人質拉致、連続殺人グループを追え‼

5.ハナ!それ受けちゃいけない依頼よ!

「それでは、本題に入っていただけますか?」

「嫌われてるのかな?同じ教育係なんだから、もっと仲良くしようよ」


彼は本気で私と友好関係を築こうとしているらしい。

こういうタイプは少々めんどくさい。

ただ、悪い奴かいい奴かは紙一重なことが多い。


「……まぁいいや。長くなるから、なかで話してもいいかい?」

「―――ええ。どうぞ」


手で彼を促すと、タンスから椅子を二つ取り出した。

普段はお嬢様だけが座っているので、テーブルは小さいがあまり関係ないことだろう。

長く話すみたいだし、全員分一応出しておこうと思った。

ハルが座ると、私も腰を下ろす。


「まぁ、じっくり話したいところだけど……」


私は目力でお嬢様にはそんな時間ないんですよと伝える。


「随分警戒されているみたいだから早々に本題に入るよ」

「そうしてください」

「冷たいな」

「うちのハナに手を出さないで下さい‼」


いつの間にかお嬢様も参戦。


「……まあいいや。……それで、これ知ってる?」


右胸のポケットから何らかの写真を取り出す。

そこには、人の左手の甲が映っていた。その手の甲には、三角や四角などの形を駆使した、かっこいいと思えるタトゥーが刻まれていた。


「見たことあります。カルピオ地方とエリナガル地方の国境っていうか、地方の境目あたりで一度。ただ、その時は意識が朦朧としていたころで……印象的なので覚えていたのですが、頼りにはならないかと」


お嬢様に拾われる前のことだ。

そして、エリナガル地方に捨てられた後でもある。


「そのタトゥー、どこに入ってた?」

「え?これと同じ、左手ですけど……」

「いつの話?」

「―――約2年前かと」

「やっぱりか。マズい」


彼は手を額に当てて考え込んだ。

性格は知らず、その姿だけを見れば、一流といっても過言ではない。

その瞬間、仕事の一環なのにふと私情が入ってしまっていたことに気が付く。


「何がまずいんですの?」


隣に目をやると、いつのまにか紅茶を飲みほしたお嬢様が、身を乗り出してハルに何かを聞き出そうとしている。


「実は、最近カルピオ地方のテロリスト集団が……」


ぽつりぽつりと話し始めた瞬間に、目の端でお嬢様が動くのが分かった。

バンッ!

音に驚いて彼女を見ると、テーブルをドンッと力強く叩いてその衝動で立ってしまっていた。

なにやら怒っているようだ。


「お嬢様……?」

「ハナ……。それ受けちゃいけない依頼よ!」

「さすがです。アスカ嬢ともなるとこれだけの情報で全貌が分かったようですね」

「えぇ?」


身を乗り出して立ち上がり、にらみ合う二人。

全く何を言っているか分からない私は、二人を見比べておろおろすることしかできなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る