まぁまぁクズの英雄譚～今世こそ俺が搾取する側に！～

第１５話 １０歳～はじめてのかくせい～

「さて、そろそろ行きますか！　エリー、おいで」

「はーい、ですの！」

　何も考えてなさそうな顔でおんぶされるエリー。

「……」

　メイちゃんも大丈夫そうだ。

「情報によると、残り１層を下ればボス部屋に到着するようです」

　デール君がまじめに報告してくれる。

「よしっ気力も体力も回復したことだし！」

　そろそろ、やっちゃいますか！

　再び歩きだす俺たち。曲がり角を曲がる。すると――。

「……？　殿下、何やら様子がおかしい気が……」

「？　そうか？　俺には何も――っ！」

　突然現れた黒い影。

「ブモォオオオオオッ！！！」

　そこには初めて見る魔物！　体調２メートル程、筋肉の塊がそこにいた！

「なっ！？　ミノタウロス！？　なぜこんなところに！？」

「くっ！　メイ、エリーと俺を守れ！　デール！　すまないが君が頼りだっ！」

「殿下っ！　承知っ！」

「……委細、承知しました」

　俺の指示通り、メイちゃんが俺らの前に立ち、デール君がミノタウロスと対峙する！

　その瞬間――っ！

「ブモォオオッ！」

　ミノタウロスの横薙ぎ！　筋骨隆々のその腕でデール君を薙ぎ払おうとする！　

「遅いっ！　でやっ！」

　しゃがんで躱し、逆にミノタウロスを切りつける！

「ブモォォ～」

　しかし浅かったようで、大した傷を負わせられない！　ミノタウロスは大きく後ろに下がり、前屈姿勢を取る。

「まっまさか！？」

　俺が驚きを口にする。

「ブモォーーーっ！！！」

　そしてミノタウロスが突進してきた！

「――っ！」

　背後には俺たち！　避けられないことを察したデール君は、剣を横に構え受け止める態勢に入るっ！

「ぐっ！　はぁあああっ！」

「ブモッ！？」

　デール君が受け止る――かと思いきや、力を逸らし、ミノタウロスが転倒した！

　うまいっ！

「くらえっ！　はぁぁあああああ！」

　転倒して動けないミノタウロスを切りつけ、絶命させた。

　かくして初めて出会った強敵をたやすく倒したデール君だった。

「殿下、やりました！」

「あぁ！　さすがデール君！　信じてたよ！」

「アレクの護衛さんはお強いんですのね！」

　そこは素直にデール君を褒めてあげて欲しい。

「ありがとうございます。しかし殿下、やはり様子がおかしいようです。このダンジョンにミノタウロスが現れるなど……」

「確かになぁ～」

　さて、どうするか。

「……今はとにかく進みませんか？　留まるよりもよろしいかと」

　メイちゃんが提案してくれた。ナイスだ！

「そう、か……そうだね。戻るより、ダンジョンクリアした方が早そうだ」

　ボスを討伐したら、入口までワープしてもらえるよ！

「わかりました！　一層気を付けてまいりましょう！」

　気合を入れ直すデール君。そこには何の気負いも疑念も感じられない。

　◆◇◆◇

「妙、ですね……ボス部屋にたどり着きましたが、ここまで敵が１匹も……」

「もしかしたら、あのミノタウロスが倒してきたのかも知れませんね。イレギュラーな存在だったみたいですし」

「そうだよきっと！　さ、サクッとボスを倒そう！」

「長かったですの～」

　そして扉を開け放つ。待ち構えていたものは――っ！

「オーガッ！　なぜこんなところにっ！？」

　Ｂ―５ランクの魔物！　通称『Ａの壁』！　強力な身体能力で上級に上がる者を篩にかけると言われる存在！

　ミノタウロスよりも格上だっ！

「――っ！　殿下、殿下も魔法を――」

　一瞬で敵と己の実力の差を見極めたのだろう、俺の参戦を要求してくる。

「すまないっ！　両手が塞がっているので魔法が使えないっ！」

「くっ！　メイ殿――」

「坊ちゃまとエリー様はお任せください」

　……頑張れデール君、ここがターニングポイントだっ！

「ぐおおおおーんっ！」

「――っ！　えぇいっ！　かかってこいっ！」

　デール君とオーガが戦闘に入る！

　オーガは手にした棍棒を振り上げ、デール君に叩きつけるっ！

　デール君はそれを躱し、オーガのわき腹を一閃！　しかしっ！

「なっ！？　くそっ」

　オーガの腹に付いた傷は、わずかに出血する程度の物。

　先程のミノタウロスと比べても、遥かに魔力が強いっ！

「デール！　頑張れ！」

「だぁっ！　はぁっ！」

　幸いにもオーガの動きはそこまで早くないようで、デール君に攻撃は当たっていない。今のところは……。

「まずい、ですね」

「あぁ。デール君には決定打がない。しかしオーガは当てさえすれば……」

　かなりのダメージを負ってしまうだろう。

「ぐぅ！？」

　その間にも、デール君はオーガの攻撃を必死にかわし、その隙に攻撃をする。

「ぐお……ぐおおおおおっ！」

「――っ！　なっ！？」

　デール君の攻撃は届かないっ！　そしてオーガの様子が変わった！

「ぐおおおぉぉーーーんっ！！！」

　殆ど攻撃が効かないとわかったのか、防御を捨てて猛烈な攻撃を仕掛けるオーガッ！

　ドゴッ！

「――っ！　ガハッ！？」

　やがてオーガの攻撃は遂にデール君を捉える！　デール君は大きく吹き飛ばされてしまった。

　ここまで、なのか？

「っく……殿下……」

　オーガの攻撃は強力なようで、デール君は立ち上がれない。

　そして、オーガはデール君の視線の先を見る……。そこには、俺たちがいる。

「ぐおぉぉおおお！」

「殿下っ！　お逃げください！」

　先にお前の守る者を嬲り殺してやろう、そう言っている気がした。

「――っ！　早っ！？」

　焦る俺。

「ぐおおおおおおっ！」

　人間を叩き潰す想像をして興奮に吠えるオーガ。

「殿下ッ！　殿下ーーーっ！！！」

　そして――！

「……名を……我が名を呼べっ！」

　◆◇◆◇

　――デール視点――

「こ、ここは……？」

「我々の領域。いわゆる精神世界だ、契約者よ」

　突然、目の前に全身甲冑に身を包んだ巨大な男が現れて告げる。

　精神世界……？　周りを見ると、真っ暗な空間の中にあり、無数の小さな光が輝いているのが見える。まるで夜空の中にいるようだ。

「お前は……？　はっ、それより殿下を！」

「契約者よ、何を望む？」

「何を……？　今はそれどころでは！」

「答えよ！」

　どうやら、答えなければいけないようだ。しかし、そんなものは決まっている！

「私は……私が望むのはただ一つ！　主君をお守りする力だっ！！！」

　暗い失意の中にいた私を救ってくれたあの方に！　報いるための力！　それだけが私の望むもの！

「よろしいっ！　ならば我も応えよう！　我が名は――ッッ！！！」

　◆◇◆◇

「来たれっナイツ！　わが身に宿り怨敵阻む盾となれ！　うおおおおおおっ！」