第17話 10歳~はじめてのきょうだいのかくしつ~

「兄さま! こっちです!」

「お兄さま! 早く早く~!」


 今日はパーシィとシアーを連れてお出掛け……というより、先日の市内視察のリベンジに来ている。

 こっそり後をつけている護衛の数は倍以上、円の形を保つように移動している。

 その更に裏側で隠密部隊の方々が控えている。


 もちろん、このことは俺を含め本人たちには知らされていない。はじめてのおつかい的要素も備えているからである。

 俺が警備の状況を知っているのは『探知』の魔法を使ったからである。


 まぁ、こんだけ厳重なら前回みたいなことには……おっと、やめておこう。滅多なことは言わない方がいい。

 2人とも前回はあんなに怖い目にあったというのに。俺とお出掛けできるからって楽しみにしてくれていたそうだ。


 


 何と兄冥利に尽きることか!

 期待を裏切る訳にはいかない。ということで今回は俺も本気で守護らねばならぬッ。


 まずは、今回が初出動の我が隠密部隊。

 2人交代制で常に誰かが3m以内にいるように配置している。王宮側の体制に怪しまれないように、というのを今回一つの課題としているが、今のところ問題ない。いや、問題ないのが問題か……。


 次に、彼らに渡した魔道具。通称『スマホ』。お分かりだと思うが、通信機である。

 この世界ではまだ開発されていないごりっごりのオーバーテクノロジーである。これが流出してしまえば、戦争の在り方が変わるだろう代物だ!


 と言っても、対になってる魔道具同士でしか通信できないし、着信履歴とか残せないから常に着信の反応を意識していないといけない。

 これが結構厳しく、実用性に欠ける点でもある。

 まぁ、今回については問題なく、このスマホを用いて緊急時には即座に連絡を取ることが可能なのである!


 最後に、パーシィとシアーの2人には注意しなければ気付かれにくい程微弱な魔力を発信する魔道具を持たせている。つまり、GPS的な役割だ。

 これさえあればどこにいても俺が『転移』できるという寸法だ!


 これだけ対策を練っていれば問題な……おっと危ない。一番いけないのは油断してしまうことだ。どんなに完璧な計画でも必ずヒューマンエラーというのは起こってしまう。原点にして結論、それは絶対に油断しないこと!




「見てください! 果物があんなにたくさん並んでます!」

「わぁ~、果物ってああやって育てるのね!」

 なにやら勘違いしていそうなので訂正しておこうか。


「果物はあそこで育ててるんじゃなくて、畑で育てるんだよ。収穫したものをああやって売っているんだ」

「そうなんですか! 兄さまは物知りですね!」

「さすがです!」

 んん~! やっぱり2人とも可愛いなぁ!


「兄さま、何やら美味しそうな臭いがしますよ!」

「こっちです!」

「あはは、待ってよ2人とも~」

 串焼きの屋台を見つけて駆けだす2人。


「わぁー! これはなんですか!?」

「おう、嬢ちゃんたち! これはウルフの肉の串焼きだぜ! 嬢ちゃんたちには硬くて食いにくいかもなっ!」

 丁寧に説明してくれるおっちゃん。


「市民の方はよく食べられるんですか?」

「おうよ! おっちゃんのウルフ焼きは絶品だからな! 味は保証するぜ!」

「じゃあお1つくださいな!」

「あいよ! ちょっと待ってな!」

 背後で兵士の方々が慌てている。そりゃ、直接口に入るもんだと尚の事危ないからね。


「(問題は?)」

「(ありません)」

 袖口に仕込んであるスマホを用いて確認する。彼らがどのように確認したかは問題ではない。必要なのは安全かどうかの事実である。


「あいよ! おまっとさん!」

「ありがとう、店主よ。2人とも、俺が先に食べていいかい? お腹が減っちゃってさ!」

「あっ! 兄さまずるいです!」

「も~! お兄さまったら!」

 文句を言っているが、笑顔で譲ってくれる2人。くぅ~、なんていい子たちなんだ! 責任もって毒見するから許しておくれ!


「うむ、少し硬いが大変美味である。店主よ、励むがよい」

「へへっあんがとよ! 何だか偉そうなあんちゃんだな!」

 おっと、一応お忍びだった。


「(お兄さまが食べた串焼きっ! お兄さまが食べた串焼きっ! はわわわわ~!)」

「? パーシィ食べないなら先に頂くわね!」

「あっ! あああっ! シアーっ! なんてことを!!!」

「おいおい、慌てんなって! もう1本やるからよ!」

 そう言って気前よくもう1本くれるおっちゃん。


「母ちゃんには内緒だぜ!」

 キラッと歯を光らせながらスマイルまでくれるおっちゃん。

 それはできない約束だ。第1王子の名で大々的に感謝状を送らせて貰おう。


「あ、ありがとうです……」

 ? パーシィ、もっと嬉しそうにしたらどうだ?


 ◆◇◆◇


「チッ、いやな顔を見た」


 串焼きの屋台を離れ、次に訪れたのは冒険者ギルド。

 そこで思いもよらぬ顔に出会った。いや、ほぼ毎日あってるんですけど……。


「ギル! 元気かい? 冒険者ギルドで何やってるんだい?」

「ふん! 兄上には関係ないと言いたいところだが、教えてやろう! 見ろっ!」

 そう言ってランク証を見せる。


「おぉっ! Dの3じゃないか! 登録したばかりなのに凄い! さすがギル!」

「ふん、当然だ。私は兄上より優れているからな! 今だってステッペンウルフの討伐依頼に向かうところだ!」

 ステッペンウルフ、ゴブリンやコボルトよりも強靭な肉体を持ち、小規模の群れでの連携が得意と聞く。

 そうか、ギルも頑張ってるんだな~。


「本当に凄いよギル! 立派な弟を持って僕も鼻が高い!」

「……チッ。行くぞ!」

 そう言って護衛を伴い去っていく。


 ギルはとても頑張り屋さんで、俺に負けじと色々頑張っている。

 俺が冒険者登録をしたと聞いて、ギルも冒険者登録したそうだ。そして先程見せたようにどんどんランクを上げている最中である。


 うんうん、頑張れ! 兄は応援しているぞ!




「……私はギル兄さまはあまり好きではありません……」

「私もちょっと苦手だな~……」

 ギルが遠ざかったのを見て、2人がポツリと漏らす。


「どうしてだい? ギルは頑張り屋さんで可愛い奴じゃないか!」

 おっと、弟から見て兄を可愛いと思うのは違うかな?


「何だか……兄さんを目の敵にしているというか……」

「だからこそじゃないか! 兄に負けじと張り合ってくる。そこがまた可愛いんだよ。って言っても、2人にはわからないかな」

 張り合ってくるってことは、目標にしてくれてるってことだしさ。まぁ、家族愛なんて理屈じゃないのかもね。


「……私より、可愛いですか?」

「パーシィが一番かわいい(真顔)」

 それはそう。


「兄さま……」

「パーシィ……」


「もぅ! お兄さまったら、パーシィばっかり!」

「はっはっは、シアーもかわいいよ」

「パーシィとどっちが可愛いですか?」

「……ほら、ギルドの中を見てみよう!」

「うぅ、ひどいですお兄さま……」

 すまない、嘘はつきたくないんだ……。

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