第19話 10歳~はじめてのそざいあつめ~

「う~む、どいつがいいか……」


 昨日、2人に魔道具を買ってあげたのはいいんだけど……。


「まさか、効果の高い付与を施すには素材にも気を付けないといけないとはね……」


 今までのように、ある程度は魔法技術でごまかせるが、『全状態異常耐性』と言えるレベルの付与を施すにはSSランク、伝説級以上の素材が望ましいらしい。

 そもそも『全状態異常耐性』なるものは存在しないようで、それを再現するには、『睡眠耐性』『麻痺体制』といった耐性系全てを詰め込む必要がある。


 格好つけた手前、すぐに用意しなければならないっ……! 単純に2人を守るためにそのレベルのものを用意したいっ!


 そこで来たのがここ、王宮の書庫。

 王国随一の埋蔵量を誇るこの場所なら、いい感じの素材を調べられると思ったのだ!


「次は……お、これは!」

『四十八手を極めた先にあるモノ ~神話級のテクニックへ至れ~』。

 ふむ、実に興味深い。しかし、これは今夜の楽しみにとっておこう。


「ん……これなんかよさそうだ」

『超危険生物図鑑 出会ったら即転移で逃げよう!』

 おぉ! 転移が使えるほどの強者ですら、逃げの一手が推奨される魔物図鑑か!



 なになに……お、こいつならどうだ?


 『大蜘蛛アトラク・ナクア。とある伝承から付けられた怪物である』

 『同属であるはずの仲間ですら怯えて距離を置き、時折冒険者の強者が彼の者に挑戦しようとするが、相対した瞬間に平伏し許しを請う』

 『彼の者の吐き出す糸は強大な魔力を秘めており、利用できれば強力無比な素材になると思われる。ただし、その糸を無事に持ち帰られた者はいない』

 『仲間と群れる必要のない彼の者は、ただ1匹険しい山脈の暗い谷間に寝床を作っている』


 めちゃくちゃ詳しく書いてあるな……さすが王宮の図書!

 これは『四十八手』の方も期待ができますわ!



 

 ◆◇◆◇




「さてさて、地図によるとこの辺らしいが……あ、いた」

 高速飛行で1時間ほど。

 辿り着いた岩山を『気配察知』で探ってみると、ひと際大きな存在感のある者がいた。


 少し観察してから糸を貰おうと、上空でホバリング。


「キュッキュッ!」


 キュッキュというのは鳴き声だろうか。何を言ってるのかはわからない。

 糸を出しては千切って、さらに出しては千切っているようだが……。


 しばらく観察してるが、それをひたすら繰り返している。


「……飽きた! さっさと糸を貰おう! とりあえず、お腹踏んでみよっか」

 グニャッ!


「キシャー!」

「おっと!」

 膨大な魔力を込めた糸が吐き出される! 余波で周囲が更地になったぞ!


「お、この糸か……いいね、いい感じだ! もっと出してよ!」

 糸を掴んで見てみる。なかなかいい手触りだ。

 さっそく『空間収納』にしまって、と。


「ほれほれ! もっと吐き出せー!」

 追加の糸を出させようと蜘蛛の腹を踏みつける。


「キシャー! キシャー!」

 何だか悲鳴みたいで可哀そうだな……やめないけど。




 そんなこんな、しばらく糸を吐き出させていたけどもういいだろう。


 心なしか涙目になっている大蜘蛛。

 討伐しちゃうのは可愛そうな気がするから勘弁してやろう。


 ……糸もまた欲しいし!


「ありがとう! なくなったらまた来るね!」

「キュッ……」

 悲しそうな蜘蛛を尻目にクイードァへと戻るのだった。


「さてさて、この糸をどうしよっかなぁ~。一応伝説級の魔物から採れた物だし、口が堅くて裁縫が得意そうな人……あっ!」




 ◆◇◆◇




「それで、私ですか?」

 エリーのメイド、サリーさん。本名はサリュエルミ・ハミルトン。エリーと出会ったその日にサリーとあだ名付けられたそうな。何でも『せっかくならお揃いにするですの!』とかなんとか。何がせっかくなのやら。

 

「(チラッチラッ)」

「うん、お願いできないかな? 自分じゃ上手くリボンにくっつける自信がなくって……」

「え、えぇ……私は構いませんが……」


「コホンッ(チラッチラッ)」


「それじゃあ!」

「あーいえ、実はお嬢様の刺繍の腕はかなりのものですので――」

「どうしましたかアレク! 私に何か頼み事でもありますの!?」

 さっきからチラチラ見ていたのは、そう言う事か。


「あ、エリーも刺繍得意だったよね! だったらお願いしちゃおっかな~!」

「仕方ないですわね! 仕方ないからやって差し上げますわ! お礼は新作の魔道具で結構ですわよ!」

 そうなっちゃいます? 何だよ新作の魔道具って……。




 そうして数日後、『リボン』は完成した。思いの他、エリーの腕前は本当に素晴らしく、ごくありふれたものだったリボンに一気に高級感が出て、貴族のパーティなどで付けても問題のない代物となった。

 シアーは俺の婚約者が刺繍を入れたことを知ってさらに喜んだが、パーシィは微妙な表情をしていた。

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