第20.5話 幕間 トロイア

「さて、そろそろ本格始動のときか」

「そうっすね……」


 先日、王宮の兵士や隠密の方々を欺き通した我が私設部隊。その実力が申し分ないことが証明されたため、本格的な活動に乗り出す。

 しかし、本格的な活動って何だろう……雰囲気で創設を決めたからなぁ……。


「まだまだじゃがな。ま、実戦でしか得られないものもあるじゃろ」

「地獄の訓練の日々ももう終わりか~、長かったなっ!」

 ミネフの婆からもOKを貰う。


「ボス、本格始動の前に1つお願いが……」

「そうそう、実はずっと思ってたんすよ~」

 部隊のリーダー、コードネーム:ウーノがそう切り出す。


「私たちの部隊に」

「名前を付けて欲しいの」

「とびっきりかっこいい奴をね!」

 非常に似通った見た目をしているドスとトレス。どっちかは女の子でどっちかは男の娘だ。


「名前があれば、もっと頑張れる」

「一体感って言うか、仲間って感じがするよな!」

 大人しくてまじめなクワト。


「アレク様、どうかお願いします」

「世界に轟くような名前を頼んますぜ! って、諜報機関の名前が轟いちゃまずいか! ははっ!」

 見るからに頭脳系のセイス。


「ふむ。では、遠い異国の地に伝わる神話になぞらえ、『トロイア』と名付けよう!」

「おぉ、神話っすか! その名に恥じぬよう頑張りますよ!」

 有名な『トロイの馬』何となく、スパイと言って頭に浮かんだのがこれだった。

 何でだろう……上司がエロサイト見てて感染しちゃったからかなぁ……。


「悪くない名じゃな。ここにいるウーノ、ドス、トレス、クワト、セイス。それとここにはいない、諜報には向かなかったが表の面で支援する4名を加え、計10名の部隊じゃ! 存分に使うがよい!」

「うむ、期待しているぞ。基本的には自由に動いてもらい、有事の際は力を借りていくからそのつもりで頼む!」

「任せてくれ大将! ……ん?」

 挨拶を終え、今日の所は一先ず解散としよう。




「アレク様……」

「どうした、クワト」

 帰ろうと思ったところ、大人しい系諜報員のクワトが話しかけてくる。


「私……私は、ここに連れてきてくれた事、本当に感謝しています。もしあのまま孤児院にいたら良くて奴隷、酷ければ……」

 物好きな貴族のおもちゃ、か。どちらにしろ碌な目には合わなかっただろう。


「だから、私何でもします! アレク様のためならなんだって……!」

「……気持ちは嬉しい。けど、何だって、じゃなくていい。女の子なんだから何より自分を大切にね。その上での頑張りを期待してるよ!」

 正直クワトみたいな子にハニトラされる奴が羨ましいからな! そんなことはさせん!


「アレク様……はい……はいっ!」

「感激しましたぜ大将! 特に優れたとこのない俺っちですけど! 精一杯頑張りますぜっ!」

 正直クワトのような子は向いていないんじゃないかと思わないでもないけど、まぁ彼女の選択を尊重しよう。


「ところで、シンのやつはどこ行ったのじゃ? こんな大事な時に……」

「どこにも」

「いないね」

「全く、シン君はしょうがないですね」

「リーダーとして、一言注意しなくっては」

「アレク様に会うのに……失礼」

 他のメンバーもシンがどこにいるかわからない様子。


「全く! せっかく会いに来てやったってのに!」

 失礼な奴だ!




「………………最初からいるよ……隠れてもないし会話もしてただろ……してたよね? あれ?」


 ◆◇◆◇


 諜報部隊。まず名前の響きがかっこいい。闇に紛れ、場をかき乱し、勝利へと導く。やばいかっこいい。


 さっそく一緒に何かしたいな~!

 とは言え、すぐに怪しい情報が手に入るとかそんなことはない。目標があるのならまだしも、漠然とした怪しい噂話はそれこそごまんとある。


 そこで表の活動をしながら重要そうな情報を仕入れてくる担当が先日いなかった4名だ。彼らは冒険者として活動しながら情報収集をしている。とある事情により、隠密には向かないということで、こうなった。




「拙僧はブッディの名を賜りました。以後よろしくお願いします」

「よろしくブッディ! 今日もいい筋肉だね!」

「はい。主君の敵を灰燼に帰すため、日夜励んでおります」


 以前、訓練の後に労いのつもりで『今後とも励むがよい』と言ってから毎日のように激しい筋トレをし続けたブッディ。腕の筋肉は俺の腰より太い。

 諜報員としてはまじめ過ぎたらしい。いや、筋肉が問題なのではなく、まじめすぎて不正を見つけたらすぐに叩きのめしちゃうらしい。悪・即・滅!


「ち~っす! アレクっち! 俺っちはヤハウェーイだうぇーい☆ おひさぶー!」

「あ、ヤハウェーイもこっちか。てっきり隠密側かと――」

「それな! 俺っちも絶対そうだと思ったんだけどさっ! 印象が強すぎて無理ポヨだって! ウケんね!」


 さもありなん。彼風に言うと、それな! コミュニケーションは高い系なんだけど、印象が……。

 それと、基本的にチャラ過ぎる。獣人のくせに人間にモテてる。意味不。


「あらあら~、アレクちゃまは今日もかわいいでちゅね~!」

「アラアラ、おはよう。一応俺王子だからね、不敬罪だからね?」

「まあ、お姉さん困っちゃう~おっぱい飲む?」

「飲む」


 アラアラである。あらあらまあまあ系……つまり、おっとりしすぎてて隠密に向かない。

 後おっぱいでかい。牛系獣人なので、出る。実に美味しい。何だか甘い味がする。

 一応羞恥心はあるようで、こっそり飲ませてくれる。これはいやらしい行為ではない、あくまで食事だ。


「シヴマーヌ、破壊と創造、維持を司る者也」

「シヴマーヌ、君らの目的は神になることではなくて、情報収集だからね?」

 象系の獣人、思想が危険すぎてこちら側である。や、言うほどヤバい奴じゃないけど……。




「この4人でパーティ組んでるの?」

「そだよ! もうランクC―4だって、ウケるっしょ!」

 え、普通にすげぇ。活動始めたのってつい最近よね、君たち……。


「拙僧たちが冒険者活動をしながら情報を集め、さらにみんなの生活費も稼いでいく所存です」

 縁の下のどころか、大黒柱だった。


「お姉さんに任せてね!」

 アラアラ……何か、すごく心配。


「一度すべてを破壊してから再生していくのだ……」

 頼むからトロイアは破壊しないでね。




 何はともあれ、頼りになる仲間が増えたってことで! これから頼むぞ!

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