第2章 まるで地獄のような

第24話 不穏な予感

「坊ちゃま、本日はお客様がお見えです」


 あれから2年。時に魔法の訓練をし、時にクネクネと遊び、時にダンジョンを周回し、時に潜入捜査をしたり……そんな日々が続いていた。

 外的魔法については、正直上達した気はしないのだが……。


「客?」

「はい。私と坊ちゃまが出会った孤児院の院長です。お通ししますね」

 これまた珍しい。一体何の用でしょう。




「突然の訪問、何卒ご容赦ください。第1王子様にあらせられましては――」

「あー、ご用件は?」

 王族的言葉使いや気遣いは回りくどいしめんどい!


「はっ! 実はお願いがございまして……」

「……申してみよ」

 え、めんどくさっと思ったけどメイちゃんの顔を見て渋々聞いてあげる。メイちゃんに感謝しろよ!


「ある貴族の方についてです。その方は、よく獣人の子を身請けしてくださる方なのですが――」




 ハンダート辺境伯。定期的に孤児院を訪れては獣人の子を身請けしていく。引き取られた獣人は使い潰す……のではなく、比較的平和に暮らしている様子。それなりの労働や兵役を課されるが、基本的には他の人間と大差ない扱いを受けている。


「ふむ? 中々いい御仁ではないか? この国で獣人を手厚く扱うなどなかなか難しいだろう」

 現に俺ですら、表だって連れ歩けているのはメイだけだ。場合によっては獣人の特徴を隠蔽する魔道具を用いている。

 

「そうです。そうなんですが……何か、何かがおかしいのです!」

「何か?」

「はいっ! 何か大きな違和感が……っ!」

「……そんな、漠然とした疑念で地位ある者を調べろ、と?」

 威圧感を込めて睨みつける。


「――っ! は、はい……もしかしたら、もしかしたら何か悍ましいことが起こっているのでは、そう思えてならないのです!」

 おや、この威圧にも耐えてなお望んでくるとは……。


「私は……人間の子も獣人の子も、等しく幸せになって欲しいと願っています! 結果奴隷として引き取られる子を見送ることとなろうとも……それでも願っているのです!」

「……」

 院長は身寄りのない子どもたちが生きられるよう尽力している。この国では獣人の未来は明るくない。それでも、分け隔てなく子どもを慈しみ、その幸せを願っているのだろう。


「お願いです、お願いです……もし何もなければ、この首を差し出します! どうかっ!」

「……そんなもの必要ない。お前はこの国に必要な人間だ」

「だ、第1王子様!」

 涙を流し、歓喜する院長。


「代わりに、10人の獣人の子を献上しろ。時間がかかってもいい」

「……へ?」

 私の喜びを返せ! そんな顔をしている。


 貴族の調査なんて、とてもめんどくさそうなこと。タダ働きなんて御免だ!

 しかし金のない孤児院に出せる物なんか、何もない。そう、子ども以外はね。


「院長、大丈夫ですよ。悪いようにはしないはずです」

「メイディさん、しかし……いえ、あなた様を見ればわかることでしたね。失礼しました」


「何を勘違いしてるかわからんが。できるだけかわいい子を用意して待ってるんだな! はっはっはっはーっ!」

 トロイアへ加入させる人材ゲットだぜっ! もふもふパラダイスの創設もよいな!


 ◆◇◆◇


「さ、久しぶりの任務だよ! 目的は辺境伯の獣人の扱い!」

「辺境伯! 相手は貴族かっ! 腕がなるのうっ!」

「古の者、未だ沈黙を破らん」

「婆はどうせ動かないくせに、だってよ!」

「私たちと」

「同じ獣人」

「の扱い、ですか……?」

「つまり……不当な扱いを受けている、と?」


 血気盛んなトロイアの指導者であるミネフ、実は厨二の使徒だったウーノ、気配察知を限界まで使わないと見失ってしまうシン、男の娘だか女の子だかわからない双子のドスとトレス、幸薄そうなクワト、クールな頭脳にホットな心を持つセイス。


 彼らの力を借りる時が来た!


「かもだよ、かも。そんな気がするーってタレコミがあったのさ」

「何ともまぁ、フワッとしてる……」

「そうなんだけどねぇ~。ま、演習みたいな感じで気楽にいっちゃおー!」

「ちなみにですが、アレク様はどの程度怪しいと?」


「間違いなく、黒」

 その瞬間、緩んでいた空気が引き締まる。


「……根拠はあるんですかい?」

「ない。が、間違いなく何かがある。何もないならそれでいい」

 その時は、爺をいじめてもふもふパラダイスなだけだ。


「……基本方針はどうするんじゃ?」

「んー、その辺は任せるよ。みんなの方がそういう事得意だろ?」

 別に俺、諜報とかそういった知識がある訳じゃないし。


「アレク様はどうするの……?」

「俺は俺で動くよ。視点は多い方がいい、でしょ?」


 ◆◇◆◇


「父上、物見遊山に行かせてください!」


 ってことで、早速お暇を頂戴する。


「……どこに行くつもりだ? 共はどうする?」

「最近暑くなってきましたので、避暑地にある別荘へ行こうかと。共はデールがいれば問題ないでしょう」

「いつ戻ってくる?」

「10日後には。10日後はあれがありますし!」

「……そうか。まぁ、行ってくるがよい」

「ありがとう!」


 意外とすんなり要望が通った。ま、親父は『苦労しているが頑張っている息子』とでも思っているのだろう。

 普段いい子にしていて良かったぜっ!




「アレクー! 聞きましたわよ! 別荘に行くんですの!?」

 お耳が早過ぎる婚約者。盗聴器でもついてんのかね。


 最近はほぼ一緒に住んでいる婚約者。向かいの部屋に色々持ち込んで日中はここで過ごし、寝るときだけ家に戻っている。

 この不良娘めっ!


「あーエリーにお土産があったんだーこのミスリルの鉱石を――」

「ごめんなさいアレク! 私用事があって一緒に行けませんわ!」

 言いながらミスリルをかっぱらい、自室へと向かうエリー。前世はドワーフに違いない。


「ふふ、アレク様ったら行けない人ですね。私へのお土産、期待してますね」

 年々サリーさんの遠慮がなくなってる……いや、最初からあまりなかったかも。

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