第5話 5歳~はじめてのしせつぶたいそうせつ~

「坊ちゃま、今月のお小遣いですよ」

「僕お小遣いなんていらないよ! それよりも、身寄りのない子どもたちのために使って欲しいんだ!」

「まぁ、坊ちゃま……素晴らしいですわ!」

 ふぅ。


「ゴホッゴホッ……ところでさ、今日は体調悪くって……訓練とかお休みしたいんだけど~」

「あら、珍しいですね。風邪でしょうか? それでは今日はゆっくりしていましょう」


 今日は日中にやりたいことがある。

 昨日の探知により、改めて確認できた者の存在。


 彼らに会って、お願い事をするのだ!


 ◆◇◆◇


「あれれ~? こんなところに人がいるよ~? 何してるんだろ~」

「お、王子っ! 何故ここに!?」

 玉座の部屋の天井、そこにいる忍者っぽい風貌の男。いかにも陰で守護ってますとか隠密活動してます、って感じ。


「お城を探検してたら迷っちゃったぁ!」

「いやいや! えっ!? こんなとこ来る訳……それに気配が……」

 まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない。


「『催眠』」

「なっ……」

 説明するのがめんどいのでサクッとな。


「獣人への偏見がなさそうで隠密とか諜報とかの訓練してくれそうな人、知らない?」

「……かつて獣人の国だった現マニアール自治区、そこにミネフという方がいらっしゃいます」

 ジコ?


「どんな人?」

「猫系の獣人です。凄腕のスパイで、いくつもの機密が盗まれました。もちろん隠密系の技能も一流だったとのこと」

「そんな人、よく今も生かされてるね」

「何でも、隠れファンが多かったとか……」

 ? どういうこと?


「ハニトラウェルカム的な」

「……」

「彼女の若い頃の写し絵を見たことがありますが、実に羨ましい!」

「……」

 子どもに話していい内容じゃないぞ!


「獣人差別の思想は、こういったところから生まれたのでは、という考察もなされています!」

「……」

 あぁ、ナチュラルに魅了されて混乱しちゃう的な?




「……わかる」


 ◆◇◆◇


 早速『高速飛行』の魔法を使ってマニアール自治区の彼女が住むという場所へと向かう。

 

「すみませ~ん、ミネフさんいらっしゃいませんか~」

「あいよ~、ちょっと待ちな~」

 お、運よく在宅してらっしゃる! 声が若干汚いが、風邪でも召されているのだろうか?


「お待ちどうさん。おんやぁ、見ない顔だねぇ」

「あ、初めまして。自分はアレクと言います。ミネフさんにお会いしたいのですが……」

 (とても失礼な表現)な婆が家から出てきた。美女と名高いミネフさんに会いに来たのに……あんまりな仕打ちだ!


「わしがそのミネフじゃが……何やら失礼なことを考えてないかい?」

「いえ、僕が探しているのは絶世の美女と名高いミネフさんでして」

「……この辺にミネフという名のものはわししかおらんぞ。まぁ、わしも昔はぶいぶい言わせたもんじゃがな!」

「いえ、僕が探しているのはかつて王国の機密を悉く奪い、男性を虜にしたという美しい女性なんですが」

「じゃからそれがわし! ……じゃなくて、どこでそのことを――」

「いえ、ですから――」

「くどいっ! いいから家に入りなっ!」


「いきなり過去のことを持ち出して何だいっ! しかも、よく見たらヒト族じゃないか……あんた、何者だい?」

「所詮噂は噂か。尾ひれどころか生物が違うじゃないか。実はかつては美人スパイだったあなたにお願いがありまして!」

 あヽ、無常。


「……それが人に物を頼む態度かい。そうじゃなくても、ヒト族なんかに――」

 ファーストインプレッションは予想通り最悪だ。しかし、俺にも引けない理由がある!


