第9話 気まずい男同士…

 みのりと健吾君の距離を縮めるために、本屋に来た僕達4人。しかし宇佐美さんの参考書トークにみのりが夢中になり、健吾君は置いてけぼりになる。


僕も退屈なので、気を紛らわせるために健吾君と共に漫画コーナーに行くのだった。



 漫画コーナーに着いたものの、僕と健吾君の間に気まずい空気が流れる。お互いこんな展開は予想してないだろうし仕方ないかもね。


「健吾君の間で流行ってる漫画ある?」


この空気を打開するため、僕は何とか彼に話しかける。


「…これかな」


背表紙を観た健吾君は1冊手に取り、僕に見せてきた。


「その漫画、1年の間でも流行ってるんだね。僕も友達とその漫画についてよく話すよ」


「ふ~ん」


せっかくの会話が終わっちゃった…。次を考えないと。


「ねぇ」


健吾君が僕に話しかけるなんて初めてじゃない?


「どうかした?」


「大杉さんって、あんなに真面目な人だったの? おれ付いて行けそうにないよ…」


そうか、みのりの事を話題にすれば良いんだ。


「僕もみのりが参考書にあそこまで食い付くなんて思わなかったよ。…クラスにいるみのりはどんな感じなの?」


「どんなって言われても、おれ大杉さんと話した事ないし…」


「観た感じで良いから」


「別に普通だと思うけどな~。変に目立つ事はしないし、先生に当てられても普通に答えるし」


「そっか…」

やっぱりみのりは真面目に分類されると思う。本当にしっかりしてるよ。


「おれ、大杉さんと仲良くできないかも…」


健吾君が諦めかけている。これはマズいぞ。


「そう考えるのは早いよ。みのりだってゲームするし漫画読むんだから、きっと共通点が見つかるって」


「大杉さんゲームするの?」


何とか引き留められたかな? 話の方向性はこれで良さそう。


「するよ。最近だと一緒に〇リオカートやったかな」


「マジで!? おれも友達とやるよ!」


ゲームをきっかけに仲良くなるのはアリだけど、そのためには部屋に行かないといけない。仲良くない人を部屋に上げるのはハードルが高いはず…。


「漫画はどういうの読むの?」


「…ごめん、それは忘れちゃった。少年漫画も読むタイプだから、表紙を見せてみたらどうかな?」


「そうしようかな。ここに来てくれたらだけど」


自分から誘う気はないみたい。実際難しいよね…。



 「2人とも、調子はどう?」


宇佐美さんが僕達に声をかけてきた。彼女の後ろにみのりがいるけど…。


「みのり、その本はどうしたんだ?」


何故か紙で包装された本を持っている。あれって会計を済ませたって事だよね? 財布は持ってないはずなのに…。


「宇佐美さんに買ってもらっちゃった」


「えっ? …宇佐美さん、みのりが迷惑かけてゴメン」


「全然迷惑じゃないから気にしないで」


「そうはいかないよ。今は財布を持ってないけど、後でお金は払うから」


「本当に良いの! お金より大切なものを交換したから」


「交換? 何を交換したの?」


「連絡先だよ」

みのりが補足する。


人との繋がりが、お金より大切って事? 言葉にしにくいけど深いよね。


「それよりも2人の事よ。話は弾んだ?」

宇佐美さんが僕と健吾君を観る。


「一応ね。…みのり、好きな漫画の表紙を健吾君に見せてあげて欲しい」


「良いけど…」


背表紙を観たみのりが早速1冊手に取り、健吾君に見せる。


「それ読んでるよ!」


「ホント?」


「うん。おれ、○○(キャラ名)が好きなんだ~」


「あたしは△△(キャラ名)かな」


おぉ! ようやく2人が会話し始めたぞ。長かった~。


「一時はどうなるかと思ったけど良かったわ」

僕のそばに来た宇佐美さんが言う。


「そうだね」


僕と宇佐美さんは、楽しそうに話すみのりと健吾君を見守るのだった。

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