8.5.とても理解しがたいですわ…‼

ハナがいなくなったカルピオ地方領主の娘、アスカ令嬢の部屋にて。

アスカと、もう一人、美少年ともいえる青年が立っていた。

青年・ハルはアスカの視線から逃れようと、別の物に視線を移すも、アスカはそんなことには動じず、青年を見上げていた。

ハルはあきらめて、アスカを見る。

この沈黙が、気まずさをより一層引き立てるのだった。


「ハル、聞きたいことがありますわ」


視界からハルをとらえながら、令嬢は続ける。


「ハナへの依頼をドタキャンした理由を教えなさい」

「……、アスカ嬢も、分かっているはずです」

「ええ。だからこそ言っているのですわ。あなたが抱く気持ちは、他者が気安く口に出してはいけないものよ」

「そうですね」


ハルは、唇をかみしめ、赤い顔を取り繕い、必死に言葉を紡ぐ。


「アスカ嬢もお察しの通り、ぼ、ぼくは、は、ハナのことが……す……」

「ふふっ。わたくしも悪魔ではありませんもの。最後まで言う必要はありませんわ」


良いものを見た、というように、アスカはハルに言葉をかける。

彼はスイッチが切れたように肩を落とし、ため息をついた。


「ハルの気持ちに確信が持てればよかっただけなの。ですが、とても理解しがたいですわ……‼」

「―――?なぜですか」


青年は本当に何も心当たりがない、というように首をかしげた。

令嬢は「まったく。これだから男はぁ」と頭を抱えた。


「あなたが、ハナにこの話を持ち込んだのは、ハナと少しでも仲良くなるため。ハルは一途なのですね」

「―――ちょっ、えっ」

「いひひひひ。好きな子に近づくために一生懸命なのは良いことですわ。しかし、問題はこの依頼の内容」


彼女は写真を指さすと、とたんに険しい顔をした。


「教育係とあって、ハナも鍛えてはいるわ。でも、所詮はただの女の子ですわ。もともと捨てられていたんですの。トラウマが再発したらどうするんですの⁉」


今度はハルを指してそういった。

一方の彼は、


「………」


アスカから目線を外し、目がうつろになっていた。


「あと、その後も良くなかったですわ。ドタキャンはやめてあげた方が良いと思いますわ」

「な、なんでですか」

「わたくし、一度だけ見たことがありますの。ハナの通帳」

「……⁉」

「ハルはわたくしより、位の高いジョージに仕えているから、それなりに給料がはずむでしょう。しかし、わたくしは補欠の領主。それに仕えているハナの給料は、コスパが悪いですわ。ほぼずっとつきっきりの仕事なのに、ギリギリの生活をしていることが分かったんですの」


暗い表情をしてやや下を向く令嬢に、ハルは考えさせられた。

自分はどうしたらよかったのだろう。

やがて、メイドが晩餐会の知らせを持ってきたので、ハルたちはまた後で合流することになった。

分かれ道で、アスカ嬢はハルに、目を見ていった。


「勘違いしないでほしいのだけど、応援していないわけではないのですわ。私も、できることはやってあげますわ。ハナの為に、明日は、ここに来なさい。くれぐれもハナに見つからないように」

「わ、分かりました」


そんな会話をして、二人は別の方向へと去っていったのだった。

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