第25話 旅の醍醐味
「ふわぁ~~~、暇だな~。盗賊でも出ないかなぁ~」
デール君とメイちゃん、ついでに御者としてクワトを伴い、ハンダートの管轄する領へと向かう。
片道5日程の距離……を馬に回復魔法を使って少し急ぎ足で向かっている。恐らく3日程度でつくのではと予想中。
さすがに道中で訓練する訳にもいかないので、もの凄く暇なのである。
「それは流石に……」
「アレク様は盗賊を手下にしたいんですか? だいたいどこにいるかの情報はありますけど……」
あるんかーい。トロイアの方々は優秀ですな。
「そんなものまであるんですか?」
「うん。そこまで危険じゃないのは放っておいてるけど」
危険なやつらは討伐済み、と。確かに、冒険者のランク上げにはもってこいだもんね。
「冒険者組は今どのくらいなの?」
「えぇっと、確かA―3くらいだっけかな」
トロイアの冒険者組、ブッディ、ヤハウェーイ、アラアラ、シヴマーヌの4名。彼らは諜報系の才はなかったため、冒険者としてチームを支えたり、表の面での情報を集めてくれている。ちなみに、獣人の特徴である耳とかは魔道具で隠している。今回は彼らの出番はない。
「A―3! 凄いじゃないですか! 私なんてようやくA―1になったところですよ……」
「それも凄いよ! デール君はソロだし、召喚も使ってないし!」
そう、まじめな彼は殿下以外に守る者は持たない、とよくわからない縛りプレーをしている。召喚獣もなぜか使っていないようだ。
「しかし、ここのところランクがなかなか上がらないんですよ」
「まぁ、そんな高難易度の依頼なんてあまり出ないよね~」
ドラゴンが何十匹もいたら大変だ。
「まぁ、それだけ王都は平和だという事ですかね」
「黄の後半からはなかなか上がらない、アラアラさんが特に困っていない様子で仰ってました」
「目に浮かぶわ」
あらあら~、お姉さん困っちゃう~と言いながらおっぱいを飲ませてくれる巨乳のお姉さん。
パーシィが奴の毒乳に引っかかってないか心配である。ちなみにおっぱいは魔道具では隠せなかった。
「アラアラさんと言えば、パーシバル王子殿下とシアー王女殿下の家庭教師をしてるんですよね。どんな感じなんですか?」
「結構しっかりやってくれてるみたいだよ? 毎回パーシィとシアが着せ替えられてるけど」
まぁまぁ言いながら毎度可愛い服を持ってきては着せている。されるがままの2人も可愛い。
「……不敬罪にならないんですか?」
「さぁ……不敬では、あるよね……」
今のところ誰にも訴えられたりはしていない……ハズ。
「とは言え、実際アラアラには助かってるよ。パーシィとシアに実用的な魔法を教えてくれてるんだもの。2人とも、俺のためにって頑張ってくれてるし」
「……私としては、殿下の悪い噂を耳にするたびに断腸の思いで無視しているのですが……」
このところの第1王子無能説。デール君が知ってからは色んな人に切りかかろうとするので、事情を説明した。きっと、パーシィたちの成長につながるのだと。
実際、対外魔素すらうまく使いこなせない無能の王子ですし……。
やべっ、何か気分が落ちてきた。
「急に落ち込まないでください、2人とも」
「メイ……そういえば、メイは大丈夫? 変なこと言われてない?」
メイちゃんは獣人と言うことで、連れて来た当初からお互い覚悟はしている。
だからこれはあくまで確認だ。いつもメイちゃんのことを思ってますよと言う。
なので、何て言われようと冷静でいられるはずだ。
「私は……元から獣人だということで色々言われてますし。第1王子の犬とかはよく言われますね」
「よし、今から王宮に戻って皆殺しにしよう」
「ご冗談を……冗談ですよね?」
まじめ系幸薄少女のクワト。
「もちろん冗談だよ。一応、俺は世界を救う使命を帯びてるんだよ? 私怨なんかでそんなことしないよぉ」
「え、笑顔が怖いです……」
転生の代価として命じられた仕事。まずはそれを勝ち抜かなければならない。魔神だなんてものと戦うなんて、怖ろしい。
「女神からの神託、ですか……」
「そそ。まぁ、その使命を帯びているのが俺だけとは限らないし、気楽にやってるよ」
さすがに、転生したとは言いにくいので神託を受けたということにしてる。
別に絶対秘密って訳ではないけども。
「我々トロイアもその役目の一端を担ってるんですね! 何だか、勇気が湧いてきます!」
「……うん!」
言えない……何だかかっこよさそうだったから創設したなんて、言えない……。
「……」
メイさんがジトーっと見つめてくる。メイさんは色々と、全てを知っている。やっぱり長い間片時も離れずにいられるとバレちゃうもんだね。
エリーには気付かれてないけど。サリーさんはどうだろうか……薄っすら気付いてる気がしなくもない。
ちなみに俺が転生者である感想を聞いたところ、『女神には一度会ってお礼を言いたいですね。こうして坊ちゃまと巡り会わせてくれたのですから』なんていじらしいことを言っていた。
「さて、ここいらで野宿でもするか!」
日も暮れてきた頃、街道沿いに少し開けた場所があったのでそこで休むことに。
「一応お聞きしますが、近くの町で宿を取らなかった理由は?」
「旅の醍醐味じゃん!」
「……そうですか」
冷めた目で見つめられる。この良さがわからないのか、このインドア派め!
「では、私はお食事の調達に行ってまいります!」
「おう、頼む!」
お食事の調達って……狩りだよね? 町に行って料理を持ってくるとかじゃないよね? まさかとは思うけどデール君は少し天然なところがあるからなー!
「では、私は馬の世話をしてきますね」
そう言って馬を繋げる場所を探しに行くクワト。
「じゃ、俺たちは拠点の設置を頑張ろー」
「ふふ、子どもみたいにはしゃぐんですから」
いいじゃんいいじゃん! こういうの考えるの楽しいじゃん!
「まずは建物だね。4人だからそんなに大きくなくて……部屋はしっかり分けて……とりゃ!」
「……」
土魔法の応用でこじんまりとした家を建てる。結構魔力を使う。
「お風呂も忘れちゃだめだよね」
「……」
土魔法で穴を掘り、風の魔法でその辺の木をカットして風呂を作る。
「後は焚火を用意して……」
風魔法を使って落ち葉や枝を集める。
「そこは普通の焚火なんですね」
「え? そりゃそうでしょ」
「いえ、失礼しました。他の、寝床とか思ったのと違ったので……」
「……虫、嫌いなんよ」
クネクネは大丈夫だけど。やっぱり大きさかなぁ。何かあいつ、もこもこしてて可愛いし。あいつ呼ぼうかなー、でもみんな驚くだろうしなー。
その後、戻ってきたデール君のリアクションに満足しながら、夕食の『店主のおすすめディナープレートA』を美味しく頂きました。夜営とは。
クワトは意外と順応していた。そんな気はしていたとのこと。
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