第26話 メンタリストクワト

「すみませ~ん、ここはハンダート領です?」

 なんて、ちゃんと関所を通ったから知ってるんだけど。


 王都を出発してから数日、ようやくハンダート領の村へとついた俺たち。

 早速第1村人とコンタクトを取る。


「おう、そうだぜ! 俺ら獣人にも優しい領主様が治めてる平和な場所だ!」

 うさ耳がピョンっと立っている中年の獣人に話しかける。そうか、ここが地獄か。


「珍しいですね、獣人が平和に暮らせるなんて」

 同じく獣人のメイちゃんが話しかける。


「おう! 俺も女房も、他の仲間も、みんな領主様が引きとってくれたんだ。大恩人だよ」

 どうやら奴隷やら孤児院やらの獣人を引き取っては平和に暮らさせている。少なくても、ここではそうらしい。


「他の町でもそうなんですか?」

「さぁなぁ。ここいらじゃ、村から出ると魔物が出てくるからよ! 他所に行く用事もないしな!」

 ふむ。他の所のことはわからない、か。


「そうですか……他の町も気になりますね」

「嬢ちゃん……頼むから変なことしないでくれよ? 俺たちは平和に暮らしてぇんだからよ」

 おっと、余所者が嗅ぎまわってると警戒させてしまったか?


「とんでもない! 私も獣人ですので興味があるのですよ。彼と平和に暮らせる町があるのかと」

 そう言って腕を組んでくるメイちゃん。成長してるけど、成長してないね。

 心なしか血が止まるくらい腕を強く掴まれてる気がする。


「おっと、余計なこと言っちまったかな! 悪かったな!」

「いえ、こちらこそお邪魔しました」




 ……。




「怪しいところはありましたか?」

 少し離れたところでメイちゃんが聞いてくる。


「いや特に――」

 何も、と言いかけたところのだが。


「彼は嘘を付いています」

「――嘘を付いてるところが気になった」

 ……。


「坊ちゃま、人には得意不得意がありますから……」

「……うん」

 ショボーン。


「クワトさん、どういったところがですか……?」

「具体的にはわかりませんが……他の町の話をしたとき、明らかに声のトーンに対して呼吸がおかしかったです。まるで何かを押し隠すような。それと視線が少し泳いでましたね」

 ……エスパーやん。俺全然わからんかった。

 

「ふむ。なら、他の町に行ってみるのがいいんかね」

「そうですね。1日だけここを探ってみて、明日は早めに移動しましょう」

 承知の助! クワトを連れてきてよかったわぁ。

 それと、ちょっと気になることが……。


「もしかして、俺が嘘ついてるときとか……」

「ふふ、もちろん! アレク様はわかりやすいですからね!」

「……」

 ちょっとショック。そんなにわかりやすい……?




「(いつか、アレク様の秘密も教えて貰えるくらい信用されるように頑張ります)」

 誰にともなく呟いた彼女のそれは、風の中に消えて行った。いや聞こえたけども。たまたま身体強化で周囲に気を張ってたから聞こえちった。

 しかし俺は問題を先送りにする系なのだ!


 いや、まさかこの考えも読まれて……?

 ふえ……?


 ◆◇◆◇


「おーい、お前らー!」


 さりげなくこの村を探ったが、特に怪しいところはなく、宿に泊まって朝を迎える。

 そこに昨日最初に会話したうさ耳おっさんが話しかけてきた。


「お前ら、この村を出るんだろ? この先は少しでも道を外しちまえば魔物がわんさかいる。まっすぐ東に向かうといい」

「これはご親切に、ありがとうございます」

「いいってことよ! それじゃあ気をつけてなぁ!」

 そう言って去っていくうさ耳おっさん。


「ですって、クワトさん」

「嘘は言っていないようですが……やはり、何か気になりますね」

 こういった時の勘ってやつは侮れない。特に、本気の人の勘は。


「先を急ごう」

 俺の勘は一切働いていないんだけども。


 ◆◇◆◇


 その後、3日程かけて村々を回ったが大きな収穫はなかった。


「獣人たちしかいないのは少し気になりましたが……」

 今まで回った村は全部で3つほど。そのどれもが、2.3の血族からなる10数人程の小さな集落だった。そしてどこにも人間はいない。


「遠くに見えた大き目の町、人間はそこにいるんじゃないかな?」

『飛行』の魔法で確認したが、案内された先以外の場所に大きな町がいくつかあった。そこに行けば何かわかるかもとは思ったけど、それは他のトロイアメンバーに任せようと思う。


「領主が獣人を認めていても、一般人はやはり受け入れられないのかも知れませんね」

「そうかもね。ま、無理に一緒にされるよりはお互い平和に過ごせるのかも」


 少なくとも、ここまでの村々ではそれなりに幸せそうに暮らしていた。


「だからこそ、何を隠しているのかが気になりますね」

 クワト……もう何かアレだ、クワトの勘違いじゃない? そう口にしかけた時――。


「――っ! 『スマホ』に連絡が!」

 連絡があった時に微弱な魔力を発し、若干震える通信機。それが起動したということは――。


「こちらクワト。どうしました?」

「こちらセイス。いくつか重要な情報を入手しました」

 他のトロイアメンバーのうち、クイードァ内にある他の都市を調べていたセイス。


 周囲に人気がないことを確認してスピーカー機能をON!


「私が回った都市、それとウーノやドスたちが回った都市。そのほとんど全ての孤児院でハンダート辺境伯の手のものと思われる者により、定期的に獣人の子が身請けされていました」

「それは……さすがに多いんじゃないか?」

「ええ。身元を偽ったりしているようでしたが、ほとんどの者が最終的にはハンダート辺境伯に繋がっているようです」

 この短期間でそこまで暴くとは……トロイア、怖ろしい。


「……場所によってはほとんど毎年、いえ、子どもが手に入るたびに引き取っているところもあったようです。特に王都から離れるほどその傾向は高い」

「……何と」

 めちゃくちゃ集めるやん。王都ではさすがに怪しまれないように、ってところか?


「さらには……誘拐までしていたようです」

「――っ! それは……!」

 明らかに今までと違う。慈善事業という言葉では隠しようもない情報。


「確かか?」

「間違いありません」

 決まったな。これでハンダート辺境伯が獣人の子どもを集め、何か企んでいることは間違いない。

 良かったな、爺さん。これで俺に一生ネチネチ言われなくって済むぞ!


「助かったよセイス。他のみんなにも礼を言っといてくれ」

「いえ……アレク様、どうか子どもたちを……同胞を救ってください」

 クール系熱血キャラのセイス。同じ獣人が酷い目にあっているのが許せないのだろう。俺もだ。




「最初は獣人の魅力に気付いて手を差し伸べてるやつかと思ったんだけどなぁ~」

 メイのしっぽを撫でながら呟く。


「まだわかりませんよ? 案外、本当に手厚く迎えているのかも。人攫いも、劣悪な環境ではしかたなし、と止む無く行ったかも知れません」

 ぺしっと俺の手をはたきながらそう言うメイ。

 ダメだよメイ! ここでそれ言っちゃったら、その可能性がなくなっちゃうじゃん!


「……油断せず行こう」

 いずれにせよ、首都は目の前に迫っている。

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