第22話 13歳~適性の儀での失敗~
「これより私が進めさせて頂きます。私は――」
突然、白いローブを着た中年の男が話し出す。誰だ?
「私は聖ゴルディック教会の大司教を務めております、バルツィヘルムと申します。どうぞ、お見知りおきを」
そう名乗り、恭しく挨拶する中年の男。
聖ゴルディック教会、この世界で最も広く信仰されている宗教だ。といっても、元の世界、日本でいうところの神道や仏教に近い扱いで、つまりはまぁ、いただきますの対象がゴルディックみたいなもんだ。
そこの大司教とは、まぁまぁの大物である。上は枢機卿、そして教皇なだけなはず。
いったい、何の用だろうか。
「それでは13歳における、適性の儀を執り行わさせて頂きます!」
「……ん?」
そう、13歳! 13歳と言えば適性の儀!
誕生日なんて特に祝わない世界だし、前世でも似たようなもんだったからすっかり忘れてたけど、13歳の誕生日だけは特別な意味を持っているのだ!
適性の儀! 聞いた話によれば、その者が持つ魔力の適性や総量を調べ、今後の進路に大きな影響を及ぼす、とされている。
なぜ12歳かというと、体内の魔力が安定すると言われているからだ。
この儀を境に、この世界では成人したと見なされ、お酒も飲むことを認められているし、仕事に着ける幅も広がっていくのだ。
「喜べ、アレク。クイードァ第1王子であるお前だから、わざわざ教会の大司教を呼んで13歳になった瞬間に儀式を行うのだ」
「期待してますよ、アレク」
あー、そういう事! そいえば、俺ってば第1王子だった! 今まで碌に会話もしたことのない母親まで期待の眼差しをしていらっしゃる!
見慣れない人に警戒してしまったが、なんてことはなかったな!
「ありがとうございます! 父上、母上!」
「うむ」
「それでは、こちらの魔道具に全力で魔力を通してください!」
恐らく、水晶のようなこの魔道具に魔力を通すことで、以前俺がエリーたちにやったように属性の通りの良さを調べてくれるのだろう。
ならばやることはただ1つ! 膨大な魔力を注いで水晶を破裂させる! さらには世界初の全属性の適性を叩きだすこと!
「承知しました……ぬおーーー!」
「兄さま! 頑張って!」
できるだけ属性を均等に! ありったけの魔力を……っ!
チョロチョロチョロ……。
あ、あれ……?
「お、お兄さま……?」
「くっ! うりゃーーー!!」
チョロチョロ……。
「何と、兄上……」
「だぁーーー!!!」
チョロ……。
そして訪れる虚脱感……あ、あれぇ? こんなはずは……。
「第1王子様の魔力は……総量C、適性は……」
「適性は……?」
「……適性は、なし、でございます……」
そ、そんなぁ……どうしてぇ……?
「そ、そうか……」
「……チッ」
親父がとても残念そうに、そして母親は親の仇のような顔で俺を睨みつける。
「に、兄さま! 魔法の才がなくっても! パーシィは兄さまを慕っております!」
「シ、シアーもだよ! さ、お料理を食べて元気だそっ!」
うぅ、2人の圧倒的天使感……!
しかし、久しぶりの家族そろっての食事はかつてないほど気まずいものとなってしまった……。
そして失意のまま自室に戻り、呆然としたまま眠るのだった。
「(何故っ! 何故あのような者がっ!)」
「(くふふ、これは使えそうですねぇ……)」
適性の儀の結果よりも、暗い感情に気付けなかったことがこの日1番の失敗であることにも気付かずに……。
◆◇◆◇
「ってことがあってさぁ~」
翌日、エリーに糸を渡しながら、復帰したメイとサリーさんに話しかける。
エリーはですのですのいいながら糸を調べ出し、既に会話にならない。
「それは……坊ちゃま、あの糸への魔法付与はいつ頃?」
「え? そりゃ昨日の夜だよ。糸を回収してきて、それから……ぁ」
そういえば……あの時ほとんど魔力は空になってたんだっけ……。
「たまに抜けているところがあると思っていましたが……」
「うぅ……」
「でも、アレク様にとってはその方が都合がよろしいのでは?」
サリーさんがそんなことを言う。
「隠されているのでしょう、その実力を」
「……確かに!」
それもそうだった!
「でなければ、あのように国宝級の魔道具を量産させられますものね……」
言いながらエリーを見やる。
「すごいですの! この辺は『睡眠耐性』、こっちは『火属性耐性』! ですのーっ!」
「嬉しそうですね……」
「そうね……ってどんな効果かわかるの?」
俺エリーに糸の説明してないけど! 鑑定などの魔法が存在していないため、魔法の効果を調べるにはそれ用の魔道具を使ったり、自身で丁寧に観察、解析しなければならない。
エリーがそうしている様子はないんだけど……耐性系なんてわかりにくい効果なのに。
「え? 見ればわかりますわ!」
「……すごい、私にはわかりません……」
「私もです」
エリーの意外な才能に驚いていると――。
「それではサリー! 行きますわよ!」
「エリー様、お帰りになられるのですか?」
「えぇ! 早くこの糸を使って作りたいんですの! アレク! ありがとですの!」
「お、お待ちください! し、失礼します!」
ちゅっ!
帰り際に頬に口付けて急いで帰っていくエリー。
これでしばらくはこっちに来ないだろう。次も似たような手を使おう!
「……何だか、かわいそうなことを考えていませんか?」
「ソソソ、ソンナコトナイヨ! これでメイちゃんと2人っきりだなと思っただけだよ!」
心を読まないで頂きたい!
「もぅ! 坊ちゃまったら……」
よし、チョロい。
「ところで、私には何を下さるのでしょうか」
「……」
つ、強い……。
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