9.5.アスカ嬢って、猛者だ…
「明日は、ここに来なさい。くれぐれもハナに見つからないように」
いかにも命令らしい命令を受けたハルは、昨日アスカと分かれた分岐点に来ていた。
ジョージには、地位と財産と金はあるので、別の教育係が付いている。ちなみにハルを合わせて10人ほど。面識はほとんどない。
多いと感じる人もいるかもしれないが、むしろ一人の教育係だけで回しているアスカは、かなり希少だ。ハナは愛されているらしい。ただ、それによって彼女への負担は増えていくだけだが……。
(そういえば、時間も聞いていなかったけど……)
と思考を始めた途端、アスカが走って来た。
「お待たせしましたわ」
「全然待っていないので、気にしないでください……てか、それどんな格好してるんすか」
アスカは、眉毛まで隠れるサングラスに、茶色い布を髪に巻いている。さらに赤色のコートはまるで……。
(スパイファ〇リーのアー〇ャの変装そっくりだ……)
「ハル、行くわよっ」
「行くって、どこに……」
「ハルなら察しづいていると思ったのですけど……」
二ヒヒヒ。
不敵に笑いながらハルを玄関の方へ引っ張りながら走るアスカ。
この格好。まさかとは思ったが……。
「やめましょう。アスカ嬢。ハナは自らの意思で行ったんです。ちょっと悪い顔してますし」
「やめませんっ。そもそもあんたが持ち出した話。償ってもらうわっ」
「―――はい」
(逆らえない……)
下町の市場まで来た。通称カイト通り。200年も続く凧作りの里として有名だからだそうだ。
そして、アスカらは家の角などに隠れ、ハナをそっと尾行していた。
ハルは、わかっちゃいたが本当にやるとは。アスカ嬢って猛者だ、とあきれた目で見ていた。
「アスカ嬢。アスカ嬢は変装していて結構なんですけど。僕ってやらなくていいんですかね」
「ノープログレム!ハルはそのままで十分庶民ですわ」
「それ褒めてます?」
「褒めてます褒めてます。教育係になれてびっくり」
「絶対ディスってますよね」
「まあ、顔がいいことは認めてやりますわ」
「そんなお世辞もらっても困ります」
「ハナもだけど、教育係ってなんでこんなに謙虚なのかしら」
はたから見れば普通の中の良い兄妹だろう。しかしハルは、これでも一応仕事、という認識が大きい。
心から打ち解けるのはもう少し先になるのかもしれない。
尾行途中、ピクリとハナの肩が動いた。
これは、気づかれたのか。
少なくとも気配は感じ取られたのか。
アスカも気づいたようで、ため息をついていた。
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