第29話 悪神ドファクゴーグ


「ほらよ、あそこの魔法陣の中心だ。そこに行け」


 奥に通され、そこには怪しく光る魔法陣が展開していた。


「……この魔法陣は?」

「よくぞ聞いてくれた! この魔法陣は! およそ4万の軍勢を引き連れ顕現し、世界を燃やし尽くすとされる偉大なお方をお呼びする召喚陣だ!」

「……今まで何人ほど生贄に?」

「さぁ? 毎年666人の生贄を66年程捧げる必要がある。今年で60周年! もうすぐだぞ!」

 そうそう、こういうやつらだよ。わかりやすくっていいよね。



「そうか……ならば、俺が早めてやろう!」

「はえっ? 何を言って――」


 ハンダートの返事を待たず、召喚陣に魔力を込めてやる。魔法陣なんだもの、別に魔力でも構わないだろう。魔法陣を見るに、足りない魔力を補うために魂を使っているに過ぎないようだ。


「そんなことが可能……なのか!? 今まで誰も……良いぞ良いぞ! 成功したらお前を配下にしてやろう!」

「断るっ!」

 その間も魔法陣に魔力を込める。そこまで大した量ではないな……この魔法陣、ロスが多いんじゃないだろうか。いや、別の目的に使ってるからか。


「断るって……無駄だぞ? その召喚陣の主となるのはハンダート家になるようになっておるのだ! お前ほど有能な魔法使いを殺すのは忍びない。だから――」

「断るって言ってるだろう! 俺はお前みたいなやつが大っ嫌いなんだよ!」


 優しい顔をして! 心では嘲笑いながら! 弱い者の利益を、尊厳を掠め取るクソ野郎!


 今世こそ! 俺が! こういう奴らから! 搾取してやる! 奪い返してやる!




「出て来いクソ野郎!」

 最後に思いっきり魔力を込めてやる!


「おぉ……おぉ! 偉大なるお方、私が召喚者です! お分かりになりますか!?」

 現れたのは、筋骨隆々の悪魔っぽい見た目をしたモノ。目が異様にギョロッとした馬に乗っている。


「……うぬがハンダート家の末裔か……盟約により力を貸してやろう」

「ははぁ! ありがとうございます! では手始めに邪魔な王都を滅ぼして頂きたい!」

 狭い地下室だからか、小っちゃいサイズの偉大なるお方。何かシュール。



「よかろう。出でよ、我が忠実なる僕ども!」


 出た出た! こいつらだ! 十体の僕とやらが召喚される。


「『超級光魔法ディバイン・レイ』」からの『極大浄化魔法ピュリフィケーション』」

 超級光属性魔法で敵を倒し、強制浄化魔法で昇天させる。いい夢見ろよ!


「……うぬは……?」

「今のやつら、生贄の魂を利用してるんだろ?」

 666人×66年、およそ4万の軍勢。計算頑張った! コツは大体で済ませること!


「うぬは誰だと聞いているっ!」

「さぁ? 元生贄?」

「ふざけるなっ!」

 ……なんだって?


「ふざけないで! いられるか! こんな非道外道クソ野郎! 言葉じゃ言い表せられねぇ! 何だよ、希望に縋ったら生贄にされてお前みたいなゴミ野郎の手下にされて! 自分勝手に体も魂も使われて! こんな地獄みてえな場所で正気でいられるか! もうこんなとこどうだっていいわ! 『ファイヤーボール』!」

「? そんな下級魔法――っ!」


 瞬間、辺り一面を火球が降り注ぐ!


「ぬがぁっ!」

 地下室の天井を吹き飛ばし、ようやくこの地獄に日が差す。


「ひぇっ!」

 ハンダート以下2名は生きている。良かったな、俺の後ろにいて。同じく俺の後方、捕まってる人達に危害は加えられないから。


「デーーール! メーイ!」

「はっ!」

「ここに!」


「この外道どもを拘束せよ! 1人残らず! ハンダート以外の逃げる者は殺せ! 獣人は保護!」

「「承知!」」


 さて、俺は元の姿であろう巨大な姿となったクソ野郎と対峙する。

 今までは建物壊さないように小さい姿でって意外と慎ましい奴だ。ぶっ殺すけど。


「先程のは……おのれ、許さん! 『極大火炎魔法フレア・バースト』!」

「許さないのは俺の方だ! 『極大地魔法タイタニックロア』!」

 火には水……ではなく、土! 激しい炎の爆発と巨大な土塊がぶつかる! そして熱せられた土塊がクソ野郎に襲い掛かる!


「ぐぬぉっ……ハァッ!」

 何と土塊を気合の籠ったパンチで粉々にする! そして高速で飛来する破片!


「『超級風魔法ウインドストーム』! 行けっ!」

 竜巻を起こして石礫を絡めとり、改めて奴に飛ばす。今度は砕けないだろう!


「なっ!? ぐあぁああああああっっ!!!」

「お前みたいなやつ! 徹底的に浄化してやる! 『極大光魔法ヘブンズ・パニッシュメント』」

 極太の光線が頭上から降り注ぐっ! 光魔法の攻撃で浄化されるかは知らんけど!


「ふざっけるなぁ! 何だその魔力量は!? 発動速度は!? 最早か――」

「速度はこっちのが早いぞ! 『超級光魔法ヘブンズ・パニッシュメント』!」

 威力は劣るが、何本もの光線を絶え間なく何度も放つ!


「ぐびゃあぁああああああっっ!!!」

「死ねよ! 死ね死ね!」

 何度も何度も!


「もっ――! やめっ! せめて我が軍――っ!」

「うるさいっ!」

 余計なことを言う口に地魔法で作り出した金属を突っ込む!


「んがッ! あがっ!?」

「くらえっ!」

 さらに奴の顎を下から思いっきり蹴り上げる!


「~~~っ!?」

 最早声にならない悲鳴を上げる偉大な方とやら。




「ふぅ……」

 少し疲れたので休憩。『魔素吸収』で失った魔力を回復させる。


「ガッ……ハ……はは……、ハハハハ!」

 何だ? 気でも狂ったか?


「よ……よかろ……う、うぬは我が……我が全霊を持って対峙するにっ……」

 満身創痍すぎて何言ってるかわからん。


「我が領域にぃっ……来るがよ、いっ!」

 そうしてゲートを開く。

 明らかに罠なんですけど……。


「わ、我は……我の本体はここにいるぞ! 本体倒さないと何度でも蘇るぞ!」

 言動が幼くなってら。こうまでして呼ぶってことは、本体は今までの非じゃない強さを持っていそうだ。

 しかし奴の言う通りでもある。召喚獣は言ってみれば分身のようなもの、本体を倒さないといつかまた復活してしまう。


「ふむ……ん?」

 この感じ、どこかで……?


「お前、もしかして神の類?」

「今更気付いたか! 我は神! 悪神ドファクゴーグ! 火と軍勢をつかさ――」

 なるほどなるほど……。




「いいだろう、お前の誘いに応じよう」

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