まぁまぁクズの英雄譚～今世こそ俺が搾取する側に！～

第２８話 ハンダート領の真実

「すみませ～ん！　特殊討伐モンスターの素材をお届けに参りました～」

　セイスから聞いていた、奴隷商がハンダート伯に獣人を売るときの合言葉。

　表向きは善人を装って獣人に手を差し伸べているため、堂々と奴隷商から買うと角が立つってことだろうか。

「……入れ！」

「ありがとうございます！」

　クワトを送って戻った後、改めて作戦会議を行った。

　ま、自然と俺が獣人役ならデールが奴隷商、メイちゃんが後方待機だ。

「私も殿下を敵地に送り込むのは断腸の思いなんですけど」

「私は何故後方待機なんですか？　ご一緒に行った方がよろしいのでは？」

「適材適所ってやつさ。それにわざわざ敵に美味しい餌を渡す必要はないし」

　そんなやりとりをし、結局無理矢理納得させて今に至る。

　そして今、まずい餌こと俺がまんまと侵入できた訳だ。

「おまえが特殊素材の納品に来た商人か？　見ない顔だが……」

「同業者のツユミニン氏から紹介されまして、こちらのか――、こいつです」

　忘れてた、デール君はかなりの天然だった！　キャンプにデリバリー頼むような男だ！　絶対いつかボロが出る！

「こいつか。何となく獣人っぽさは感じられないな」

「えぇ、獣人になりたてほやほやなんですよ！」

「！？」

　はっ！？　意味わからんクソデール！　獣人になりたてって何だよ！　虫じゃねえんだぞ！？

「ちくしょー！　たまたま人に化ける魔法が解けなければ捕まらなかったのにっ！」

「あぁ、たまにいるな。人に化けて生活してるやつ。だからか」

　やった、うまく誤魔化せた！　デールのやつ……覚えてろよ！

「そ、そうだす！　私は運が良かったなぁー！」

　頼むからもう余計なこと言わんといてくれ！

　デールをキッと睨みつける。

「おうおう、随分反抗的な目をするじゃねえか！　ちょうど今回は１人足りないと言っていたとこだし、まぁいいだろう」

「１人足りない？」

　デールぅぅぅ！

「おっと、失言失言。お前はここに可哀そうな獣人の奴隷の保護を求めた、こっちは快く受け入れ、手厚く保護している。そうだな？」

「？　いいえ、違――」

「いいえっちができますようにだと！？　俺を売った金でよくも抜け抜けと！」

　えっちだけに。じゃなくて、この誤魔化しは厳しいかっ！？

「かっはっは！　ほれ、報酬に色を付けといてやったから、早くイキな！　えっちだけによ！」

　……俺、こいつと同レベル……？

　いや、それよりも今はデールと別れなきゃ……！

「けっ！　もう顔も見たくねえぇぜっ！　オラ、早く案内しろよ！」

「おぅ、こっちだ！　先行くな！　どこ行くんだバカっ！」

「（あのいつも偉そうな殿下が奴隷の役など……うまくできるか心配です……）」

　聞こえてんだよ！　お前に言われたくねぇよ！

　案内されたのは地下。ちなみに、ここに来るまでに拘束されている。あまり意味ないけど。

「ここで待ってな。領主様が直々にお会いしてくれるってよ」

「……ここは」

　牢屋。まいったな、あと３日で帰れるだろうか。親父との約束があるんだが……。

　奥に何人もの気配を感じる。恐らく獣人の。おかしいな、１人足りないってのは……？

　▼▼▼▼▼

「こいつか？」

　３０分程経った頃、ようやくやってきたようだ。

「えぇ、ちょうどよかったですね。ちょうど１匹足りていなかったようで」

「お前らが何人か嬲り殺してしまうからだろうが！」

「へっへっへ～、こいつら普通の女より体力あるから色々できるんでさぁ、つい調子にのっちまうんですわ～」

「おい、いい加減にしておけよ。変な菌を移されるぞ！」

　恰幅の良い男性、おそらくハンダート。それと先程の男と、別の男。

　どうやら予想通りだ。

「おい、お前。最後に言いたいことはあるか？　せっかくだから聞いてやるぞ」

「……俺はこれからどうなる？」

「おぉ、よくぞ聞いてくれた！　お前はこれから偉大なるお方の生贄になるんだぞ！　我がハンダートが世界を統べるための礎となれるのだ！　名誉に思え！」

　聞いてもないこともべらべらと喋る。何か企んでる奴ってのは、実は誰かに聞いて欲しいってもんだ。

「なぜ獣人なんだ？」

「獣など、いなくなっても大して気にも留められないからな。多少いなくなっても気付かれないから便利でよいぞ」

　確かに、この国で獣人を憂うヒトなどほとんどいないのが現実ではある。

　だけど……いや、だからこそお前に少しだけ期待していたんだよ。

「お前に救われたってやつもいたが」

「奴らはカモフラージュだよ。本人たちも薄々気付いてるかもしれないがね。まぁ、それでも他所に行くよりはマシなんだろう」

　通ってきた村の住民に感じた違和感。これか……薄々でも気付いておきながら、黙っていたってことか。

「……あんたは慈善家だと聞いたが」

「慈善家だよ。先ほども言ったが、汚らわしい人間もどきを我がハンダート家の礎とさせてやっているんだからな！　はっはっは！」

　現実は……こんなもんだ。

「……もう結構」

「そうか？　まだ話したりないんだが……」

「構わん！　連れていけっ！」

「お前がそれを言うんかい。まぁいいや。旦那ぁ、連れて行きますぜぇっ！」

「そ、そうだな……連れていけっ」

　この程度の圧で怯えるとは情けない奴だ。

　奥へと続く道を進む。

　道中には、事切れている獣人たちがいた。皆虚ろな目をしていた。

　中には人間の男もいた。己の欲望を満たしているのだろう。

　ここは……地獄だ……。