第18話 10歳~はじめてのおてつき~

 ギルドの中をササっと見て、今は近くのお店に来ている。

 ギルド内は特に見る物もないし……何より、俺にもの言いたげな連中が何人かいて居心地がとても悪いため、急ぎ足で出てきた。

 

「見てください兄さま! 魔道具ですよ!」

「冒険者がダンジョンで得た物を買い取って、こうやって売ってるんだね」

 そこには、アクセサリーや武器、防具などが並んでおり、一部の商品の下には魔道具の効果らしい説明が書いてある。


「わぁー! 大きい杖~! 『火の初級魔法を使用できる』って書いてありますよ!」

「金貨5枚ですって! 買っちゃおうかしら~!」

 ふふ、2人とも目をキラキラして見ている。2人はまだまだ魔法をうまく使えないから、憧れもあるのだろう。

 金貨5枚とは概ね一般市民の年収5年分、この程度のものにそんな価値があるのか……?



「こちらの魔道具は、魔力を通すと『ファイヤーボール』などが発動するのですよ。火の適性を持たない方がよく購入されます」

「適性が無くても使えるのですか?」

「はい。魔力を流せば誰でも使えるので、大変貴重な物なんですよ」

 何も知らない子どもだと察してくれたのだろう、店員さんが丁寧に教えてくれる。

 

 それにしても、適性か……上手い下手はあるだろうけど、初級くらいは誰でも使えるようになるんじゃ……。

 いや、確かに短所を伸ばすよりはその時間を長所を伸ばすのに使った方が効率的だな!

 誰でも俺みたいに長い時間魔法の訓練ができるって訳ではないんだ。




「そうなんですね! それにしても、たくさんあるんですね~」

「わぁー! このイヤリング、可愛い!」

 女の子のシアーは効果よりも見た目が気になるようだ。どこかの誰かさんの顔が浮かぶですの!


「これもかわいい! えへへ、今日の記念に買っちゃおうかな~!」

「それいいね! 私も買っちゃおうかな~!」

 何の記念かはわからないが、兄としていいところを見せるチャンスだ!


「2人とも、気に入ったのがあったら言ってね。記念に俺が買ってあげるから」

「本当!? お兄さま大好きっ!」

 そう言って抱き着いてくるシアー。


「わ、私だって、兄さまの事……大好き……」

 照れながらも、控えめに抱き着いてくるパーシィ。

 あっあっあーっ! だめだよパーシィっ! そんなっ愛らしい姿をっおっおっ!


「……さ、好きなのを選んで!」

 いかんいかん、危うくトリップしてしまうところだった。


「(何かよからぬ気配を感じましたが、大丈夫ですか?)」

「(大丈夫だ、問題ない。警戒を続けろ)」

 何かを察したらしい隠密部隊から通信が入る。うむ、我が部隊は有能だ。


「う~ん、これとかいいなぁ~! けど兄さまに買ってもらうなら……こっちかなぁ~!」

「ふむ、この指輪の効果は防御+1に『即死回避』と『金剛』の魔法付与みたいだね」


「お兄さま、このイヤリングはどうですか? ふむ、攻撃+1に同じく『即死回避』と『金剛』が付与されているみたいだね」

「あ、あのお客様。そのような最上級レベルの付与は――ヒィッ」

 近くにいた隠密部隊の1人が店員を睨みつける。


「? どうされたのでしょう?」

「どうしたんだろうね。あ、これなんかどうだい? パーシィによく似合ってるよ」

 そう言って赤に金の刺繍を施したリボンを示す。


「これには『全状態異常耐性』が付与されてるみたいだね」

 つまり、何も付与されていないただのリボン。


「う~、お兄さまが選んでくれたリボンっ! でもでも指輪も貰いたいしぃ~……」

 うんうん一生懸命悩むパーシィ。


「私はこのイヤリングにする!」

 あまり悩まなかったシアー。


「決まったかな? それじゃあお会計してくるね」

 そう言って指輪とイヤリングとリボン2つを持って店員さんの所に向かう。


「えっ兄さま……?」

「ふふ、いいんだよパーシィ。兄にかっこいい姿をさせておくれ」

「お兄さまありがとう!」

「兄さま……」


 商品を持ち、颯爽と向かう。そして、途中で気が付いてしまった。


「(手持ちが……ない……)」


「お、お会計、金貨6枚と銀貨4枚になりますが、大丈夫でしょうか……? 多少ならお安く致しますが……」

 1歩2歩と近づくたびに顔色が優れなくなるのを見て悟ったのだろう、店員さんが気を使ってくれる。


「いや、そのままの値段でいい(だからツケといてくれませんか……私、こういう者でして……)」

 言いながら王家の紋の入ったペンダントを見せる。


「――っ。ふふ、かしこまりました。良かったねお嬢ちゃんたち、優しいお兄ちゃんで!」

「はい!」

「うん!」

 全てを察した店員さん。若いのに有能な子で助かったぁ! お礼に多めの金貨と俺のサイン付きのアクセサリーでも送っておこう!




 その後はいい時間ということもあり、2人の満足気な顔を眺めながら帰路に就いたのだった。




 このときはまだ、第1王子が町の娘に手を出したという噂が広まろうとは露にも思わなかった。

 まさか名前付きの物を送ることがそういう意味を持っているとは……!

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