第2話 5歳~はじめてのじゅうじんさべつ~
エリーとの出会いから2年程。
彼女は週に1回度程、たびたび会いに来た。
彼女はとてもわがままな性格のようだった。こちらの気遣いを無遠慮に受け取り、さらに追加の要求をしてくる。
いや、子どもなら当然か? 前世ならまだまだ小学校にも上がらない年齢だ。
適当にちやほやしとけばいいだろう。幸い、上客への媚の売り方はマスタークラスだ。
「今日の予定は孤児院への慰問でございます」
「いもん?」
そんなことを考えていると、メイドさんから今日の予定を聞かされる。
「先日お伝えしましたが、身寄りのない子どもが過ごす場所へ赴き、子どもたちの様子を聞いたりして過ごして頂きます」
「目的は?」
や、それ自体はいいことだと思うけど、自分がする理由って何だろう?
早く魔法を極めたいんだけども……。
「……まず、普通の子どもは教育内容の目的を問いません。坊ちゃまには少し、子どもらしさを学んで頂きたいと私が提案しました」
「……俺の事を考えてくれてるんだね。ありがとう」
頼んでないけどな!
「……本当にそう思っていますか?」
「も、もっちろん! わぁーい、孤児院楽しみだなぁ!」
◆◇◆◇
「よくお越しになられました! 私はこの孤児院の責任者のイレグスと申します」
「うむ、第1王子のアレクだ。良しなに」
偉そうにするのが大事と教わりました。
「日頃より王室の方々には格別のご高配を賜り、感謝に絶えません。しかしながら我が医院も財政的に――」
「わぁ! 僕と同じくらいの年の子がいるぅっ! 僕と遊ぼー!」
そう言って子どもたちの方に向かう。
めんどくさい話はお終いだ!
「え、ちょっ! 王子様~!」
「まぁ、うふふ。王子ったら、やっぱり子どもねぇ~」
この世界は魔物が存在している。加えてこの国は他国への侵略も盛んに行っている。最近は少ないようだが……。
まぁつまりは争いが絶えず、その結果親が亡くなってしまって孤児になる子が多い。
13になった時に行われるの魔法適性を測る儀式までここで過ごし、結果が良ければ兵士に、そうでなければ冒険者や商人などになるとのこと。
「くぁっはっは、俺がこの国の次期王だ! 今のうちに媚びておくことを許す!」
「わぁー王子様だー! かっこいいー!」
「超絶イケメン!」
「妾にしてぇー!」
うむ、くるしゅうない。
「っち、なんだよ王子様がどうとか!」
「あっち行こうぜ!」
ふむ、男子には嫌われてしまったか。王子様は辛いな。
「王子」
「はっはっは、お前も媚に来たのか? 愛い奴め!」
「王子、お戯れはほどほどに」
「はっはっは、お前が子どもらしくしろというからお戯れているのではないか!」
「王子」
「……はい」
その後、お昼時まで鬼ごっこやかくれんぼをしましたとさ。
◆◇◆◇
「みんな、今日は我が王宮の専属料理人(見習い)たちが料理を振る舞ってくれるぞ!」
「「「わぁーい!」」」
孤児院のみんなに行き渡るよう、十分な量を用意したBBQだ!
これで俺の株も上がるってもんだ。
「さぁ、ここにはいない子もみんな呼んで食べよう!」
「こ、ここにいる子たちだけですよ! さぁみんな、王子様が振る舞ってくれる料理だ、存分に食べなさい!」
うん? おかしいな……『気配察知』では建物の奥の方と、建物の裏に複数の人間がいるのだが……。
『気配遮断』を使用し、こっそりと裏の方へ向かう。そこには――。
「返してっ! わたしのお人形!」
「うるせぇ! 犬っころのくせに人間様に逆らうんじゃねぇっ!」
白い耳と尻尾が生えた同い年くらいの女の子がいる!
何だあの耳は! もふもふのしっぽは! 可愛いの権化かよぉ~!
獣人の子! 初めて見るけど、本当にいるんだ!
「ママに貰った大事なお人形なの! だからお願いっ!」
「うるせぇっ! 俺たちは今むかついてんだよ!」
「恨むんなら王子様を恨むんだな!」
決めた、あの子は俺付のメイドさんにしよう! そうしよう!
犬耳メイドとか俺ってば天才だぁ~!
「やめてってば! 返して!」
「そんなに大事なもんなら、こうしてやるよっ!」
ビリビリビリッ!
ぁ。
「いやぁー! ママが作ってくれたお人形がーっ!」
「けっ。ボロっちい人形だぜ。すぐ壊れちまった」
「じゃあよ! 人形の代わりにこいつぶん殴ろうぜ!」
「おい」
できる限り低い声で声を掛ける。どう頑張ってもソプラノだけど。
「あ? 何だよ――」
「邪魔すん――ぁ」
「この子はたった今、俺が身請けすることにした。よって俺の所有物だ。言いたいことはわかるか?」
「「は、はい……」」
「子どものすることだ、今回は見逃そう。次に同じようなことをしたら……わかるな? わかったら行けっ!」
「「はっはい……っ!」」
よし、あいつらの特徴を覚えて後で名前を聞いて……子どもだからって容赦すると思うなよ!
「うぅ……ぐすっ、うわぁーん!」
「よしよし、間に合わなくってごめんね」
「ひっぐ、ひっぐ……ママが最期に作ってくれたお人形……」
改めて人形を見る。手作りの、母親の愛がどことなく感じられるそれは、無惨にも真っ二つになってしまっていた。
「そっか……とても大切な物なんだね」
「ぐすっ、うわぁぁぁあん」
鼻水を大量に出しながら、大粒の涙をぽろぽろ流す女の子。
「よかったら、僕に直させてくれないかい?」
「ぐすっぐすっ、直せるの?」
「うん! だから、1日だけこの子を預かってもいい?」
「ぐすっ、うん!」
にっぱぁー。
ついさっきまで大泣きしていたとは思えない笑顔。かわよ。
「あと、ついでに僕のメイドさんになってくれる?」
「うん!」
よし、言質は頂きました!
犯罪じゃない、同い年くらいだから犯罪じゃない……!
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