第5話 蜂と約束 その2
さて──
「で、これからどうするわけ?」
隣にいる小柄な少年、リンに向かって言った。
「よし、じゃあいきましょう。」
リンは、ワームをしまいながら言った。
「行くってどこに?」
「紹介したい人たちがいるんです。」
そういってリンは、壁に手をつく。
そこを中心に、扉がつくられていく。
:うおおおお
:まじで何だこれ?
:魔法だろうけど
(こんな近くで見たのは初めてね……)
「……その魔法、どうやって覚えたの?」
私はリンに聞いた。
「これですか?師匠に教えてもらったんです。」
「!お師匠さんがいるの?」
「ええ、今はどこでなにをしているのかわかりませんが。……よし、できた。……ついてきてください。」
そういい、リンは扉を開けた。
私は、その後をついていく。
扉の先は、薄暗い廊下のような場所だった。
横の壁についている松明だけが周囲をほのかに照らす。
ーー暗くて廊下の先が見えない。
(不気味な雰囲気ね……)
:こえー
:なにここ?
:なんか見たことあるような気もする
リンは、そこを躊躇なく進んでいった。
しばらく彼と薄暗い廊下を歩いていると、
次第にブブブブと大きな羽音のような音が聞こえてきた。
音は、次第にこちらに近づいてくる。
その音を配信のマイクが拾った瞬間、コメント欄がざわつき始めた。そして、私の心も。
:あーー
:うっわ
:俺こいつ嫌い
:うーん
:モザイクでお願いします
そして、廊下の先の暗黒から音の主が出てくる。
ーー大きな蜂のモンスターだった。頭には、なぜか帽子をつけている。
:
:針で刺してくんだよあいつ
:毒とか使ってくるし
:あと数が多い
:みんなの嫌われ者
(配信者初めて間もないころ、こっぴどく追い回されたのを思い出すわ……)
すると、
『お久しぶりッス!親方!」
巨大な蜂が、リンに向かって話しかけた。
「久しぶり!ジンジャー!元気だった?」
:えええええ!?
:しゃべったああああああ
:え!?
:この子の周りのモンスターみんな喋んの?!
:というかなんか、デカくね?
『いやー前はお世話になりましたッス!おかげでみんなに会えたッス!……あれ?後ろの人間は誰ッスか?』
「ああ、彼女はハルカ。はいしんっていうのをしてるんだって。僕の友達!」
『え!?……ホントっスか?うわあーじゃあ私とも友達ッスね!よろしくッス!』
そういい、ジンジャーと呼ばれた大きな蜂は、私に向かって右手を差し出してきた。
「ええ……よろしく……。」
私は、恐る恐る差し出された手を握る。
:俺たちは今とんでもないものを見てる
:巨大針と握手した人間初めてだろ
:いつもは人間みつけたらブーンチク!だもんな
:殺意MAXだもんな
ジンジャーと呼ばれた大きな蜂は、
『案内するッス!』と奥に飛んでいった。
「あのーリン、ちょっといい?」
「?なんですか?」
「……あの巨大蜂とはどんな関係なの?」
「ああ、彼女が道に迷って群れからはぐれちゃったときに、僕が見つけて、それで友達になったんです。……そしたら最近、彼女から連絡がきて、頼まれごとしちゃって。」
「頼まれごとってーー」
そう彼に聞こうとした時、『着いたッスよ!』とジンジャーが言った。
そこには、集落があった。
沢山の巨大針がせっせと右に左に飛び回っている。
彼らは、バケツいっぱいに食糧や岩などを入れ、細い手足で抱えて飛んでいた。
『私たちの村へようこそッス!』
私たちは、村の中へ入り、前を先導するジンジャーの後をついていく。
その中では、蜂たちが露店のようなものを開いていたり、
他の巨大針が運んできた建材を使って他より一回り大きな巨大針が家を建てていたりしていた。
(凄い……小さいけれど……集落ができてる……)
本来、私たちにとってダンジョンにいるモンスターとは、
私たちを妨害するだけのシステムのようなものだと解釈されている。
しかし、今ここにいるモンスターたちは、ほとんど人間と変わらない生活をし、文化を築いていた。
しばらく歩いていると、目の前に大きな門が見えてきた。
すると、先頭にいたジンジャーがぴたりと止まり、私たちの方を振り向いていった。
『私が行けるのはここまでッス!奥でクイーンが首を長くしてお待ちッスよ!』
そういいながら、彼女は私たちに道を譲る。
「ありがとうジンジャー。……帽子、似合ってるよ。」
『!!……どもッス。』
そういい、彼女は照れ隠しのためか、よりいっそう羽音を大きくしながらどこかへ去っていった。
(……私は何を見せられてるの?)
