第9話 7歳~はじめてのまほうてきせい~

 次の日の夜。


「ふむふむ。デール、君は魔力総量は多めだけど、出力が著しく低いね、制御力も当然身についていない」

「あの……殿下、ここは一体……?」

 我が私設隠密部隊用に設けた特訓場、そこにデール君を案内した。


「あの者たちの動き、只者では……って、メイディ殿まで!? 何ですかあの動きは!?」

 孤児院で引き取った獣人の子たち、彼らも日々特訓を重ね、今では我が忠実なる屈強な戦士よ! は~っはっはっは!


「まぁまぁ、それより今は君だよ。出力だけど、とにかく毎日限界まで溜めた魔力を一気に放出すること! そうすれば徐々にだけど広がっていくはずだよ」

「は、はい……い、いやしかし、彼らは……」

「ただの私設部隊の特訓だよ。それより、次は君の得意属性だけど……あ、ここについては絶対内密にね! もし誰かに話しちゃったら――」

「は、話しませんよっ! ……あの、もしかして昨日の情けな、じゃなくって、可愛らしい殿下のお姿は……」

 だいぶ言葉を選んだな。あれ、可愛くはないと思うけど。さすがデール君、まじめだ。


「ふぅ。ご想像通り、カモフラージュさ。その方が何かと動きやすいし」

「やはりそうですか……なぜそのような?」

「……訳あって強くならなきゃいけないんだよ。いずれ強大な敵が現れると知っているからね」

 魔神的な。それと、いい生活するには誰よりも強くなくっちゃあならないッ!


「――っ! そうですか、やはり民のため……このファンデール、不肖の身ですがどこまでもお供します!」

「あぁ、頼むよ。それでデールの適性魔法だけど……」

 そんなことより、今はデール君をいかに強くするかの実験だ! 彼は今10歳ということだが、これをどこまで伸ばせるか!

 楽しみ~!




「あぁっ! で、殿下……っ! だ、ダメで……あぁっ!?」


 ◆◇◆◇


「う~ん、見事に適性がないね!」


 基本属性を始め、空間や時などの特殊属性はもちろん、細かな魔法もほとんど使えない。本当に使えない。あの状態のまま、今までと同じ訓練をしていっても何も変わらなかっただろうなぁ。


 出力を上げて行けば、魔力そのものの操作と言われている無属性(身体強化含む)は大丈夫だとは思う。この世界では、魔力の操作は基本的に誰にでもできると言われている訳だし、あくまで基本技能ではあるが……。


「……やはり、私では力不足……」

「まぁ、メイディも似たようなもんだし、無属性を極めるってのも手だよね」

 メイディも魔法の適性はほとんどなく、使えるのは身体強化系のみだ。デールと違って出力、制御ともに問題ないためめきめきと実力を伸ばしているところ。

 どこぞの第2王子に振り回される魔法が一切使えない第1王子みたいな力強さを感じる。


「メイディ殿も……そうですか。それでいてあれほどの強さ、希望が持てますね!」

 単純というか、まじめというか……。


 そう言えば、試していない魔法があった。俺も実はまだ使ったことがない魔法。


「1つ、まだ試していないのがあったんだけど、やってみる?」

「ぜひっ!」

 強くなることに貪欲だね! いいよいいよデール君!


「じゃ、ちょっと待ってね~」

 そう言いながら、地面に魔力を込めながら文字を書く。いわゆる魔法陣。

 場所としてわかりやすくした方がいいのと、今回はデール君が使うからということで魔法陣を使う。


「そいじゃ、ここに血を垂らして……デール君、何か強い願望とか無い?」

「願望、ですか?」

「そ。例えばどうして強くなりたいとか、将来こうなりたいとか……」

 ここまできて、女の子にモテたいとかだったらなんか嫌だなぁ。


「私は……守るべき方のために、強くなりたい。今はそれだけです!」

 ……自分がいかに汚れているか改めて感じました。


「なら、それを強く願いながら魔力を流してみて!」

「わかりました……出ろっ出ろ~魔力ぅ~!」

 全然でなくて笑える。


「うー、はーっ!」

 お、ちょびっと出た! 




 瞬間、魔法陣が輝く! すっげー! 俺も初めてだからわくわくだ!

 それは、使用者の資質と求めに応じ、魔力を対価に顕現する!


 これぞ召喚魔法!


 眩い光を撒き散らしながら何かが出現する!

 すっごい薄いけど何かモヤモヤが出てる!


 おぉ、何か言ってるぞ!

 ……なになに?


「ふむふむ、君たちは……なるほどなるほど。あー、そういう感じ~?」

 ちょっと会話に成功、そしてあっという間に消えてしまった。

 同時に、魔法陣も効力を失ったようで光が消えた。


「で、殿下……? 私には何も見えなかったのですが……」

 うん、魔力が微弱過ぎたのもあるし、デールが彼らの求める実力にほど遠いという事でほとんどその存在を現さなかったようだ。俺は会話できたけど。


「……このまま励め。そしたら力を貸してくれるかも、だって」

「そ、そうですか……これは……成功したのですか?」

「大成功だよ! 契約自体は成ってるからね! ただし、呼びかけに応じてくれるようになるまではもっともっと強くなれだってさ!」

 良かった良かった、適正と言えるかどうかまだわからないけど、彼にもようやく魔法が使えた!


「…………良かったっ……」

 本当にね、俺も安心したよ!


「……殿下。私は強く、殿下を守れるくらい強く……なれるでしょうか……?」

「……」

 デール、お前ってやつは……。


「あぁ、なれる。お前が目的を違わず、努力を重ねれば必ず。この成功も今日までの積み重ねが招いた結果だよ」

「――っ! ~~~~~~っ!」


 魔法が使えないという劣等感に負けず、歯を食いしばって頑張ってきたことが今、報われたのだ。

 今日だけは大泣きするデール君を茶化すのはやめてあげよう。

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