第27話 その先に行かせる勇気
「ここがハンダート領の首都かー!」
まぁまぁ栄えているが、王都には適わない。そりゃそうか。
「ふむ。この辺りには獣人と人とが混在しているな」
人の方が多いが。
「ですね。しかし、やはりそれぞれの種族間に壁を感じます」
クワトに言われて観察してみる。
確かに、ヒトは獣人を見かけると嫌なものを見るように離れ、獣人は俯いてヒトから離れていく。
ここでも差別はあるようだ。
「さて、特に用事もないしさっさとハンダート伯に会いに行こうぜ!」
「どうやってですか?」
「え、普通に……」
玄関から……。
「坊ちゃまは今お忍びの格好ですが、彼の者がお会いするとでも?」
「……」
「しかも、ただ会うだけじゃなく、怪しいものを探さないといけませんね」
「……」
じゃあどないしろっつーねん! 代案を出せよ代案を! 否定すんならあんだろ、代案!
「……私に案があります」
おぉ! さすが諜報部隊トロイアのメンバー!
「アレク様は奴隷商に扮し、領主に私を売りつけに来た、そういうシナリオです」
「……」
何やら不穏な感じ……。
「恐らく、奴隷商が直接売りに来ることもあるでしょうし、それで内部に潜入して捜索すれば――」
「――ならん」
「アレク様、しかしこの方法が一番――」
「ならん。見ず知らずの獣人を助けるために、大切な配下を差し出すのは割に合わん」
「し、しかしっ! ならば――」
「くどいっ!」
◆◇◆◇
「……どうしてそうなるのです?」
「はっはっは、これが一番手っ取り早い! 我ながら名案だ!」
否定するんなら代案を出す、そう意地になった結果がこれ。
「まさか、アレク様が獣人に扮して潜入捜査をするだなんて……っ!」
「坊ちゃま、お似合いです」
「そうだろうそうだろう! 今夜はこの姿でご奉仕させてやらんでもないぞ!」
「殿下……そういうことは誰にも聞かれないようにしてください」
そう、俺自身が獣人になる(魔道具を使う)ことだ。
「そんなっ!? あなた王子ですよ!? そんな方が自ら危険を冒すなんて!」
「夜伽は普段の姿がいいです」
「えー、普段と違う姿ってなんか燃えない?」
「殿下、私はその……ありだと、思います(ポッ)」
逆にメイを別の、例えばうさ耳とか……オエッ嫌なもん思い出した。
「かく言う私も、恋人ができた折には首輪を付けて――」
「話をっ! 聞いてーっ!!!」
「「「はいっ」」」
いかん、ふざけ過ぎた。普段静かなクワトが激おこ。
そしてデール君の意外過ぎる性癖を最後まで聞かずに済んだ。良かった。
待てよ? その年で既にそんな性癖を……? いかんぞデール君! 君にはまだ早い!
「アレク様! 私たちはアレク様のためならいつだって命を差し出せる覚悟があります! 他のメンバーもそうです! それほど貴方に感じてる恩は大きい! あのまま孤児院を出ていたら野垂れ死ぬか奴隷になって金持ちのおもちゃになるかだった! そんな私たちに貴方はいろんなことを学ばせてくれて役目をくれた! それがどんなに嬉しかったか! 生きる希望も意味も貴方がくれた! だから私たちは――!!!」
「『転移』」
わーきゃーうるさいクワトを連れてトロイアの拠点に戻る。
「アレク様!? 何を!?」
「ブッディ達、いる?」
「んお? アレクっちじゃ~ん、どったの~?」
ヤハか。まぁいいだろう。
「クワト頼むわ。わーわ―うるさくて適わん」
「アレク様! どうして!? まさかっ!!!」
うっさいな~、もうクワトの役目は終わったの!
「……まぁ、いいけど! さ、シヴ! パーティの続きしよ~ぜ~☆」
「破壊の後には必ず再生がある。いざ征かん、ニルヴァーナ!」
流石はごちゃまぜシヴマーヌ。いろんな人に怒られないか心配。
ヤハは察しが良くて助かるね~。
ヤハにシヴ、ここにはいないブッディにアラアラ。彼らなら大丈夫だろう。一見ふざけたやつらだが実に頼りになる連中だ。
こいつらは他者への慈しみの心が強すぎて、諜報に向かなかった奴らだ。
「そんな! アレク様! アレク様ぁぁあああッッ!!!」
◆◇◆◇
「……よろしかったので?」
「ん? 別にいいだろ、あんだけ騒がれると目立ってしょうがない」
人気はないところだけど。
「そうじゃなく……いえ、差し出がましいことを申しました」
「……」
まぁ、言いたいことはわかるよ。
クワトは純粋でまじめだ。本来なら諜報員にはなれるような子ではない。
それを、俺のために頑張りたいって必死に努力してトロイアの諜報員になったのだ。
俺のおふざけで作った部隊。ならば、まだ彼女はこのままでいい。
「さ、行こうか!」
どう考えても、進めば地獄。ならば……今はまだ、行かなくていいんじゃない。
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