第3話 5歳~はじめてのときまほう~
「ところで、君の名前は?」
「わたし、メイディ! あなたは?」
「僕はアレク。この国の王子様だよ!」
「ふぇ~! 王子様! かっこいい!」
キラキラと目と鼻の下を輝かせて見つめてくる。
将来、この時のことをいじってやろうと心に誓う。
「さ、向こうでみんなお昼ご飯を食べているんだ。一緒に行こう」
「で、でも……私が行ってもいいのかな……」
「どうして? 何か気になることでもあるの?」
「だって……院長先生が、私たちは来るなって……」
どうしたんだろうか……?
そこで、ふと先程のいじめっ子の言葉が蘇る。
『犬っころのくせに人間様に逆らうんじゃねぇっ』
あー、そう言う感じ?
獣人は差別の対象なのか……?
「もしかして……君が獣人だから?」
「多分……他の獣人の子も来るなって言われてたから、そうだと思う……」
ふむ、これはなかなか難しい問題だ。この場で俺が獣人の子も同席させたら、後に折檻を受けたりさらなるいじめを招くかもしれない。先ほどのことを考えると他の人間の子たちはかなり強い差別意識を持っているようだ。いくら俺が許可したからと言って納得できないだろう。どうしたものか。
「大丈夫、みんな連れておいで! 王子様命令だよ!」
「……うん! わかったぁ! わぁーい!」
別にいいや。何か問題になりそうならまとめて身請けしてやんよ!
「あなたが~、王子様ですか~?」
「本当に俺たちも出てきていいの……?」
「あぁ、構わないよ。ご飯はみんなで食べた方が美味しいからね!」
「やったー! 本当は行きたかったの~!」
「うぅ……、ありがとうありがとう……」
その後、BBQ会場に戻り、ギョッとしている院長に事情を説明する。
「院長さん、メイディさんを引き取りたいんだけど」
「へ?」
「お、王子!? 突然何を!? しかもその子は獣人ではありませんか!」
「いいじゃん。もふもふして気持ちよさそうだよ? 俺付のメイドにしたいんだ!」
「お、王子様……メイディは獣人で……この国では差別の対象なんですよ……」
「そうですよ! 獣人だなんて汚らしい!」
「うぅ……」
いかん、メイディを始め他の獣人の子がいたたまれない気持ちになってる。人間の子も、嫌なものを見るかのような顔をしている。
こりゃダメそうだ。
「……ふむ、やはり気が変わった」
「――っ、うぅ……」
メイディちゃんがさらに悲しそうな顔をする。
「そ、そうですか……」
「ここにいる獣人の子全員、俺が引きとる!」
どーん!
「は、はぇ……?」
「……王子、それは奴隷としてですよね?」
「いや、ゆくゆくは俺の部下に、とは思ってるけど奴隷にするつもりはないよ。獣人だからって俺は差別しない!」
そういえばこの国には奴隷制度もあるんだっけ。
隷属魔法が便利だからって機密情報の取り扱いをさせられてるのを見たことがある。
しかしながら、確かに獣人は見たことがなかったな……。
「王子、お考え直し下さいませ! 獣人などを王宮にいれるだなんて悍ましい!」
「うるせぇ! 今日からお前の仕事はメイディを一人前のメイドにすることだ!」
どーん!
「なっ! そんなっ!」
「他の子にも適切な訓練を受けさせて立派な人材に育てる! だからお前ら! 俺について来てくれ!」
獣人の子らにも呼び掛ける。我が王子ックパワー(潤沢なお小遣い)を舐めるなよっ! 貴様らを養うことなど屁でもないわ!
「連れてってくれるの~……?」
「訓練って……強くなれるのか!?」
「美味しいもの、たくさん食べられる……?」
「あぁ。お前らの努力次第だが、強くなることも美味しいものを食べることも可能となるだろう!」
「……俺は行くぜ!」
「あたしも!」
「僕も……王子について行く!」
突然の希望に、みんな目を輝かせて期待している。
いいね、いい感じだ。
「あぁ! みんな、これからよろしくね!」
俺に恩を感じている人材をゲットだぜ! ふっふっふ、どのようにこき使ってやろうか楽しみだぜ!
◆◇◆◇
あの後、ギャンギャン犬のようにわめくメイドさんをどうにか説得しつつ王宮に戻った。
王に許可を得ようと思ったが、忙しくて明日に回されてしまった。
とりあえず、今できることから始めよう。さしあたっての問題は、メイディのお人形である。
もちろん、俺に裁縫の才能は無い。皆無である。Yシャツのボタンすら付けたことがない。
しかしこれについては問題はない。
「時魔法『時間回帰』!」
対象の時間を巻き戻す魔法! 物限定だけど!
某吸血鬼みたいに世界の時間を止めたり、生物を止めるのはどうやってもできなかったよ……。
「……お? おおおおおおおおっ!?」
魔力がっ! 吸われるっ! 何これ何これ!? 折れた枝に使った時はこんなに使わなかったのに!
「うぐぁあああ!」
無理っ無理っ! メイディ、ごめん。約束守れそうに、ない……。
諦めかけたそのとき、ふと閃いた。
「『空間収納』!」
中から魔力でできたビー玉を取り出し、口に含む。
ガリッ!
すると、内包されていた魔力が解放されて体に染み渡る。思った通り、魔力が回復したのを感じる!
「よしっ、これでまだ舞えるぐぇぇぇええええ!」
足りないっまだ足りないっ!
「はぁ、はぁ……」
数分か数刻か……気の遠くなるような時間も終わりを迎える。
結局魔力ビー玉をほとんど使い果たしてしまった。
以前試した時と消費する魔力が違い過ぎる……やはり巻き戻す時間が関係しているのか?
人形が壊されてからおよそ10時間ほど、それでこの消耗……『回帰』の使いどころは限られてくるな……。
「ふぅ。さて、ここからが本番だ」
人形は元に戻った。後はせっかくだからオマケの機能をつけてあげよう!
人形にオマケの機能が付く、俺は魔道具化の実験ができる、一石二鳥とはまさにこのこと!
メイディのママもきっとそうして欲しいに違いない!
「ふっふっふ、さてどうしてやろうか……」
巨大化して戦えるようにするか、致命傷を代わりに受ける機能にするか、はたまた……。
「……」
……いや、ママとの思い出の品なんだ。それは幸せにあふれる記憶に違いない。
変な機能を付けてそれを汚すなんてことはやめなければいけない。
「うん、そうだ。そうしよう」
幸せな記憶。過去世のことを含めて考えてもあまり思い浮かばない。
幸せって何だろう……。
前世とは別の世界、そんなこの世界の象徴ともいえる2つの月を眺めながら物思いに更けるのだった。
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