第6話 5歳~はじめてのさいのうのへんりん~

「アレク! 魔法を教えてくださいですの!」


 ミネフを連れてきてから数日後。


 突然朝っぱらからエリーが乗り込んできてそんなことを宣う。

 何言ってんだこいつ。


「エリー? 僕はまだ魔法は使えないよ?」

「でも……この前空を飛んでいるアレクを見ましたの!」

 ちょっ! 嘘だっ! 『気配遮断』やら『認識阻害』やらめちゃくちゃ気を付けてたはずなのに!


「み、見間違いじゃないかな……?」

「アレクを見間違うはずないですの! どうして嘘つくんですの!」

 およよよよ、困ったぞぉ……何でばれてんだよぉ~!


「(ご安心を。お嬢様は勝手に人の秘密を話したりはしませんよ?)」

「……」

「(ちなみに、空を飛ぶ魔法は一部の魔術師しか扱えない高等技術です。お気をつけくださいね、うふふふ)」

 やだこのメイドさん、怖い。


「ふぅ……どうして魔法が使いたいの?」

「キラキラしてて可愛いからですの!」

 何を言ってるんだろうか。ん~子どもの感性はよくわからんのう……。


「実は昨日、劇をご観覧されたのですが、その演出で使われた魔法をいたく気に入られまして」

「キラキラしてましたの!」

 あーなるほどなるほどーふーん。それはそれは……。


 何で俺が教えなあかんねん!


「けど、エリーにも魔法を教えてくれる人いるんじゃないの?」

「いますの! けど、エリーにはまだ早いって……言ってることがよくわからないですし……」


 あー確かに俺に教えてくれてる人も、簡単なことを変に難しく言う癖がある気がする。職業柄なのかねぇ。

 しかし危ないということころは正しいんじゃないかな。制御が甘かったり、倫理観の未熟な子どもがとんでもない魔法を使っちゃったりとか、目も当てられないし。とは言え、子どもがせっかく興味を持っているんだもの。危なくないように教えてあげるのも大人の役目だとは思う。


「その人の言う通り、エリーにはまだ早いんじゃないかな~」

 ま、俺は子どもだから関係ないけどね!


「(子どもが空を飛んでたなんて噂、聞きたくないですよねぇ~?)」

「――け、けどどうしてもって言うんなら教えてあげないこともないかな!」

 っく、このメイドめっ! 一国の王子を脅すとは……っ!


「わぁーい! ですの!」

 ……まぁ、いいか。


「ただし、1つ約束して欲しい。絶対に僕の前以外では教えた魔法は使わないこと。それと、僕に魔法を教わってることを誰にも言わないこと。最後に、僕が魔法を使えることは誰にも言わないこと。いいかい?」

「わかったですの!」

「1つではなく3つですね。ご安心ください、私もお約束します」

 この人が言うなら、まぁ大丈夫そうかな。




「さて、それじゃあまずは適性のありそうな属性を見てみようか!」

「はい! ですの!」

 そう言ってエリーの両手をとり、ゆっくりと魔力を流していく。


「ふわっ……何だかあったかいですの~……」

「今から僕の魔力を流すから、ちょっとの間我慢しててね」

 そう言って、火から始まり様々な属性を宿した魔法を流してみる。


 適性がある、つまりその属性の魔力の通りがいいのなら、逆から流してみてもいい感じである。その考えは、先日引き取った獣人の子らを使った実験、じゃなくて試行錯誤の末にたどり着いた結論だ。

 彼らも魔法の適性がわかったし、俺も魔法の検証ができていい経験だった。何人か体が弾けかけたけど。


「ア、アレクゥ~……気持ちいい、ですの~……」

「……!」

 相手の体を傷付けないようにしながら、各属性の違いを比べる。そもそも魔力の通りやすさも(出力)個々で異なるし、流せる量(総量)も異なるため、かなり集中しなければならない。


「んぁっ……もぅ、らめぇ~……!」

「……! ……!」

「ア、アレク様? こ、これはその……大丈夫なんですか……?」

 なので、対象がどういった状態にあるかを見る余裕はないのだ。




「ふぅ! 終わったよ! エリーは光に強い適性があるみたいだね!」

「はぁはぁ……アレクぅ……もっとぉ、もっと入れて欲しいですの~……」

「さ、さすがにこういったことはまだお早いのでは……」

 ? 何言ってんだ、せっかく人が頑張ってやったのに!


「ついでにエリーのメイドさんにもやってあげるよ!」

 俺ってば優しー! 決して魔力制御のいい練習になるとか思ってないよ?


「わっ私は! だいじょう――あぁんっ!」

 かくして、第1王子は齢5にして婚約者のメイドに手を出したという噂が広まったのであった。


「(な、何ですの? アレクがサリーにしている姿を見てると……)」

 そしてこのとき、エリーに特殊な性癖が芽生えてしまったことにも気付けなかったのであった。




「メイドさんは水の適性と、闇が少しだね!」

「はぁはぁ……や、闇ですか? 知らなかったです」

 さすがメイドさん、切り替えが早い!

 

「うん。エリーの得意な光属性は単純な属性魔法に加えて、他者へ恩恵をもたらすのが得意な魔法だよ」

「おんけいですの?」

「そ。相手を回復したり、身体能力を向上させたり……使いこなすのは難しいけど、便利な魔法だよ!」

「さすが私! ふふーんですわ!」

 思いやりに溢れる人、他者へ貢献したい人に目覚めやすい傾向があるって言うけど……エリーも実はそうなのかな? いじらしいところもあるじゃないか!


「闇属性はその逆で、他者に弊害をもたらしたり阻害する魔法だよ」

 腹黒いメイドさんにはぴったりだね!


「あまりお聞きしない魔法ですね……早速どのような魔法があるか調べてみます」

「あー、あまり前例にとらわれない方ががいいよ。教えてあげるから、自分のイメージを固定させた方が便利だよ?」


 魔法の詠唱とか、イメージのつかない人に教えるのには便利だけど、魔法が概ね固定化されてしまう。

 そうではなく、対象や効果、規模をしっかり自分の頭でしっかり固めた方が魔法への理解度が、つまり強度も変わってくる。


 ちなみに既存の魔法は、威力や影響力、必要魔力量に応じてランク分けされている。

 初級<中級<上級<超級<極級<伝説級、と言う感じ。まぁ、今は関係ないけど。


「そもそも、そのために来たんでしょ? ほらほら、教えてあげるから遠慮しない!」


 こうして2人に定期的に魔法を教えてあげることになった。最初は嫌々だったのに……何でこうなったんだっけ?

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