第23話 13歳~挫折~

「むむむ、難しいな……」


 先日の適性の儀。あれから王宮内では俺が無能だという噂が流れているとかなんとか。

 ゆくゆくは弟であるギルに王位を譲り、俺はこの世界を見て回りたいと思っているのでちょうどいいっちゃちょうどいい。


 なのでそんなことはどうでもいいのだが、あの件で1つ学んだことがある。

 そう、自身の魔力が枯渇した時、及び何らかの理由で使えなくなった時めちゃくちゃピンチじゃんってこと。


「外的魔力、かぁ……」

 その対策のために目を付けたのが、まずはこれ。


 この世界には魔素、マナが溢れている。全ての生物、全ての物にですら魔素は含まれており、何もない空間にもそれらは満ちている。

 通常は自身の体内にある魔素(内的魔素)を魔力、魔法に変換して行使する。そうではなく、この世界の魔素を使うことができれば……。


 実は、この構想は転生当初からあった。しかしまずは自身の力をつけるのが先、と後回しにしていたものだが、今回のことを受け、改めて特訓している。

 

 外的魔素の活用法として2つ考えている。

 まずは、単純にそれを利用して魔法を発動すること。もう1つは急速吸収。

 急速吸収とは、ようは寝てるうちに回復するような自然回復を早めるようなもの。これについては問題なかった。


 もう1つ、魔法の発動だが……。


「『ファイヤーボール』……まずっ!」

 発動まではどうにかできた、しかし制御が難しい。今もファイヤーボールが辺り一帯で巻き起こり、火の海となってしまった。

 ……これはこれで使えるかも?


「いやいや、制御できない力なんて怖ろしい!」

 言ってみれば、通常の魔法はガソリンを携行缶に入れておいて使用するときだけ適量出して使う感じ。外的魔素の利用は、空気中のガソリンをそのまま使う感じ。

 火の海を消化しながら、まさに現状を表しているなと働かない頭で考える。


「よし、改めて……『ウインド』!」

 弱風を起こす魔法、今度は風どころか竜巻となってしまう。


「『アースランス』」

 土でできた突起物が辺り一面に生えてくる。

 

「『ウォータ』」

 池をひっくり返したような水が撒き散らされる。


「『ライトニング』」

 太陽のような光が生成される。熱くはないけど。


「『アイス』」

 このあたりだけ極寒の地になる。




「さすがに『サンダー』とか『ダーク』とかはやめておこう……取り返しがつかないことになりそうだ……」

 魔力の制御にはかなりの自信があったんだけどなぁ……。


「自信無くすわぁ……」

 一朝一夕では身に付かないもんだ、そう自分に言い聞かせながらも、とぼとぼと項垂れながら今日の訓練は終わりにするのであった。


 ◆◇◆◇


「――っ! ――!」

「――違う、――そんなんじゃ――!」


 さらに数日後、この日の訓練を終え、芳しくない結果に再びとぼとぼと戻ってくる。

 そこで、珍しい組み合わせのギルとパーシィに出会った。何やら言い争っているが……。


「兄さま! どちらにいらしたんですか!」

 そう言いながらムギュッと抱き着いてくる。なるほど、間違えて天国に転移してしまったようだ。


「ふんっ。幼い弟に守られて、どこまでも情けない奴めっ!」

「違う! 兄さまは弱くない! お前なんかどっかいけっ!」

 泣きながら俺を庇っている様子のパーシィ。以前からあまり仲良くはなかったが、ここまでとは……。


「あぁ、退散するとも。兄上の情けなさが移ってしまうからな! はっはっはっは!」

「うぅ~!」

 そう言ってギルは勝ち誇った顔で去っていった。


「ごめんよパーシィ、この兄を庇ってくれたのかい?」

「なんてことはありません! 大好きな兄さまを悪く言う者が許せないだけです!」


 悪く言う者……。

 今やギルだけでなく、何人ものメイドや兵士などが噂している。


 第1王子は無能である、と。

 訂正するつもりはない、ないのだが……。


 それによって俺の周囲の人が傷付けられるのもまた本意ではない。

 どうしたもんか……。


「パーシィ、実はこの兄が、情けない兄が凄い力を持っていたとしたら、どうする?」

「兄さまは凄いお方です! 力なんかなくても! 兄さまは私がお守りします! だから安心してください!」

 パーシィ……。

 これは……パーシィにとっても……?


 よし、パーシィにはそれとなくトロイアの誰かを紹介して魔法を見て貰おう! 光魔法に適性のあるアラアラあたりが適任か?

 ギルも兄である俺より優れていると思うことで自信につながるだろうし!

 エリーとサリーは今作ってる魔道具が完成すれば、滅多なことにはなるまい。そもそも俺が魔法見てるし!

 メイには……一番苦労を掛けるかもしれない……。




「ありがとう、パーシィ。兄はお前に恥じぬよう、できることをやるよ」

「はい、兄さま!」




 この時、別の選択をしていれば未来は変わったのであろうか。

 しかし、挫折続きで自信を喪失していた俺には、そうすることはできなかったのだった。

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