第4話 少しずつ変わり始める関係

 翌日。朝食を食べて準備を済ませた僕は、いつも通りみのりと一緒に登校する。小学校の時からずっとそうだから、当たり前になっているね。


……中学に着き、僕達は昇降口前で別れる。学年によって使う昇降口が違うからだ。僕は2年、みのりは1年になる。


教室に着いた僕は自分の席に着く。…吉澤君がいないなぁ、いつもはいるのに。


彼とはアニメ・ゲーム・マンガといった趣味の話をする友達だ。普段は僕が席に着く頃に、こっちに来るんだけど…。


「…大杉。来てたのか」


吉澤君が教室に入って来て、僕のそばでそう言った。


「どこに行ってたの?」


「トイレだよ。オレがいなくて寂しかったか~?」


「まぁね」

吉澤君以上に話せる男子はいないし…。


「そんな事より大杉。昨日のは観たか?」


アレというのはアニメの事だ。今は深夜アニメでもサブスクで簡単に観られるから良いよね。僕と吉澤君は同じサブスクに登録しているから、同じタイミングで観る事ができる。


「観たよ。いいところで終わっちゃったね~」


「ああ、来週が待ち遠しいぜ」


このままアニメの話を深掘りしても良いけど、吉澤君は恋愛についてどう思ってるんだろう? 今まで機会がなかっただけで、みのりと同じぐらい興味を持ってるかもしれない。


「ねぇ、吉澤君は彼女欲しいと思った事ある?」


「急にどうしたよ?」


「実はさぁ、妹のみのりが『彼氏欲しい』って言ったんだよ。でも僕達、いつもゲームとかアニメの話ばかりじゃん? 妹が興味持ってる事に、兄の僕が全然なのも変だと思って…」


「ふ~ん。オレだって、彼女作れるなら欲しいぜ。そういうお前は?」


「僕も作れるなら…」


「お互い様って事か。だがよぉ、女子と仲良くなるために好きなゲームやアニメを我慢するのはなぁ~。 趣味を取るか・彼女を取るかの2択になりそうだ」


「それはちょっと…」

趣味が合う女子を彼女にできたらベストだね。


「そんな宝探しより、ゲームとかアニメのほうが良いんだって」


みのりもいつかそう思うかもしれない。あの時の『彼氏欲しい』はどこまで本気なのかな?



 ホームルームの後に1限が始まる。授業が終わりを迎える頃…。


「宿題にしたプリントを出してない人がいるな~。明日必ず提出するように!」


クラス担任かつ現代文担任の桜井先生が言う。僕は提出済みだから大丈夫。


「失くした人は職員室まで取りに来るように!」

そう言って、桜井先生は教室を出て行った。


そして、1限後の休憩時間。すぐに吉澤君が僕の元に来た。


「大杉。今からプリント取りに行って来るわ」


「わかった」


彼は急ぎ足で教室を後にする。…話す相手がいなくなっちゃった。


「ねぇ、大杉君」


隣の席の宇佐美うさみさんに声をかけられた。どうしたんだろう?


「何?」


「妹のみのりちゃんって、歳いくつなの?」


「えっ?」

宇佐美さんにみのりについて話した事ないぞ?


「ごめんね、さっきの話聴いちゃった」


「そうなんだ、別に気にしてないよ。…僕より1歳下の中1」


あの話の時に、宇佐美さんは近くにいたみたい。


「私の弟も同じ。実はね、健吾けんごも彼女欲しいらしいの」


「へぇ~」


宇佐美姉弟も、僕達兄妹みたいに距離が近いみたいだ。でなければ、それを知る機会はないよね。


「だからさ、みのりちゃんと健吾を会わせてみない?」


お互い条件は満たしてるし、アイディアは良いと思うけど…。


「どうして宇佐美さんがそこまでするの?」

姉とはいえ、首を突っ込み過ぎでは?


「健吾のために、私の出来る事をしてあげたいのよ。大杉君だって、みのりちゃんのためなら何でもできるんじゃない?」


「何でもは無理だよ。できるだけ力を貸すけどね」


「当然相性があるから、簡単にうまくいくとは思ってないよ。とりあえず、話だけでもしてもらえると嬉しいな」


「わかった、みのりに話してみる」



 …職員室に行っていた吉澤君が教室に戻ってきた。手に持っているプリントを自席の机の中にしまった後、僕の元に来る。


それとほぼ同じタイミングで、宇佐美さんが席を立つ。話の区切りはついてるから問題ない。


急にあんな提案をしてきた宇佐美さんの真意が気になるな~。そんな事を思いながら、吉澤君とさっきのアニメについて話すのだった。

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