第31話 戦いの終わり

「やぁ! あれからどのくらい経った?」

「殿下! よくぞご無事で! およそ1時間ほどですが……」

 戦ったのと心を折る作業がそれくらい、ってことか。



 いやー! ドなんちゃら! 正直ビビったね。初めて見たわ、あんな強い奴。

 勢いでどうにか持って行けたけど、まともに戦えば五分五分、軍勢とやらもうまく使われていれば負けていた可能性が高い。

 ま、今なら楽勝だろうけど!


 彼の空間で学べたことは多い。対外魔素、他にも……。

 あ、ちなみに記憶に関しても対処済みだ。不要な記憶を、長い時間の訓練の記憶などは空間収納に……まぁ、SDカードに保存みたいなもん! ここに来る時の記憶は再接続してきたってこと!




 閑話休題。

 

「ハンダートは如何致しますか? 公的に裁くには……その……」

「そそそ、そうだ! 獣人をどう扱おうがこの国では問題ない! 問題ないのだぁっ!」

 あーその辺の対策にもなってんのか。ほんと悪いことには知恵がよく回るよなぁ。その知識を善いことに活用させればいいのに。


「うむ。それについては考えているよ。今までの報いを受けさせなきゃね」

「ヒィッ!? わわ、私たちがいなくなったらっ! この地はどうなると思っている!?」


 確かに、誰も治めなくなった領地の人々は好き勝手に行動、言ってみれば盗賊にでもなるかもしれない。この地で平穏に暮らしていた獣人も確かにいて、彼らの状況が悪くなるのも目に見えている。さらにここは辺境の地、隣接する国や強めの魔物に侵略される可能性もある。


「何も知らない者を人質にとるな。知らねぇよ、死にたくなきゃどうとでもするだろ。『次元門』」

「……はっ!? へっ!?」

「魂をくれてやる約束をしててな。ほれ、ここ通れ。今なら苦痛なく死ねるぞ」

 昇天できない、つまりは輪廻転生できないし、安息はないだろうけど。


「い、いやだぁっ! 死にたくね――ギャーっ!?」

「『退行催眠幻覚魔法ペイン・バック』。それとも、過去に他者に与えた苦痛を自分で味わってから死ぬか?」

 攫ったものはその悲しみを、痛めつけたものはその痛みを、犯した者はその屈辱を! もちろん掘られる側。


「……くそっ、ここまでか……」

「せ、せめて苦痛なく……」

 断頭台に上がる死刑囚のようにゲートを通るハンダートの配下たち。その数十人。

 また後で会おう! もちろんペイン・バックかけにいってあげるからね! それで反応しないやつがいたらこっちに戻してあげよう。


「わ、私も……」

「お前は別!」

 ハンダートもしれっとついて行こうとしていたが、んなことは許さない。


「な、何を……!?」

「お前が言っただろ、『この地はどうなる』って」

「そ、それは知らぬと申したではないかっ!」

 すまん、ありゃあ嘘だ。


「お前にはこの先長い時間をかけてでも、獣人が本当に平和に過ごせる居場所を作ってもらう。なぁに、お前の表の部分を使えばそれも可能だろう」

 虐げられし獣人に手を差し伸べる変人としての顔。この国にはまだまだ助けを求めている獣人がいるのもまた事実。


「そ、そんなことできる訳がないっ! カモフラージュ以外の他の町の人間は獣人を差別しているんだぞ!?」

「んー、そこは法律で取り締まるとか……まぁ、どうとでもしろよ。そのうち嫌でもしたくなるよ」

 そう言って、『隷属魔法』をかけ、とても立派な水晶のついたチョーカーを付けてやる。


「これで命令には逆らえない。逆らおうと思った瞬間その水晶に込められた『ペイン・バック(弱)』を起動しろ」

「……誰がッ! ギャーッ!」

 しまった、しばらく会話ができなくなってしまった。


「ま、詳しい話は今度セイスと話してくれ」

 こいつにはしばらく獣人のために尽力させた後軍勢の一員となって貰うつもりだ。




「人手はどうしますか? もれなくあっちに行ってしまいましたが……」

「その当てもある。仲間を見殺しにしていた奴らだが、罪を償うチャンスでもある」

 カモフラージュ用の村に住んでいた獣人たちだ。まぁ、そうせざるを得ない状況だったのは理解できる。状況が変われば進んで悪いことはしないだろう。


「そうですか……これから少し忙しくなりそうですね」

「そうね……まぁ、期せずして獣人の安息の地ができそうでもある訳だし。頑張っていこー!」

「「承知」」




 ここで行われた地獄のような儀式。それを知るのは俺とハンダート本人とド。察してるやつも何人かいるだろうが……。

 それ以上は知らなくていい。知らなくてもいいじゃないか。




 ◆◇◆◇




 だから、もう許して欲しい。


「アレク様! わかってるのですか!? 私がどんな思いで――!」


 このセリフも既に何十回も聞いた。

 あの後、クワトの様子を見に『転移』してからずっと聞いている。


「聞いてるんですか!? 恩人を危険な場所に行かせた私の気持ちを――」

「も、もちろん……聞いてるよ……」


 その恩人を3時間近く正座させて延々と怒りをぶつけるのはどうかと……いや、気持ちはわかるけども……。


「ク、クワトちゃ~ん、そろそろ許してあげよ? アレクっちもクワトちゃんを危ない目に――」

「黙ってて!」

「りょ★」

 ヤハウェーイよ、もうちょっと頑張ってくれぃ……。


「まぁまぁ、クワトちゃんそんなに怒らないで……おっぱい飲む?」

「いらない!」

「飲む」

「はぁ!?」

「「ごめんなさい」」

 アラアラのせいでさらに怒られた。


「災い転じて福となす、これを生かし次は――」

「転じられないから怒ってるんでしょ!」

「ごめんなさい」

 ブッディ……災いと言うのは今の状況のことかい?


「破壊の後に創造あり!」

 シヴマーヌ……それは一度破壊されろと?




 その後さらに3時間程お説教は続いた。ここが地獄だったか……。

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