第14話 10歳~はじめてのしっと~

「ダンジョンに行きたいのですわ!」


 2日に1度は訪ねてくるエリー。まためんどくさいことを言い出した。


「先日、アレク様に勝手にお借りしたダンジョンに関する書物をお読みなさって興味を持たれたそうですよ」

 あー、じゃあ俺のせい……じゃないよね? 勝手に本借りて勝手に興味持っただけじゃん!


「さすがにダンジョンに一緒に行くのは危ないんじゃ……」

「ご当主様はアレク様、というより護衛のデール様がいれば問題ないだろう、とのことでした」


 先日の誘拐犯からパ-シィと俺を救った時の話、あれの話は結構広がっている。

 長い間燻り続けていたがここ最近は実力を伸ばし、ついには王族まで救ってしまう。確かに話としては印象的だろう。さすがデール君!


「だからと言って――」

 と思ったけど、これっていい機会かも?


「と思ったけど、まぁいいよ。ランクの低いところなら大丈夫だろうし!」

「本当ですの!? わぁーい! ありがとうですの!」

「まぁ、ちょっと準備したいから数日待っててね!」

 あれしてこれして……うん、行けるだろう!


「(また何か企んでるんですか?)」

「(ソンナコトナイヨ!)」

 企むだなんて、人聞きが悪いなぁ……。




「もぅ! またサリーと内緒話ですの!? 仲間外れは嫌ですわ!」

「まぁまぁ、エリー様。お茶のおかわりをどうぞ」


 突然だが、メイとエリーは仲が悪い。悪いというより……メイが突っかかることが多いというかなんというか。

 エリーがメイを差別的に見ている訳ではない。当初はそうだったが、俺がメイを大事にしていることがわかってからはすぐに考えを改めてくれた。基本的には素直でいい子だ。


「あら、メイさん。ありがとうですの――あっちっちーですわぁっ!」

 だからメイさんや、エリーに意地悪するのはおやめなさい……。


「これは、失礼しました。坊ちゃまは熱いものがお好きなので、うっかり同じものを出してしまいました」

「ふぅー! ふぅー! お気をつけてくださいですの!」

 俺、別に熱いの好きじゃないんだけどなぁ……そう思いながら紅茶に口をつける。うん、バッチリ適温。


「アレク凄いですわぁ! あんなに熱いのをすんなりと飲めるなんて……」

 違うんです熱くないんです……湯気の立ち方が違うでしょ。うちのメイがごめんね……。


「ふふ、微笑ましいですね」

 どこがっ!?


 ◆◇◆◇


 数日後、約束通りエリーを連れてダンジョンへとやってきた。

 俺たちも冒険者登録を済ませてあるので、今回は正規のルートである。


 ちなみに冒険者登録でお約束通り一悶着あったけど、それは割愛する。とりあえず、王族特権でD―1からスタートだ!


 なので俺たちだけで……なんてことはない。

 後ろにバッチリ護衛がいたりする。隠れているつもりだろうけどバレバレである。

 まぁ、王族だから当たり前っちゃ当たり前。




「以前と同じようなランクのダンジョンだからね、落ち着いて行こう! あ、その前に……」

 デール君とエリーにネックレスを渡す。


「一応、気休め程度の効果がある魔道具だよ。少しは魔物と戦いやすくなるはずだ」

「おぉ! ありがとうございます!」

「まぁ! ありがとうですのアレク! これを手に入れるのに数日必要だったのですわね!」

「……」

 ジトーっとメイが見つめてくる。だ、大丈夫今度同じようなのあげるから!


「そ、そうそう! さ、改めてしゅっぱ~つ!」

「おー! ですの!」


 ◆◇◆◇


「わぁー! これがダンジョン! 何だかジメジメしてますのね……」

「今回は洞窟だからね――おっと」

 さっそくスライムのお出ましだ!


「さ、デール君やって――」

「キャー! アレクー頑張ってですのー!」

 と同時に身体が軽くなるのを感じる。これはエリーの光魔法か?


「殿下、どうぞ」

「……うん。とりゃっ!」

 デール君並みとはいかないまでも、綺麗にスライムの核を捉える。


「キャー! アレクかっこいいですの! キャー!」

「お見事です!」

 ポジティブ代表みたいな2人に褒められる。まぁ悪い気はしない。


「へへっ、ありがとね。エリーの魔法も良かったよ!」

「キャーキャー!」

「エリー様、ダンジョン内ではお静かに。敵が寄ってきます」

 いたって冷静なメイちゃんがエリーに苦言を申す。


「あ、そうですわね……ごめんなさいですわ……」

 シュンとなるエリー様。


「さ、気を取り直して行きますかっ」


 ◆◇◆◇


 どんどんと奥に進む俺たち。

 階を追うごとに……。


「なんだかヌメヌメしてますわ~……」

「……(イラッ)」



「なんだかドロドロしてますわ~……」

「……(イライラッ)」



「なんだか疲れましたわ~」

「……(イライライラッ)」



「アレク、おんぶ」

「……(イライライライライラッ)」


 4階層目にして、遂にエリーの限界が突破してしまったようだ。正直持った方だとは思う。

 ちなみに、イライラが限界突破してるのはメイさんである。


「殿下、そろそろ休憩にしますか?」

「ん~そうしよっか」

「ふぃー! 疲れましたわっ!」

 みんなで腰を下ろし、しばしの休憩とする。

 ここまでほとんど、というか最初以外全ての敵を担当してくれてたデール君だが、さほど疲れていないようで周囲の警戒をしてくれているようだ。


「よいしょっと」

 エリーを降ろし、幻影の魔法を付与した魔石を周囲に置く。

 これで誰が見ても俺たちがここで休んでるようにしか見えないだろう。




「(……殿下、なぜエリー様には甘いのですか?)」

「(ん?)」

 エリーと離れたのを見計らい、メイちゃんが話しかけてくる。


「(あんな、我儘ばっかりのっアレク様に甘えてばっかりでっ今日だって自分が来たがったくせにっ!)」

「(……)」

 い、いかん……他のことに気を取られ過ぎてメイちゃんへのフォローが足りなかった!


「(い、一応婚約者だし……機嫌を損ねるのも、さ?)」

「(どうせ結婚はしないのでしょう!? だったらそんなにお優しくしなくてもっ!)」

 おっと、それ以上はいけない。


「(確かにそうだ、だからこそ優しくしておきたいんだよ……いつかのお別れを、笑って迎えられるように……)」

「(そんなのどうだって!)」

「(……本当にそうかな? 物心つく前から勝手に決められた婚約者がいて、そのための準備をして、そして勝手に婚約解消されて、そこに残るのが楽しくもなんともない思い出。そんなの、辛すぎない?)」

「……」


「(それに、エリーはいい子だよ。我儘も俺にしか言ってないし。メイ……獣人のことだってさ)」

「(それは……はい)」

「(だから、もう少しだけ大目に見てくれると嬉しい、かな?)」

「(わかり……わかりました)」

 そう言って俺から離れるメイ。もう少しメイのことを考えなければ……。

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