第10話 7歳~はじめてのダンジョン~
「お初にお目にかかります、ファンデール=ハールトと申します。アレク王太子殿下の護衛候補でございます」
ギルとの魔物狩りから数か月後、ついにこの時が来てしまった。
「あら、ごきげんよう。エレーヌですわ」
できればまだ2人にはであって欲しくなかった……。
3日に1度はやってくるエリーと、お互いの訓練以外では一緒に行動することが多くなったデール君、2人がかち合わないように努力してきたのだが……。
しかしついにこの日を迎えてしまった。
我儘で綺麗なものは何でも欲しがるエリーのことだ。デール君のことも欲しがるに違いない!
だってデール君はイケメンだから!
誠実でまじめ、そして努力家、そんな有望な下僕……じゃなくて人材を盗られる訳にはいかない!
「それよりもアレク! 聞いて欲しいんですの! 先日お会いした――」
あ、あれ……? あまり興味ない……?
「――男爵令嬢が持っていた……ってアレク!聞いてますの!?」
「ん、あぁ、聞いてるよ! じゃがいもは美味しいって話でしょ?」
「全然違いますわ!」
やはり違ったか。
「(ご安心を。お嬢様はアレク様以外の男性に興味などありませんよ)」
エリーのメイドさんに耳打ちされる。人の考えてることを読まないで欲しい。微妙にズレてる気がするけど。
「――私も欲しいんですの……アレク! また聞いてないでしょう! サリーと何を話してたんですの!?」
「お嬢様。アレク様はお嬢様が大好きだ、という話です」
サリーさんと言うのはエリーのメイドさん。それと話を捏造しないで欲しい。
「? そんな当たり前のことを何でこっそり話すんですの?」
さすがエリーお嬢様! 全く動じない!
「でも、そう言う事でしたら期待していいんですわよね!」
「も、もちろん! 期待しててよ!」
……何を?
「わーい、ですの! 私の友人が着けていたダンジョンのドロップ品のネックレス、楽しみにしてますわぁ!」
……説明ありがとう。
しょうがない、後で行ってみるか……。
「(す、すみませんアレク様……)」
「(サリーさんのせいじゃないよ……いずれにしろ、取りに行く流れだっただろうし)」
昔からの関係上、エリーのお願いは断れないのだ……。
「(ちなみに、そのネックレスはかなりレア物だそうですよ)」
「(……マジかぁ)」
◆◇◆◇
その日の夜、デールとメイちゃんを連れて早速ダンジョンへと来た。
ちなみに、年齢などの問題で正攻法では入れないことになっているため、魔法によるお忍びだ。
ここでその辺のシステムを確認しよう!
まず、冒険者ギルドへの登録は8歳からとなる。残念ながら我々はまだ誰も登録していない。
そして冒険者ランクはその能力と貢献度に応じてランクで分けられている。Eから始まり、D、C、B、A、Sだ。さらにその色の中でも段階を1~5の数字で表す。E-1が最弱でS―5が最強ってこと。
ダンジョンに入れるのはCランクから。この辺りは、幼い子や駆け出し冒険者の命を無為に散らさせないためのものらしい。
このランク分けは魔物やダンジョン、魔道具等の危険度や貴重度にも共通している。
E(駆け出し、無害、無価値)<D(初級者、ちょっと危険、ちょっと価値あり)<C、B(中堅、危険、有用)<A(上級者、やばい、貴重)
そんな感じ! ま、世界にはS以上のものも溢れているみたいだけども。
ちなみに、デール君が苦戦したホブゴブはD―4、今回のダンジョンも同じくD―4らしい(デール調べ)。
まぁ、難易度的には初心者向け、デール君の特訓の成果を試すにもちょうどいいってこと!
閑話休題。
「それではデール君、後は頼みましたよ!」
「え? いやいや、エリー様への贈り物なのですから、殿下が頑張ったほうがよろしいかと……」
遠慮がちに、しかしちゃんと意見をするデール君。
「ですよね~」
◆◇◆◇
「マナよ、我が求めに応じよ! 火球となりて敵を撃て! 『ファイヤーボール』!」
「っぷ! 本当に詠唱してるよ! 『我が』だって! 『我が』て!」
道中で出会った冒険者が魔物に魔法を使っているのを見た感想を漏らす。
「坊ちゃま、さすがに失礼ですよ」
メイちゃんに怒られた。
「そもそも、詠唱しない魔法など、殿下が使っているのが初めでしたよ……」
「詠唱はイメージの補助と固定が役割らしいから……イメージさえしっかりしてれば誰にでもできると思うよ」
言いながら、先程見たのと同じ『ファイヤーボール』をホーンラビットに放つ。瞬く間に極小の魔石へと姿を変えた。
「それが難しいんですよ! まぁどちらにしろ私には縁のない話ですが……」
残念なことにデール君には魔法の才能ないからね……。ま、俺も天界で長い間イメージ力を鍛えたからってのもあるけど!
「でもみんな身体強化とかは無詠唱じゃん」
「た、確かに。そう言われてみればそうですね」
「意外とやってみればできるって! だからそれよりも、俺にとってはダンジョンの方が不思議だよ」
「何がですか?」
「だって、魔物を倒したら魔石とかドロップするし、倒しまくってもいつの間にかまたいるし」
「それは……確かに」
いつかこの謎が解ける日は来るのだろうか。
話しながらも、ビー玉大の魔力をデコピンで飛ばしゴブリンやらうさぎさんやらを倒していく。
「ネックレス、出ないね~」
「そうですね。貴重な物かもしれませんのでもっと奥にあるのかもしれません」
そっか~。早く帰って寝たいんだけど。
◆◇◆◇
どんどん奥に進み、遂に奴と出くわす。
「――、ホブゴブリン……っ! 殿下、やつは私にお任せください!」
おぉ、自ら志願するとはさすがデール君!
「もちろん! 特訓の成果を見せておくれ!」
「承知っ! はぁっ!」
まだまだ少ないながらも、身体に魔力を込め、『身体強化』を発動させるデール君。いいぞ、とてもスムーズだ!
「グギャ!?」
加速、あっという間にホブゴブリンに肉薄する! ホブゴブリンは全く目で追えていない!
「しっ!」
「ギャーッ!」
そしてあっという間にその首を両断してしまった。
「殿下! やりましたよ!」
「あぁ、見てたよ! さすがデール!」
「殿下……本当に……本当に、ありがとうございます……」
「うむ、励むがよい!」
デール君は涙もろすぎ! 出せる魔力量より涙の方が多そうだぞ!
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