第4話 5歳~はじめてのぬすみ~
「ならん」
翌日、朝一番にパパンにお呼ばれしたので面会。開口一番そんなことを言われた。
「メイディのことですか? それとも孤児院の獣人のことですか?」
「両方だ。獣人を王宮に招くなど、まして奴隷ではなく部下になどど認められるものか」
ぐぬぬ、この国の獣人差別は思いの他根強い……。
何か理由があるのか……? 例えば代々いがみ合っている中だとか、実は人間を食べるんだとか。
「お聞きしたいのですが、なぜ獣人は差別されているのですか?」
「? お前は動物を人間扱いするのか?」
「――っ!?」
「魔物でも言葉を話す者がいる。同じように、獣人というのは獣が人の言葉を話しているに過ぎない。そうだろう?」
いやいやいや、獣“人”でしょ!?
あーでもこれ、無理に王宮にいれたりすると逆に辛くなる奴だ。
「……どうしてもだめですか?」
「……そこまで言うのなら、1匹だけお前の愛玩用に飼うのなら認めてやろう。他はならん」
まぁ、どっちにしろこの国にいる以上はどこでも同じ気がするし、それならせめてメイディだけでも王宮に。
この一歩は、泥にまみれているけど確かな一歩のはずだ!
いつか、獣人を対等な存在へと導く標となるんだ!
知らんけど。
「ありがとうございます! あ、絶対に手を出さないでくださいよ、父上!」
「……何のことだ?」
この恨み、絶対忘れない。
寝取りはされるものではなく、するものである。
「知っているんですよ、私のメイドに夜な夜な手を出していること!」
「う、うむ。そ、そうか……うむ、約束しよう、うむ」
言質は獲ったど。
◆◇◆◇
「メイディ、迎えに来たよ!」
「王子様!」
トテトテと歩み寄ってくる犬耳の子。かわよ。
「ほら、これ!」
「わぁー! お人形、元通りだぁ!」
100点満点中100万点の笑顔、苦労した甲斐がありました。
「それと、もし前みたいに怖い人に襲われたり辛いことがあったらこのお人形に魔力を込めるんだよ」
「まりょくぅ? うん、わかったぁ!」
わかってないなこりゃ。なんなら魔法の使い方とかわかってない気がする。
ま、おいおい教えていくか!
「メイディ、今日から君には俺専属のメイドになって貰うけど、それでいいかい?」
「うん! メイディ頑張るよっ!」
メイドって何かわかってるのかしら。何か、美味しい話にほいほいついて行っちゃうそう。
「具体的なお仕事の内容はこのお姉さんに聞くんだよ」
「わかったぁ!」
「……そこは『かしこまりました』です。やり直しなさい」
おぉ、早速のご指導。しかし言葉に険を感じる。ここに来る前に散々優しくしてねってお願いしたのになー。
「かしこま!」
「『かしこまりました』。その程度も言えないのですか?」
「うぅ……かしこまるました!」
普段使いなれない言葉、難しいよね。
「ふふ。メイディ、みんなにお別れの挨拶をしといで」
「わかったぁ!」
トテトテと駆けるメイディを見送る。さて……。
「言ったよねぇ、優しくしてって」
「お、王子……しかしっ!」
「王ですら手を出さないと約束した相手に対して、一介のメイドである君が彼女の心を傷つけるというのかい?」
「そ、それは……意味が違うと……」
「意味? 手を出すというのが傷つけるという以外の意味を持っているのかい? もしそうなら教えておくれよ。子どもの僕に」
ボクわかんなぁ~い。
「……も、申し訳ございませんでした」
「うむ、励むがよい」
その後は何の問題もなく、メイディ以外の獣人の子の落胆した顔を見ながら、王宮に戻ったのだった。
◆◇◆◇
「金がない」
王子ックパワーを当てにして大見得を切ったわけだが、それが外れてしまった。
孤児院からメイディだけを連れて行くときのみんなの顔ときたら……。
「どうしたものか……」
彼らの使い道、じゃなくて彼らにやって欲しいことと方法は浮かんでるんだけども……。
まずお金がないと食っていけないのである。
そこで! 薄給でこき使われている兵士のみなさんに話を伺いました!
「給料以外でのお小遣い稼ぎですか? 小生は自主的な訓練で忙しい故、そう言ったことは致しておりませぬ!」
「そんな暇ありませんよ……今も部隊の予算計上に訓練場の予約、他部隊との合同訓練の打ち合わせだったり……」
「ふふ、自分には素敵なお姉様がいましてねぇ。お願いすれば、何でも買ってくれるんですよ。王子にはまだ早かったかなぁ、ふふ」
「自分は冒険者登録をしていて、休暇中たまにダンジョンに潜って戦利品を売ったり、魔物の素材を売ってますよ!」
なかなか有意義だったりイラッとしたり悲しい気持ちになるお話が聞けました! 2番目の人、過労死しないでね!
聞いた話を参考に、自分にあった方法を考える。
「やっぱり、あれだな!」
◆◇◆◇
夜も更け、王宮を抜け出す。気配を断ち、目的の場所へと向かう。
恐らく、今の自分では正攻法では行けない場所だろうから。
いよいよ彼の地に到着し、緊張に震える足を奮い立たたせ、1歩を踏み出す。
そして――。
「きれいなお姉さん! 僕お金が欲しいの! 何でもするからお小遣い頂戴!」
「どうしたの坊や……あら、可愛い顔してるじゃなぁ~い。お小遣いが欲しいの~?」
「うん!」
「うふふ。なら、ほっぺにチューしてくれたら、あげちゃおっかなぁ~」
「わかったぁ! ちゅー!」
「やぁん、うふふ。はい、お小遣いよ~」
そう言ってお姉さんは石銭1枚を渡してくれた。
きれいなお姉さんにチューできてお金も貰えて……最高だぜぇっ!
「うふふ、この辺りは坊やにはまだ早いわ。もう少し大きくなったらまたいらっしゃい」
「はぁい!」
……。
さて、どうするか。
さすがに石銭1枚(10円くらい?)じゃ全然足りない。同じことを繰り返しても、目標達成より俺の唇が渇ききってしまう方が早いだろう。
できれば、1年は食っていける程度の資金を調達したいところ。
およそ一般人の年収は金貨1枚(100万くらい?)、獣人の子は10人。俺のお小遣いは1年あたり金貨1枚程度。
……お小遣い10年分。つまり、将来的には自分のもの。つまり、最早自分のもの。
よし、Q.E.D!
前借だから……盗みじゃないから……。
仕方ないじゃないかっ! あの期待に満ちた顔からの落胆した子どもの顔!
これは投資! そう、人材への先行投資だ!
……大きくなったら返します。
『探知』……『亜空切断』……『時間回帰』……。
ふぅ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます