第23.5話 幕間 大切な人を守りたくて―パーシィ―

「はぁっ!」

「い、いかがですかアラアラさん!」


 王宮の訓練場にて。パーシィとシアーがアラアラと言う、今絶賛活躍中の冒険者から魔法の指導を受けていた。

 先日はAランク魔物のドラゴンを討伐したと騒ぎになっている程の強者である。


「素晴らしいです2人とも~! もう少し発動にかかる時間が縮まりそうですね~!」


 大国の王子と王女がそのアラアラに、優しくも厳しい指導を受けるのはただひとえに兄のため!

 優しい兄を貶める下賤な輩から兄を守るため!


 しかし、このアラアラには! 多少問題があった!




「よしよし、よく頑張りまちたね~おっぱい……はアレクちゃまだけのものだから、こっちのお洋服を着せてあげまちゅね~!」

 それは母性が強すぎること!


「「……ありがとう、ございます」」

 既に王子と王女は調教……慣れ切ってしまっていた。


「あらあら~かわいいでちゅ~やっぱりお2人は天使だったんでちゅね~!」




「パーシィ様、少し肩の力が入りすぎですよ~? 慌てなくてもお強くなっていますよ~?」

 訓練後、休憩をしながらこの日の反省をする。


「……私は、一刻も早く強くならなければいけないのです!」

「お兄さまのために、でしょ? けど、それで体を壊したらお兄さまが悲しむのよ!」

 

 2人の言う兄、アレク第1王子に流れる噂。彼が無能であるという噂。

 これへの怒りが、パーシィとシアーの原動力となっているのだ。


「(アレク様が無能? どうなってるんでしょうかこの国の兵の練度は。いえ、それほどにアレク様が上手く隠されているのかしら……)」

 しかしアラアラは改めて思う。 


「(けど、実力に気付けなかったとしても、エリー様の持つ国宝級の魔道具、その素材の出どころとか、疑問に思わないのかしら?)」

 そこで2人を改めて見る。怒りを原動力に、実力を付けている2人。


「(いえ、きっとみなさん、気付いてて黙ってくれてるのね~。素敵な国ね~!)」




 そう、アラアラは人間の善性を信じすぎるきらいがあった。


 ◆◇◆◇


「あら、パーシィさんにシアーさん。ごきげんようですわ」


 兄の婚約者であるエリーと出会った2人。


「こんにちは、お義姉さま!」

「……こんにちは」


 シアーの方はエリーになついている。

 一方、パーシィはエリーを目の敵にしている。アレク付きのメイド、メイディ・アンがエリーを毛嫌いしているのと同じ理由である! つまり嫉妬!


「まぁ、シアーったら。義姉はまだ早いと言ってますのに」

 言葉とは裏腹に嬉しそうにしながら体をクネクネさせているエリー。




「……エリーさまは相変わらず気楽ですね」

「……パーシィ? 何言ってるの?」

「? 確かに気分は楽ですが……さっきもアレクに――」

 義弟に呆れられながらも、尚も笑顔を崩さないエリー。


「そうじゃなくって! 兄さまが今お辛い目にあわれているのに!」

「パーシィ!」

「シアー、いいのですわ」

「お義姉さま!?」


 日頃の姿を見てか、嫉妬による暴走か、この日パーシィは遂に溜まっていたストレスを吐き出してしまった。


「義弟の苦しみを理解してあげるのも、義姉の役目ですわ」

「――っ! そんなこと言って! エリーさまは兄さまのために何もしていないじゃないか! いつもいつも兄さまとお話したり兄さまに物を強請ったり! もっと兄さまのために何かっ! ――っ、何かっ、してあげてよぉ……」

 嫉妬も混じっているが、心からの慟哭。大事な人の、心無い噂に対してどうしてそんなに気楽でいられるのか。


「お辛いんですのね……魔法の特訓、うまくいっていないんですの?」

「――っ!? うぅっ、ふぐぅうっぅぅっ!」

 真実を言い当てられてしまった。兄の為に頑張りたい、そのために頑張っているのに……思うように強くなれない。涙が止まらない。

 そんなやるせない気持ちを、無力感を理解されてしまった。




「うぅ、エリー、義姉さ――」

「そんなあなた方にプレゼントですわ! 何とこのハンカチ! 持っているだけで全ての魔法のダメージを限りなく減らしてくれる優れもの! まだまだ魔法が苦手なあなたたちにもおすすめの品ですの!」

 せっかく心を開きかけたパーシィだったが――。


「ささ、私とアレクの愛の結晶! あなたたち2人なら持てる資格がありますわぁっ!」

「ありがとうお義姉さま!」

「……」

 やはりこの女は好きになれない、そう思うパーシィであった。




「ふふーん、ですわ!」

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