97.呼び忘れた人がいました
翌朝の食堂で、ご臨席の国王夫妻とムスコネン公爵夫妻を見ながら、ぎこちなく椅子に座る。ここでようやく、昨夜の犯人がただの強盗だと聞いた。呼ばなくても、結婚式に来ちゃうのか。お金があると思ったんだろうな。
「若いっていいわね、あなた」
王妃様のなんとも言えない発言に、国王陛下は凍りつく。ちらりとルーカス様を窺えば、満面の笑みで「若いですから」と応じていた。私、どんな顔をすればいいのかしら。
下手なことを言えば、絶対に失敗する。確信があるので、ぎゅっと口を引き結んだ。食堂での口は、料理を食べるためにある。それ以外に使用しなければ、問題ないはず。
ところで、今頃……本当にいま気づいたのだけれど、ムスコネン公爵はどうしているのか。以前は王妃様のお茶会なので、いなくて当然だった。国王夫妻が参加する結婚式に、欠席って凄いな。招待状は……あ! いけない、私のせいだわ。
ムスコネン公爵夫人宛に発送してしまった。つまり公爵閣下を呼び忘れたのだ。誰か指摘してれたらよかったのに。ちょうどハンナが新婚でいない時期に出したから、失敗しちゃったわ。
カットしていたオムレツを放置し、ムスコネン公爵夫人へ丁寧にお詫びした。大変な失礼だが、公爵夫人も「夫婦で参加したいの」と言ってくれたら。いや、人のせいにしてはいけない。
「あら、いいのよ。あの人は今、国外ですもの」
外交関係のお仕事を専門にするため、あちこちの国を飛び回っているらしい。次に帰ってくるのは、十日後と聞いてほっとした。
「知っていて呼ばなかったのかと」
ルーカス様が気まずそうに呟く。私がそんなに気が利いて、情報に聡いわけないでしょう。国王夫妻は顔を見合わせるが、王妃様は笑って終わりにしてしまった。
食べかけのオムレツに再び手を伸ばし、肉入りの豪勢な朝食をしっかりいただく。美味しい。その席で、フロリア様と夫の元王子様が客間にいると知った。さすがに新婚夫妻の家に泊めるのはどうか、とルーカス様が誘ったらしい。
「後で占いとお茶をしましょうね」
王妃様の一言で、占いありのお茶会が決まった。貴族夫人だけでなく、パン屋のおかみさんも招待される。パンを振り回す姿が、よほど印象的だったのだろう。気の毒だけれど、頑張ってほしい。せめて不敬罪はなしで、と条件を付けさせてもらったから。
午後のお茶会にハンナを含め、総勢八人も集まる。私とハンナを除いても六人……温室か庭の方がいいな。晴れているし、お屋敷は客間が使用済みだったり、使用中になったりしている。昨日の宴会で朝まで飲んだ使用人に仕事させるのも、気の毒だった。
「奥様、ハーブを摘んで調茶してはいかがかと」
せっかく王宮でできないお茶会を楽しむのだ。現地調達、いいじゃない! ハンナに頷くと、ポットやカップの手配を始めた。王妃様は目を輝かせ、公爵夫人も嬉しそう。楽しいお茶会にしましょうね。
パン屋のおかみさんが想像より闊達で、平民と貴族の垣根を蹴飛ばした。無礼講で盛り上がり、庭のハーブが大量に消費される。フロリア様もお誘いして、エルヴィ様のお話を聞いたりした。とても素敵なお茶会、こんな社交ばかりなら私も宰相夫人として、立派にこなせそうよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます