第8話 7歳~はじめてのげぼく~
――その日の夜。
「殿下! 本当に抜け出してくるとは!」
「へへっ! デール君も無事に抜け出せたね!」
こっそり約束のお茶……ではなく、別の目的でデール君を呼び出す。
「私は……夜もよく修練してますので」
「……」
やはり、デール君は人一倍努力しているようだ。
「ところで、ご用件は何ですか? 言われた通り武装はしてきましたが……」
「あーうん、ちょっと目を瞑ってくれる?」
「? はい――っ!?」
そして『空間転移』を発動する。
「こっここは!? 一体何がっ!?」
「ちょっと特別な魔道具を使ってね……ここは昼に来た森の、さらに奥。ちょっと狂暴な魔物が出てくるところだよ」
しかも夜! ドキドキするね!
「なっ!? どういうおつもりですか!? 御身に何かあっては――っ!?」
「グギャギャギャギャッ!」
「うん。だから、しっかり守ってね♡」
早速出てくれました、ゴブリンよりちょっと狂暴な魔物のホブゴブリンさん!
デール君にはバレないように周囲に結界を張って、他の魔物の邪魔が入らないようにしてっと。
「――ッ! 殿下、お逃げください!」
突然こんなことになって混乱しているだろうに、俺の身を案じてくれるデール君。
いいね、いいよデール君!
「……どうして?」
「――っ、私では勝てません! 時間は稼ぎますのでその隙に――ぐぅっ!」
ホブコブリンの拳を防ぐデール君。
「キミなら勝てるよ」
「……無理ですっ! 私はっ――ぐはっ!?」
きれいにボーディーブローが決まる。こっそりと『防御力上昇』を使っているので致命傷には遠いはずだ。
「はぁ、はぁ……わ、私はっ!」
「ギャギャギャギャッ!」
デール君の魔力の通っていない攻撃は全くホブゴブリンに効果がない。
そして、数分も経たず防戦一方となる。
明らかに体力が切れてきている。魔力で身体能力やスタミナをブーストさせない状態では厳しいはずだ。
ついに、攻撃を防ぎきれないことが――。
「グギャギャ!」
「ぐはっ! で、殿下……っ!」
腹を――。
「ギャギャッ!」
「――っ、どうか!」
胸を――。
「ギィーッ!」
「どうか! お逃げください!」
顔を――。
「グッギャァッー!」
「ガハッ!?」
そして、ひと際大きな一撃をくらい、後方に殴り飛ばされてしまう。
「ぐふぅ、はぁ、はぁ……わ、私は……私は魔法が使えないのですっ! こいつには勝てません! どうか殿下だけでも!!!」
――やはり、か。
護衛として、いや、戦士として魔法を使えないのは致命的な欠点だ。ゴブリン程度ならまだしも、少し強い魔物には手も足も出ない。今のように、防ぐだけならまだしも攻撃が全く通らない。これでは全く勝ち目がない。
だが! それがいい!
「危ないっ殿下! 殿下ぁぁぁあああっ!!!」
誰も守る者がいなくなった俺を、ホブゴブリンが殴りかかり――。
ガキンッ!
それを『障壁』で防ぐ。
「で、殿下……?」
「デール、僕には君が必要だ。ともに……僕の傍にいてくれないか?」
「しかし……私は魔法も使えず……殿下をお守りすることも……」
「見てみろデール。僕は魔物を、あんなに怖かった魔物を相手にできている。それは君が戦ってくれたからだ! 勝ち目のない相手にも怯まず! 命を賭して僕を守ろうとしてくれた君に応えたいと思ったからだ!」
何という忠誠心! 何という責任感!
「で、殿下……っ!」
「誇り高き不屈の騎士デール! 僕には君が必要だ!」
「――っ! 殿下……殿下ぁっ!」
「ともに征こう、デール!」
「――っ! どこまでも! どこまでもついて行きます! 殿下ぁっ!」
君となら……君なら何でも言うことを聞いてくれそうだ!
「なぁに、魔法くらい僕が使えるようにしてあげるさ!」
「はいっ! ……はい?」
ちゅどーん。
鬱陶しいホブゴブリンさんをさっさと吹っ飛ばし、デールに話しかける。
「今日はもう遅いから、明日から魔法の特訓しようね!」
「で、殿下……今の魔法は……? 私の傷もいつの間にか治ってる……」
「細かいことは気にしない! 明日から頑張ろー!」
その後、呆然としているデール君を連れ帰り、ウキウキな気持ちで眠りについたのでした。
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