96.歓迎される客と嫌われる客

 結婚式の宴会が終わるまでは、私も安全だ。強引なルーカス様も嫌じゃないけど、体力的にしんどい。エサイアス様のぴったりエスコートに阻まれ、ハンナの近くにも寄れなかった。助けを求めて、王妃様に泣きついたのが失敗だ。


「あの堅物宰相が、そんなに?!」


 王妃様、うっとりしないでください。


「詳しく、詳細に、詳らかにしないと」


 ムスコネン公爵夫人、すべて同じ意味ですわ。


 助けを求める相手を間違えたかもしれない。肩を落とす私に、お二人はあれこれと詮索を始めた。もちろん上流階級なので、言葉は上品で問いかけも優しい。ただ容赦はなかった。はぐらかした質問を、何度も別角度から突きつけられ、最後は崩されてしまう。


 夜になる前に、体力も気力も尽きてしまいそう。そこへ綺麗なご夫人が現れた。まさに助けの女神! 彼女が現れるなり、王妃様達の興味が逸れたのだ。隣国アベニウスから逃げていた王族の一人らしい。


「フロリアお義姉様!」


 エルヴィ様が嬉しそうに駆け寄り、感極まって泣き出す。無事でよかった、心配していた。そんな言葉を紡ぐ彼女に、フロリア様は何度も優しく手を触れた。髪を崩さないよう撫で、耳や頬にそっと触れ、肩を包み込んだ。


「エルヴィ様、お化粧が崩れてしまいます」


 あちらへ、と控室へ誘導した。もちろん、フロリア様もご一緒だ。まだ紹介されていないので、お名前は直接呼ばなかった。疲れた国王陛下が休んでおられ、慌てて退室しようとしたが……遅かった。フロリア様はお知り合いのようだ。


 全員の自己紹介と挨拶が終わり、私はようやくフロリア様の肩書きを知った。エルヴィ様と同母の兄君へ嫁がれた、近隣国の公爵令嬢だ。今回の騒動に巻き込まれず、自国へ引き上げることに成功したとか。逃げた王族がいると聞いた気がする。


「幸い、実家で祝い事があって顔を出していたの。夫も無事よ」


 血の繋がる兄の無事を知り、エルヴィ様は腫れた目元を押さえながら、柔らかく微笑んだ。ヘンリ卿がエルヴィ様を探して入室し、少しばかり狭く感じる。私は出ようかな、と思ったところでフロリア様が手を握った。


「あなた、有名な占い師のイーリス様よね。お願いがありますの」


「……はい?」


 何を頼まれるのかと思ったら、お子様の相談だった。生まれた我が子に将来、文官と武官のどちらが向いているか。両方に才能がある気がすると笑うフロリア様に、私は微笑んで首を横に振った。


「占うのは構いませんわ。でも、本人の意思を尊重してください。占いは道を示すだけ、選ぶのはカードではなく人ですから」


 久しぶりにカードを並べる。自ら取りに行ったケースから取り出し、何度か撫でてからフロリア様の手に載せた。集めて混ぜて並べる。慣れた作業を終えた私は、思わぬ結果に目を丸くした。


「どちらですの?」


「両方、です」


 首を傾げる皆様に、両方を取ることが出来ると告げた。いや、両方を選べの方が正しい。ただ言い切りは誤解を招くので、曖昧に濁しておいた。


 盛り上がった宴会は夜中を通して続き、主役のエルヴィ様とヘンリが姿を消しても関係ない。私もそのまま朝まで宴会に紛れようとしたが、捕まって寝室へ運ばれた。

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