第1章 幼少期

第1話 3歳~はじめてのいいなずけ~

「オンギャー、オンギャー!」

「■■■■■■■!」


 こ、ここは……無事、転生……した……のか……?

 あ、だめだ……寝……。




 ◆◇◆◇




 ――4年後――


「おはようございます、父上」

「あぁ、おはようアレク。今日も励め」

「ははっ!」


 無事に転生して4年目。

 忙しい父親を珍しく見かけたため、片膝を付き、手を心臓に添えて挨拶をする。


「完璧な挨拶、坊ちゃまは本当に賢いですね」




 俺は王族に、それも最初の王子として生まれた。


 確かに環境としてはこれ以上ないくらい恵まれているのだろう。

 王族として、豪勢な食事、貴重な魔法の研究資料等、ありがたく満喫させて貰っている。


 ちなみに見た目は前世の俺の、ザ・日本人って顔をベースすると女神は言っていたが、部分部分をいじるだけでこうも変わるのかってくらい馴染めている。

 髪の毛は黒。うん、大和魂を感じるぜ!




「よしよし、ご褒美ですよ」

「わーい」

 美人なメイドさんの抱擁、これもまた王族の特権だ。


「本日の予定ですが、午前は騎士団長による剣術の訓練、午後は宮廷魔術師長による魔法の座学となっております」

 きっつ! 毎度思うけど3歳児の生活としてはおかしい!


 そう、俺の転生先は武力至上主義の国。3度の外交よりぶん殴るのが好き、そんな国でした。

 このクイードァ王国を代々治めるクイードア家は誰よりも強くあれとの家訓の元、英才教育を施されている。軽く死ねるんですけど……。


 ◆◇◆◇


「王子っ! 体幹がぶれてますぞっ!」

「はいっ!」


「王子っ! 踏ん張りが甘いですぞっ!」

「……はひゅっ!」


「王子っ! 腕に力が入りすぎですぞっ!」

「……オロロロロロ」


「王子っ! 吐くなら敵に向かって! 目くらましに使うのです!」

「……(泣)」


「……ふむ。王子は体力も無く足腰も弱い。今日の残りは走り込みをしましょう!」

「……(無)」


 ◆◇◆◇


「王子、いいですか。魔法とは……」

「すやぁ……」

 ゴツン。


「いってっ!」

「王子、魔法とは詠唱によるイメージの固定化が重要で……」


「ぐぅ~」

 ゴツン。


「いってっ!」

「王子、いかなる強力な魔術師でも詠唱を疎かにしては……」


「すぴー、すぴー」

 ゴツン。

 ゴツン。

 ゴツン。


 ◆◇◆◇


「坊ちゃま、お痒いところはございませんか?」

「えっとねぇ~、おち○ちん!」

「もう、坊ちゃまったら~うふふ」

「私は背中を洗いますね~」


 地獄の訓練を頑張れるのには理由があった。

 そう、美人メイドさんである!


 今、一糸纏わぬメイドさんに体を洗われているとこ!

 ふわふわでぷるぷるだぁ~!


「やぁん! 坊ちゃまのえっち~! やっぱり血は争えないのね……」

「やだなぁ。今日の王様の夜伽、私だよ~」

「――ッ!!!」


 ね、寝取られ、だと……っ!?

 王よ、許すまじ。

 いずれその場を追い、我がハーレムを築くことをここに誓う。




 そんなこんな、剣術などの訓練は不慣れなのもあって真面目に取り組み、魔法の訓練は目立ちたくないのもあって適当にこなしていった。


 ◆◇◆◇


 流石に夜は年相応の時間に眠る。

 この時間こそ、魔法の修行の本番だ。


『魔力総量』は限界まで使った後に眠ると超回復により、伸びていく。筋トレと同じ感じ、多分。

『出力』も限界まで大きく使っていくことで伸びる。筋トレと同じ感じ。

 

 最早、子どもとは思えない量の魔力を限界まで放出し、極限まで圧縮する。

 すると、ビー玉サイズの魔力塊が出来上がる。

 これを『空間収納』の魔法でしまい、もう一度同じことをする。


 もちろん、一連の動作は無詠唱で。

 家庭教師の魔術師さん曰く、詠唱が大事とのことだがそんなものは必要ない。

 例の転生部屋で散々制御とイメージ力を覚えたからね!




「あっ、もう……らめぇ……」

 何度か繰り返すと魔力が底をつき、気絶するように眠るのだった。

 



 ◆◇◆◇




「坊ちゃま、今日はいよいよエレーヌ=アルティス様とのご会談ですよ」

「……誰?」


「先日お伝えしたかと思いますが……坊ちゃまのご婚約者様です」

「こんやくしゃ?」

 やっべ、全然聞いてなかったかも……。


 まぁ、どうせ王に決められた婚約者だ。いわゆる政略結婚だろう。

 それにまた寝取られるかもだし……。

 そもそも、愛がない結婚なんだから愛人を作るのは当たり前とか聞いたことがある気がする。

 ん~、そう思ったらどうでも良くなったなぁ~。

 早く魔法の勉強したいな~。


 先日この話を聞いたときと全く同じことを考えているんだと気付いたとき、応接間にたどり着いた。


「お、お初にお目にかかります、エレーヌと申します……の!」

 の?


「初めまして、アレキサンダー=クイードァです」

「どうぞ、エリーのことはエレーヌと呼んでくださいです……の!」

 の?


「お嬢様、『の』が出て来てますよ! あれほど注意したでしょう! それと自己紹介が逆です!」

「まぁまぁ、可愛くていいじゃない。気にしないから、僕の前では自然に話してごらん?」

 幼い言葉使いを注意されて涙目になるお嬢様。


「ふふ、エリー、でいいのかな? 僕のことはアレクと呼んでね。さ、どうぞ楽にして」

「ありがとうですの!」

 うむ、元気で明るい子だ。子どもはこうでなくては。


「まぁ、窺っていた通り第1王子様はお優しい方ですね」

「えぇ。王子はとてもお優しく子どもとは思えない程しっかりした方ですよ」

 お付きの人達の会話が聞こえてくる。


「このお菓子、とっても美味しそうですの!」

「食べてみるかい? 王宮自慢の料理人が作ってくれているクッキーだよ。ほら、このお皿を使って」

「まぁ、お嬢様。はしたないですわよ」

「坊ちゃま、そのようなことは私たちがやります」


 やっぱり? けど、いちいち人にやらせるのも時間がもったいない。

 婚約者との会談と言ったって、まだお互い3歳よ?

 言葉使いとかマナーとかなんとかめんどくさい。けれど婚約者相手に無遠慮なことはできない、きっといいとこの娘だろうし。


「いいんだよ、エリーには僕がやってあげたいと思ったんだ」

「「まぁ」」

 ある程度喜ばせたら満足でしょう。ぶっちゃけ面倒くさいので早く帰って欲しい。そのためにできることは何でもします!


「ありがとアレク!」

「いいんだよ。そうだ、このクッキーに合う紅茶があるんだ。淹れてあげるよ」

 そう言って、予め用意されていた紅茶を入れる。


「わぁーいですの!」

「ふふ、お嬢様はアレク様が気に入ったみたいですね」

 そうだろうそうだろう、だからはよ帰れ。




「うん! アレクは何でもしてくれるんですの!」

 2人の関係性が決まった瞬間だった。

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