第4話 蜂と約束 その1

私、小野寺ハルカはダンジョン第二層の入り口に立っていた。


(ごめんモモ……でも、私、このチャンス無駄にできない。

それに、あの子と約束もしちゃったし……)


そう思いながら、私はーー配信開始ボタンに手を触れた。

明るくなった画面に、笑顔で話しかける。

「こんにちは!ハルハルchのハーー」


:きたあああああああああああ

:まってた

:うおおおおおお

:黒龍はどうなったんだ!?

:あの男の子は?

:たのしみ

:よくみるとハルカちゃんかわいい

:聞きたいことしかない

:こんハル

:え?リンくんいないの?

:またドラゴン見せてくれー 

:ハルカちゃんびびってない?w

:驚いてんだろwだってこの同接だもんな

:まじで楽しみだった


(凄いコメントの量……!!同接3万人!?……ほとんどの人は配信を楽しみにしてくれてたみたい。

だけど……


:黒龍の話はどうなったん?

:あんな子供に任しといていいの?

:説明はよ


ーーモモの言うとおり、否定的な人もいる。

そういう否定的な意見を、何とかして変えないと……)

そう思いながら、崩れた表情を再びつくり直す。

「ーーハ、ハルカでーす。今回の配信では、昨日の説明とかも兼ねて、モンスターの魅力をみんなに伝えていこうと思いまーす。

 そして!昨日黒龍で私のことを助けてくれた美少年のリンくんがこの配信に出演してくれます!!」

:おおおおおおおおお

:そのために来ました

:どこにいるのー?

:うつってないよ


「……じゃあ、集合場所に今から向かいまーす!」


:おいw

:いまからかよ

:大丈夫かよw

:いぇーい

:頑張ってー


ーーでも、自分の言葉に反応してもらえるって、……こんな嬉しいことなのね……


私は、少し上機嫌で集合場所へ向かった。



(さて……噴水広場についたけど……リンくんは……)


真ん中に噴水が位置している開けた場所ーー通称、噴水広場に着いた私は、キョロキョロと辺りを見渡した。


ーーあ、あれかな。

奥の方に、しゃがみ込んでいる小さな人影を見つける。

 黒いローブを身につけていた。


:いたー

:あれじゃね?

:背ちっちゃいなー


私は、小走りで人影に近づいた。

さっきは遠くからでわからなかったが、地面にいる何かを

撫でているようだった。


「リンくーん!なにしーー!?」


ーー彼の手の中には、ヤツメウナギを赤ちゃんぐらいの大きさにしたような見た目に、ぬめった体液を持つ魔物。

ーーワームがいた。


「よしよし。お前はいい子だな。」


彼は、まるで小さな子犬を撫でているような笑顔で

ワームを撫でていた。

:えぇぇぇ……

:きもぉ……

:これが昨日の美少年……!?

コメントは、困惑の声で溢れていた。もちろん私も。

「えぇぇ……な、なにしてんの……?」


彼は、私の言葉に反応し、笑顔のまま振り向く。


「あっ、待ってましたよ!……えっーと……」

「ハルカよ……あの、それは……」


「あぁ。この子ですか?この子はジャンピエールです。

可愛い名前でしょう?触ってみます?」

「えっっ!?いや……あの……遠慮しておくわ……」


--------

私は宙に浮くカメラに向かって苦笑いしながら言う。

「え、えーと、この子が、モンスターとお友達の少年、リンくんでーす……。」

「はい!みなさん、こんにちは!!今日は、僕の友達の魅力を皆さんに伝えられるよう、頑張ります!!」

『ブルアアアア!』

彼は、腕に暴れるワームを抱えたまま、意気揚々と言った。


:やばすぎるって

:心配になってきた……

:大丈夫か?これ……






 


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