4.正直に申し上げます。お嬢様って悪魔です。

「―――確かに、とても興味深い話ですわ。……ところでジョージ、今後のカルピオ地方の政治について、どうお考えで?」


面談。それは、平和に見えて読み合いだ。

どれだけ相手の裏側を、それとなく見せることができるのか。

お嬢様もジョージも、かなり張り詰めた空気感を出していた。


「そうですね。僕はエリナガル地方との交流を深めたいなと考えていますね。あの地方は鉱物も食も充実していて、とても貿易しがいのある地方ですから。いま、敵対国というのは、あまりにももったいない。どう思う?アスカ」


アスカは、お嬢様の偽名だ。

私も知ってはいるが、失礼があるといけないと思いお嬢様と呼んでいる。

そして、偽名とはいえ、呼び捨てで呼ぶのはいわゆる挑発に当たる。


しかし、靴脱ぎっぱなしのお嬢様を見逃さない私に似たのか、お嬢様もなにかを見逃さなかったようだ。同じ顔をしている。我ながら怖い。


「ジョージ、その言い草、お父様の政治に文句があるように聞こえますわ」

「…………」

「そして、カルピオ地方は鉱物や食が充実していない、とも」


ジョージのものなのか、お嬢様にしか聞こえないほど小さな舌打ちが聞こえた。

どうやら、今回の面談はお嬢様が優勢である。


(どうして後継者をジョージにしたのかしら。噂では学校も休みがちだからとか。さらに噂では飛び級で大学にいっているとも言われてるけど、この野郎がそんなことしてるわけないですもんね。ふ。戦争の始まりですわ……!)

(お嬢様……重度の中二病ですね。正直言うとお嬢様って悪魔だ……)


勝ち誇ったようなお嬢様の顔が印象的であった。


その後も長く続き、5時から始まった面談だが、7:40分に幕を閉じた。



部屋に戻り、(私の目を気にして)お嬢様は靴を片付けると、ベッドに倒れた。


「はぁーっ、つっかれました―――!」

「お嬢様、いつどこでだれがお嬢様を監視しているか分かりません。そのようなこと、海外旅行で行ってください」

「ハナっ!そういう気持ち悪いこと言わない‼ここ家だし」


近頃、なぜかわからないが、お嬢様の口調が粗々しくなっていた。

全く。誰が仕込んだのやら。

大変なのはお嬢様でなくて教育係の私なのに……。

まあ、年ごろというのもあって、納得はいくが。


「まぁ、それはともかく。わたくし、ジョージに勝てましたわよね?」

「えぇ。圧勝です」

「―――ッッシャアァッ」


右手の拳を天井に向けて思いっきり近づけた。

更にベッドで跳ねたり跳んだり。

どれだけジョージが嫌いなんだろうか。

まぁ、お嬢様が楽しそうで何より。


お嬢様の歓喜の声とともに、ドアがノックされた。

お嬢様は急いで椅子に座る。

私は警戒して扉を開けた。


「どうも。こんばんは」


そこには、私と同い年の、これまた教育係。

ジョージの教育係である。


「こんばんは。ハルさん。今日はどのような件で?面談になにか不満か、問題でも?」


ジョージのほうが身分が上なので、私よりもハルのほうが身分が上になる。


「いやいや。まぁ、アスカ嬢がジョージを上手く言いくるめられて、彼も不満がありそうだけどね」


愛想笑い。

ジョージのことを呼び捨てで呼んでいるあたり、どうやら仲が良いみたいだ。

男同士、仲良くしているんだな……。


面談と同じく、これも読みあいだ。

しいて言えば、面談よりも大人の戦いである。

お嬢様、私も勝って見せますから!

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