そうして私たちは、大きな門の前に立っていた。
:でけえええ
:これあの巨大針が作ったのか……
「すっご……この中に入るの?」
そうリンに訪ねると、
「ううん、来客用はこっち」
横に、私たちのサイズにあった小柄なドアがあった。
そこをリンは、おじゃましまーすと元気に開ける。
「あ、ちょっと」
慌てて私もドアをくぐった。
そこにいたのは、今までの巨大蜂とは比べものにならないほど大きな蜂型のモンスターだった。
すべての巨大蜂たちをまとめる司令塔にして、すべての巨大蜂の生みの親。
本来、巣の奥にいて表に出てくることは滅多にない。
彼女が出てくるときは、巣が壊滅状態に
陥った時のみ。
我が子たちを失い、怒り狂った女王となって、周囲の生き物を刺し、毒を流し、殺す。
そしてそのドロドロに溶けた死体らを残さず喰らい尽くし、また新たな子供たちを産むのだ。
そんな狂乱の女王が今、豪華に飾り付けられた特大サイズの玉座に鎮座し、
唇──正確には顎に、これまた特大サイズの赤い口紅をくるくるやりながら、
「あんらあぁ〜〜〜〜〜!!!!!」
と、空気を揺らして声を上げた。
「やぁ……久しぶり」
リンが、やけに厚化粧をした女王蜂にそう挨拶した。
「まぁ〜〜〜〜も〜全然変わってないわねえ〜〜」
「変わったよ……背も伸びたしさ」
「あらそういうとこも全然変わってないもぉ〜〜〜可愛いい〜〜〜〜!!!えねぇチューしましょチュー!前みたいにほら〜〜〜」
「やだよ……臭いし」
「え!?あらやだこの子ったらそんなこというようになって!!レディーに臭いとか言ったらいけません!めよ!めっ!」
「ああ……ちょっと離れて……うわ、大自然の香りがする…………」
「なんですって〜〜〜〜!!!」
:おいおいおいおい
:これが……あの女王蜂??
:ただのおばさんにしか見えんぞこれ
:厚化粧すぎwwwwww
:俺のお母さんに似てる…………
これが……
「予想と全然違う」
「と、まぁ。
こほん、と女王蜂は口に手を当て、咳払いをした。
──妙な所まで、人間っぽい。
「横の女の子はだぁれ?──え、もしかして彼女?」
そう私に視線を向けられ、どきりとする。
「違うよ。彼女はコハル。魔物に興味があるんだってさ。ハイシンっていうやつをしてるんだ」
「どうも……こ、コハルです……」
ふん、と鼻息を出しながら向ける私に向けられた目は
───捕食者の目だった。
ぞっとした。その真っ黒な目の奥に、鈍く光る憎悪の感情が、ぐるりと渦巻いていた。
しかし、
「まあ……リンにも人間の友達ができたのね。」
次の瞬間には、
「リンのこと、よろしくね。」
その、差し出された丸太のような太さのある前足を
握ると──うっすらと、温かみが伝わってくる。
「はい……ありがとうございます……」
そう恐る恐る返すと、彼女は「うふふ……」
と笑って。
「じゃあ、本題に入るわね」
と、目を細めていった。
ふと、握手した右手を、こっそりと嗅いだ。
一瞬で、鼻腔に干し草の腐葉土と、糞や香水の混じり合った絶妙な香りが広がる。
「だ、大自然の香り……」
:おい
:やっとる場合か
底辺配信者の私、ダンジョンの隠し部屋でたまたま最強のドラゴンと友達のショタと出会ったら、めちゃくちゃバズっちゃいました〜ようこそダンジョンへ!〜 ドアノブ半ひねり @yukida
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