第23.5話 幕間 クネクネとの戯れ

「やぁ! クネクネ! 遊びに来たよ!」


 対外魔素を用いた魔法の使用。これが全くうまくいかない。


 そこで、気晴らしにクネクネの所にやってきたのだ。

 このもこもこでグニグニのお腹の感触。何だか癖になってしまった。無限グニグニシリーズ、そんな感じ!


「キシャー! (また来たー!)」

「ほらっ! ついでに糸を貰ってやる!」


 お腹をグニグニ! これでもかとグニグニグニ!

 あー気持ちいいー!


「ほらほらほらほらーっ! 出せっ! 糸っ! 出せっ!」

「キュッ……(いじわるしないでぇ……)」

 足から伝わる感触に満足しながらも、何かがおかしいことに気付く。


「ん? 糸っ! 出せって!」

 いつもなら俺を捕まえようとして糸を吐き出すんだけども……?


「キュッ……キュッ(出さないっ……出さないもんっ)」

「……んん?」

 一向に糸を吐き出す様子のないクネクネ。あれか? 腹でも減ってるのか?


 仕方がない、糸を貰ってからあげようと思ったんだけど。


「しょうがない奴め、ほらクッキーだぞ!」

「キュッ?(くっきー?)」

 我が宮廷料理人が腕を振るって作ってくれたクッキーだ。


「ほら、毒なんか入ってないぞ」

 うん、外はサクッと、中はしっとり。実に美味である!


「サクッ……キシャー(何これ~! 甘すぎっ! 粉っぽいし!)」

「はっはっは! 叫び出すほど美味しいか!」

 いいながら頭と顎あたりを撫でる。


「キュッ!(ふわぁっ!)」

「お、気持ちいのか? ここか? ここがええのんか~?」

 8つの目を細め、気持ちよさそうにしている。


「ふっ、可愛い奴めっ我がテクニックの神髄を見せてやろう!」

 奥義ッ! ムツゴロニック・バースト!


 よ~しよしよしよしっ! お~しよしよしよしよしっ!


「キュ~キュ~(ふわぁ~気持ちいいよぉ~)」


 ◆◇◆◇


「これがなかなかうまくいかなくってさぁ~」

 ここに来た理由、魔法の訓練がうまくいっていないことを、クネクネによっかかりながら零す。


「今までは魔法なら誰にも負けない自信があったんだけどさっ」

 初めての挫折、それと……やっぱり陰でコソコソ言われる悪口。まぁまぁ心に来るものがある。


「キュ?(どこか辛いの?)」

「クネクネ? あったかいな、お前は……」

 クネクネがもこもこした腕で撫でまわしてくる。


「キュッキュ!(撫でられると気持ちいいでしょ! 元気になぁれ~!)」

「クネクネ……」

 

 ◆◇◆◇


 ――クネクネ視点――


「キュ……(寝ちゃった……)」

「すぅ……すぅ……」


 無防備を晒す、かつて自分をいじめてきた人間。


「……」

 いじわるだから嫌い、痛いことするから嫌い。そう思っていた。


 だけど、何だろうかこの気持ちは。


「キュッ(つんつん)」

 空いてる手で、細心の注意を払い、顔を突っついてみる。


「ん~……すぅ……」

 人間は少し身じろいだ後、再び寝息をたてる。


「……」

 百年の平穏を突如として壊した人間。


「……」

 孤独。それでいい。それでもいいと思って来たはずなのに……。


「……キュ~(……あったかぁ~い)」

 今はただ、このあたたかさを感じていよう。それでいい。それがいい。




「キュ……(また、来てくれるかなぁ……)」

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