10 手がかり

今、状況がとても悪い。

作戦を何も立てられずに来てしまったこと。

そして何者かに見られているということ。しかも二組。すごいわかりやすいんだけど。

一方の視線からは殺気を感じている。怪しい事件の匂いしかしない。

振り返る?

だめだ。私じゃすぐ捕まりそう。

絵本で読んだ世界のように、魔法でもあったらなぁ。あるわけないけど。


こうして考えて歩いている間にも、視線は途切れない。

とりあえず、すれ違う人たちの左手を見たりしているけれど……わざわざ手の甲を見せてくれている人なんていない。


「___」



歩いている道の横には、いくつか道が通っている。

道といっても建物と建物の間にたまたまできた隙間。

私も当時、心が壊れた時に座っていたような場所。

……私みたい。

そこに、10歳ほどの子がいた。

元々白かったであろう、裾の短いワンピースを来たその子は、ハエが周りに来るほどで、体も小さめだった。


どうしても黙って見ていることができず、その少女の元へ体が動いていた。


「これ、売ってお金にして」


頭につけていたレース付きのリボンを少女に渡す。

お嬢様からのお下がりとだけあって、質の良いもの。

捨ててもいいわよって言っていたから、この子に渡しても怒らないだろう。

彼女がゆっくりと私とリボンを見比べた。

黄土色の瞳は濁っていて、感情がわからない。


「……」


言葉が分からないからか、礼をしてフラフラとどこかに歩いて行った。


「が、頑張って……」


いや、頑張ってってなんだ?と自分に説教する。

少女も行っちゃったことだし、捜索開始です。

一息ついて、もう一度歩き出した。




「はぁー、手がかりが何にもない……」


お昼どき、空いたお店に入ると、どっと疲労が返してきた。

あまりに疲れた顔をしていたのか、店員さんに尋ねられた。


「お疲れですか?」


私より1つか2つ年上の、店の制服をきっちりと着こなした好青年で、水をテーブルに置いてくれた。


「はい……仕事が上手くいかなくって」

「そうなんですか……。実は僕も、用事があったりしてこのお店を休みがちなんです。ここだけの話、よく店長に怒られてしまうんですが。それでも食らいついていたら、最近、前よりお給料も弾んで。だからお客さんも頑張ってください」

「なるほど。ありがとうございます!」




その後、入った時よりも足取りを軽くしてお店を出た。

いい人だったなぁ。

何だか、お腹いっぱいになって眠くなってきたかも。

一度あくびをしてしまった。


きょ、教育係の私が人前であくびなんて……こういう癖がお嬢様にうつっちゃだめです。直さないと。


と思いながら時計を見ていたら。


「いっっッッッ___」


住宅と空き家の間の路地に引っ張られる。

さらには口元に布を当てられた。


素早くて力が強い。

私の護衛術じゃ勝てない……!

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お嬢様!最低で最高です。一生スパルタで行きますからね! いなずま。 @rakki-7

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