? 甘いっ甘すぎるぞぉっ! 俺の顔より甘いっ!

 油断大敵! 常在戦場! 色即是敵! 悪・即・斬!




 ――数分後、倒れていたのは俺だった。


「空は、青い」

 晴れ渡る空の下、穏やかな風。


 負けたよ、完敗だ。お前になら我が可愛い妹を任せられるかもしれない、こともないかもしれない。


「も、申し訳ありません殿下! 私も、その……ドファクゴーグを前に、殿下とともに戦えなかった自分の無力さが悔しくて……」

 ……え? その悔しさを俺にぶつけたの?


 ◆◇◆◇


「ギル! 我が弟よ!」

 ようやく、本来の目的であったギルに出会った。


「……いよいよ明日――」

「あぁ! いよいよ明日がギルの適性の儀! 俺も楽しみだよ、いよいよだもんなぁっ!」

 そう、何としてもこの日に間に合いたかったのはこのため! 我が可愛い弟ギルバートの適性の儀があるからだ!


 きっと素晴らしい結果を出してみんなに祝福されるに違いない!

 俺の時とは違って……あの日の光景は今でも夢に見るよ……。


「ふん、余裕そうな顔をしていられるのも今のうちだ! 俺は兄上より必ず優れた結果を出してやる!」

「うんうん! ギルなら必ず越えられる! 大丈夫、今日はゆっくり休むんだぞ!」


 何てったって、俺の魔力は一般人並み! 適性は無し!

 普段通りのギルなら全く問題なし!




「(いつまでも上から目線で……今に見ていろ兄上めっ!)」

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