第7話 7歳~はじめてのまものとうばつ(しない)~
「坊ちゃま、今日は魔物退治に行きますよ」
晴れて俺付のメイドとなったメイディに今日の予定を聞かされる。
まぁ、後ろに先輩メイドさんがいるんだけど。
「ふえぇ~ん、魔物怖いよぉ~」
「……」
そう、いかに目立たずに能力を磨くか考えた俺は、弱気キャラで行くことにしたのだ! 魔物退治も何度か挑戦しているが、一度も成功させていない。
メイディとは一緒に訓練している仲なので、俺の実力もバレているんだけどね!
「王は坊ちゃまにもっと堂々とした立ち振る舞いをしてほしいと思っているようですよ」
「そんなこと言ったって~ふぇぇ~ん」
先輩メイドさんがやる気を出させようとしているが無駄だ!
「今日は弟君であるギルバート様もご一緒するとのこと。あまりそのような姿は見せない方がよろしいかと」
「……マジ?」
突然だが、俺には兄弟が何人かいる。
そのうちの1人、ギルバート君。2つ違いの、つまり5歳の弟だ。何かと兄である俺に張り合おうと頑張っている可愛い弟だ!
「加えて、坊ちゃまの専属護衛候補となる方もご一緒するようです」
「ごえい?」
「えぇ、王族の方の傍にあり、いついかなる時もその身を盾に守護する役目を負った方々です」
「……マジかぁ」
「以前と同じく、今回行くところはスライムやゴブリンなどの低級な魔物しか出ません。いい加減頑張ってください」
どうしたもんかのう……。
◆◇◆◇
「ふえぇ~ん! ゴブリンだぁ~! こわいよ~!」
「――っふ!」
逃げる俺を追って来たゴブリンを一刀に伏す美男子。
何となく背景もキラキラしている気がする。
「大丈夫ですか、殿下」
「は、はい……あのぉ、お名前を窺っても……?」
トゥンク。
「先程も申しましたが、あなたの専属護衛候補であるファンデール=ハールトと申します。どうか、デールとお呼びください」
「あ、ありがとうございます……デールさんはお強いんですね! も、もしよろしければ、この後お茶にでも行きませんか……?」
「い、いえ、この程度でしたらまだ大丈夫です……」
ん、何だ? 桃色空間を展開したはずなのに、デール君の表情が浮かないぞ。
「(結局、その設定で行くんですか?)」
「(うん)」
メイディにこっそり聞かれるたのでそう答えた。迷ったら初心を貫けと言うしね!
「(考えるのがめんどうになったんですね……)」
「(……)」
……だんだんとメイちゃんは俺の事を理解してきてたようだ。
「兄上、何ですかその情けない姿は!」
「ギル! そういう君はどうなんだい?」
我が可愛い弟、第2王子のギルバートが絡んでくる。やっぱり、こうなっちゃうよね~……。
「兄上と違って既に3体の魔物を倒しましたよ!」
「すごいじゃないかギルっ! 僕なんか5歳の頃も今も逃げ回ってばかりだよ! さすが僕の弟だ!」
ギルはしょっちゅう俺と張り合おうとしてくる。そこがまた微笑ましくてかわいいんだ。だからたくさん褒めてあげるんだ。
「ふん! どうですか兄上、僕のチームと兄上のチーム、どっちが数多く狩れるか競争しましょうよ!」
「え、嫌――」
「それはいい考えですね、ギルバート様。せっかくなので景品を賭けましょう。勝ったチームの王子はメイディのしっぽを触ってもいいということでどうですか?」
断ろうとしたら、うちの先輩メイドさんがここぞとばかりに割り込んできた。めっちゃ早口で。
くそっ、どうしても俺に魔物を狩らせようとしてやがる……。
「は? 何でそんなもの……」
「それは流石に……せめて食後のデザートとか……」
「では競争をする、ということでよろしいですね!」
――っ! しまった、はめられたっ!
「それでは、今から1時間、私が合図をするまでということでよろしいですか?」
「おうっ!」
「……はぁぃ」
正直やる気が沸かない……。
しかし大丈夫、うちにはスーパーエースのデール君がいるからね!
「では、スタート!」
◆◇◆◇
俺のチームは俺、メイディ、デール君の3人。ギルのチームは彼と彼のお付きのメイドさん、そして今回護衛で来てくれている兵士の方。
恐らく兵士の方は空気を読んであまり動かないでくれるだろうから、実質デール君対ギルとなるだろう。
俺? もちろん、デール君を信じて応援する!
「はっ! でやぁっ!」
1匹、また1匹と魔物を倒していくデール君。
「彼、なかなかやりますね」
「そうだね。小さい頃から専属護衛になるために頑張ってきたみたいだよ」
もしかしなくても、俺よりもきつい訓練をしてきたのだろう。美しいとすら思える剣技がそれを物語っている。
けれど、1つ気になることがある。
「魔力、ほとんど使っていませんね……」
「……そう、だね」
この世界では魔法がとても重要な要素となる。直接的な攻撃魔法はもちろん、身体の強化や武具に魔力を通すことが必要最低限なのだ。そうしなければ、強力な身体を誇る魔物に立ち向かえない。
「はぁはぁ……」
デール君が息を整える。スタミナについても同様で、魔力による加算が必要なのだが……。
「何とか5匹目を倒せました!」
「うん、すごいよデール君!」
この程度の魔物にはあえて使わないだけなのか、それとも……。
◆◇◆◇
「どうですか兄上! 私の勝ちです!」
「やるじゃないかギル! 11体も倒すなんて素晴らしいよ!」
結局、あの後もデール君のスタミナ切れのため思うように成果が上がらず、7対11で我々の負けとなってしまった。
あぁ……我がデザートが……。
「……約束通りギルバート様たちには景品のデザートを。坊ちゃま、子犬のような顔をされてもダメですよ」
先輩メイドさんもどことなく呆れ顔だ。
「殿下、申し訳ありません……私の力不足のせいで……」
「いいや、構わないよ。ちょうど生クリームと果物がたくさん乗ったパンケーキはあまり好みではないんだちくしょう美味そうだ!」
「坊ちゃま……何もしてないくせに……」
ま! そうなんだけどね!
「……」
小粋なジョークをかましたにも関わらず、デール君の表情は相変わらず暗いままだ。
ふむ、しょうがない。
「デール君、ちょっといい?」
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