第20話 12歳~はじめてのたいけん~

「んっ……パー……だめっ……んあっ!」


 はっ!? 何やら素晴らしい夢を見ていた気がする。


「ん?」

 何やら下着に感じる不快感……。それを自覚したとたん、猛烈な虚無感と倦怠感、それに無力感に襲われる。

 そうか、通ってしまったか。


 うむ。


 ◆◇◆◇


 ――その夜。


「それでは坊ちゃま、おやすみなさい」

「まっ! 待ってくれメイっ!」

 震える心を必死に奮い起こす。


「いかがなさいました?」

「そ、そのぉ……よっ……とっ」

 だめだ、うまく言えない……っ!


「何ですか?」

「あ、いや、うん。……とっ、とっ!」

「とと?」

「ちっ! 違っ! ……と……ぎぃっ!」

「とぎぃっ?」

「~~~っ! とぎっ! とぎたてのお米を食べたいなぁっ!」

 ポリポリッとな!


「? どのような料理ですか?」

「と、遠い異国の料理だ……手に入れるのは難しいだろうな……すまない、忘れてくれ!」

 さすがにとぎたては食べないだろうけど。


「はぁ。それでは、おやすみなさい坊ちゃま」

 ……自分がこんなにヘタレだったなんて……。


 いや、うすうす気付いていたが、体の年齢に精神も引っ張られる傾向があるよね。だからしょうがない、しょうがないんだ……。


 はぁ……。


 ◆◇◆◇


「母上、折り入ってご相談がありまして……」

「あら、アレク様。お久しゅうございます」


 かつての俺のお付きのメイド。現在は親父の第3夫人であり、パーシィの母親。つまり、かつて親父が寝取ったメイドさん。

 名目上は母ではあるが、俺としては親戚のおばちゃんみたいなもんだ。決して初恋の人ではない。


「いかが致しました? ふふ、またお世話して欲しいとかですか?」

「ち、違いますよぉっ!」

 どうもこの人には逆らえないというか何というか。


「そ、そのぉ……メッ、メイッ……よとっ……めいっ!」

「はぁ。アレク様ももうそのようなお年になられたのですね。メイドに夜伽を命じたいけどどうしたらいいかわからないなんて、意外と初心なところもあるんですね~」

 良かった、無事伝わった。

 そう、そう言うところが……何でもお見通されちゃうこの感じが苦手なのだ!


「そんなの簡単ですよ。『抱かせろ』、それだけでいいんですよ」

「それができないからっ!」

「それでは、『奉仕しろ』とか?」

「――っ、……い、言えない……」


「う~ん。ではまずは私がご奉仕してあげましょうか?」

「――っ!」

 思いもよらないところで寝取り返すチャンス!?


「多分、今の状態ですと……女性とのそういう事に慣れるのが一番かも知れませんね~」

「――っ、~~~っ! ……いや、やめておく……」

 どうにもメイに責められる顔が浮かんでくる。ついでにエリーの顔もちょっと。


「まぁ、うふふ! 心に決めた方がいるのね。私は応援しますよ。でも、あまりお待たせすると、逃げられちゃうかもですよ?」

「が、頑張るよ……」

「フレー! フレー! お・う・じ!」

 母親に初体験を応援される俺。義理なだけまだましか。大差ないか、そうか。


 ◆◇◆◇


 パーシィの母と話した後、何となくデール君のところに向かう。


「私に好きな人、ですか?」

「うん、許嫁とかいないの~?」


 こういう話したことなかったなぁ~と思いつつ、無難なところから切り出す。

 いきなり、メイドに夜伽させたいんだけど、なんて言ったら俺への忠誠心が無くなりそうだし!


「両方ともいませんね。今はそれよりも鍛錬しなければ! 殿下より賜ったナイツがあるとは言え、日々の努力を積み重ねていかなければいざというとき戦えませんので!」

 ……デール君の笑顔が眩しすぎて、焼き尽くされそうだ。


 真っすぐな目をして、守るべきもののために努力している臣下。

 一方、頭の中が絶賛桃色パラダイスな主。


「……ナイツはデール君の力で掴み取ったものだよ! このまま頑張ってれば大丈夫さ!」

「ありがとうございます、殿下!」


 すまない……煩悩まみれですまない……情けない主ですまない……。

 

 ◆◇◆◇


 ――その夜。


「坊ちゃま、おやすみなさい……」

「う、うん。おやすみ」

 あ、明日だ! 勝負は明日! 頑張れ明日の俺!

 デール君の件で萎えたのもあるけど……やっぱり長年一緒にいたこともあり、こっぱずかしさの方が強いんだぁ。


「ぼ、坊ちゃま……よっ……よっ……」

「ん? 何だって?」

 よっ社長! 的な? あ、俺王子だった。


「……ょ、とぎ、致します、か?」

「…………(コヒュッ!)」

 へっ変な息の吸い方したっ!


「サリーさんに聞きました。お付きのメイドはそう言ったことをするものだと。私がそれを教わらなかったのは、坊ちゃまが守ってくれたからではないか、とも……」

「あ、あぁ……」

 確かにそうですけども!


「……嬉しかったです。坊ちゃまはいつも私を守ってくれている……私も、それに応えたいのです」

「う、うむ。い、いや、礼には及ば――」

「お慕いしています、坊ちゃま……」




「――っ、俺も、だよ。メイ……」

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