「実は私、クイードァの王子でして」

「――っ!? そ、そんなバカなっ!? それに今更王族が何の用だいっ!?」

「実は訳あって獣人の子どもの面倒を見ることになったのですが……ぜひあなたに彼らの教育係をお任せしたい!」

「は? はぁ!? 訳が分からん……獣人差別がなくなったとでも言うのかい!?」

「いいえ全く。まぁ、それが原因で獣人の子らを引き取ったんですが、彼らに訓練を施したいと思いまして」

「ちょ、ちょっとまってくれ……訳が分からな過ぎて……」


 よしっ! 今だ!

「見返したくないですか? ヒト族を!」

「――!?」

「獣人だからと不当に差別し、国まで奪ったヒトを! あなたの手で優秀な人材を育て! 仕返ししてやりましょうよ!」

「それは……しかし!」

「あなたは優秀な人だ。そんな方に訓練を受けられるのは、子どもたちにとっても幸運でしょう」

「……少し考えさせてくれないかい? 落ち着いて考えてたい……」

「残念ながら……諸事情で可及的速やかに事を進めなければなりません。もし今あなたに頷いて貰えなければ、子どもたちを引き取る話もどうなるか……お願いです! 私に、いえ、子どもたちの幸せのために力を貸してください!」

 大丈夫、嘘は言っていない!


「~~~! わかった、その話、引き受け――」

「ありがとうございまぁす! では早速荷物をこの袋へ! これもこれもこれも!」

 よしよし、話は決まった! 善と契約は急げって言うしな! 


「えっちょっと待っ……何だいこの袋!?」

「ちょっと『空間収納』を付与しただけですよ! そんなことより、こっちはやっときますからミネフさんは挨拶回りして来てください! 5分で!」

 ご近所付き合いは大事だからね。挨拶はしっかりお願いします!


「『空間収納』!? そんな国宝級の物……って5分!?」

「ほらほらほら~! 子どもたちが待ってますよっ! 急いで急いで~!」

「――えぇい、女は度胸! ちょっと待ってな!」




 挨拶回りを終え、どことなく若返った気がしなくもないミネフさん。やはり人生には刺激が必要ですな!

 刺激的過ぎて戻るための『高速飛行』中、何度か昇天しかけたけど。


 王都へ到着し、とりあえず人気の少ない宿屋にミネフさんを連れて行く。


「あ、忘れてたんですけど建物がまだでして……とりあえず急ぎ戻るので、また後で!」

「…………」

 良かった良かった、メイドさんに怪しまれない程度の時間で戻って来れたぞ!

 土魔法で作った身代わりにも反応ないし! あー子どもって忙しい!


 ◆◇◆◇


 その夜、無事に看病され終えた俺はミネフを連れて郊外の空地へ。


「……騙されたかと思ったよ」

「ごめんごめん! 急いでてさ。でも思いは嘘じゃないよ!」

「まぁ、良いわ。して第1王子よ、こんなところに連れてきてどうする気じゃ?」

「それはね~……」


 空間魔法で地下の空間を削り取り、地魔法で周囲を固める。建築法とかよくわからんから適当に柱を建てる。

 あっという間に、体育館2つ分くらいの空間を作り出す。1つは居住区、もう1つは訓練場として。


「……わしは夢でも見ておるのか……それとも、やはりあの時死んでしもうたか……」

「やだなぁ、これから長生きしてもらわなきゃ困るんだから」

 呆けられても困るからね!


「馬鹿げた魔法の範囲……いや、無詠唱……それに空間を削った?」

「まぁまぁ。で、他に必要なものある?」

 そういえば、人前で目立つ魔法を使ったのは何気に初めてか?

 ミネフさんに驚かれるくらいなら、自分の力は順調に育っているとみていいだろう。


「……お前さんは子どもたちをどうしたいんじゃ?」

「諜報や隠密活動に長けた私兵を持ちたい」


「……くっくっく。情報の重要性を理解しておるな。良いだろう、我が生涯をかけて培った技術、お主とその従者に授けよう!」

「ああ、任せたぞ。稀代の名諜報員ミネフよ」


 やったー! 隠密部隊だー! 何だかかっこいいよね!

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