6.わたくしが守りますわ!

椅子が後ろに下がり、そんなことは気にせず二人は睨み続ける。

それは、虎と竜のような凄まじい雰囲気を表していた。


「二人とも、落ち着いてください」

「でも……!」

「二人とも、第三者の私にもわかるように話してください」

「「分かった(わ)……」」


子供かよ。……それはともかく。

一見ちょっと流行っているタトゥに見える。

ただ、この二人の反応からして、単純なことではなさそうだ。


「まず、アスカ嬢からはなしていただけますか?」

「ええ。ハナ、わたくしは子供でありながら、仕事があるでしょう?」

「そうですね」


いきなりなんの話だろうと、お嬢様の話に耳を傾ける。

空になったコップをぐるぐると小さく回して話し始めた。


「仕事の最中、カルピオ地方の不穏なニュースが嫌でも耳に入ってくるわけですよ」

「確かに、そういった類の資料を読むだけの仕事もありましたよね、お嬢様」


相槌を打ちながら、普段のお嬢様を思い浮かべる。

外を見ながらやっていたり、寝落ちしていることもあって、重要な資料だろうけど中身がめっちゃ見える。

その中に殺人や行方不明者など、様々なことが書いてあったはずだ。


「それで、問題は、このタトゥのデザインと場所ですの」

「あっ、演劇とかでよく見る、このタトゥを入れた人は犯罪者的な?」

「察しがいいね。でも、それだと甘いかな」


発言した私にハルがひと声あげるが、なぜかお嬢様から不穏な雰囲気がでている。


「ちょっと!わたくしが話していたんですけど」

「『まず、アスカ嬢からはなしていただけますか?』と前置きしていたはずです」

「ぐぅぅぅぅ」


この二人、馬が合わないと犬猿の仲の象徴だな。


「お二人とも、甘いってどういうことです?」

「……。犯罪者とかかわりがあるっていうのはいい線いってるよ」

「しかし、じつは、このタトゥ……」

「「エリナガル地方から来た殺人者の奴隷なんだ(なんです)!」」


競い合うように、私に叫ぶ。


「えっ」


反射的に言葉が出た。

そこで、なるほどと納得する。

ハルが甘いと言っていたのにも頷ける。


「要は、犯罪者がつけていると、組織が見つかりやすい。それだから、奴隷の身に付けさせ、自分たちは見つかりにくくなり、はじめに疑われるのは奴隷になる……と」

「そう。だから、ぼくたちもこのタトゥの意味に気が付くまで1年かかった」

「で、犯罪者自身たちは、一般的に見えない足の裏に、その犯罪組織社員用のタトゥを入れているんですわ」


なるほど……。


「それで、最も問題なのは、エリナガル地方から来た殺人集団だって事」

「カルピオ地方に大きな影響を与えるとともに、カルピオ地方はエリナガル地方とさらに仲が悪くなると……」

「ご領主様はせっかちだからね。ちなみにこの案件を知らない」


「えっ」


それって違反くらいやばいことしちゃってるんじゃ……?


「もしもの時はわたくしが守りますわ」

「バレなきゃいいってことだし」

「そういうことじゃなくてですねぇ」


この二人、変なところで気が合うな。

お嬢様の遊び道具として、また呼んであげよう。

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