83.ハンナの花嫁姿を目に焼き付ける
花嫁入場の前に滑り込み、ほっと息を吐く。今回は国王ご夫妻の参列はないが、エルヴィ様はヘンリ卿と顔を見せてくれた。この後の宴会では、街で仲良くしてくれるパン屋の奥さんを始めとして、領地の人が顔を出す予定だ。
ハンナへのお祝いのため、式場となる広間を貸し出した。ついでに、私たち領主夫妻のお披露目もする。侯爵家の独身の騎士が宴会に参加すると聞いて、街のお嬢さん達がおめかしして駆けつけるだろう。今後も結婚ラッシュは続きそうだった。
次はエルヴィ様達が決まりだし、領地がお祝いで盛り上がるのはいいことだ。隣で涼しい顔のルーカス様を見つめた後、視線を閉ざされた扉へ向けた。合図で音楽の演奏が始まり、扉がゆっくりと開く。
この領地まで駆けつけたハンナの父は、緊張した面持ちで娘と腕を組んで歩いた。ゆっくり進むハンナを追って視線を動かせば、向かい側に当家の使用人がいる。執事アルベルトと料理人のマイラだ。今回はマイラもお祝いの料理を作ると張り切っていた。
ハンナは本当に綺麗だ。焦茶の髪に緑の瞳、私の姉のようにいつも一緒にいる人。とても大切な家族として過ごした。迎える花婿は、用意された祭壇の前で整った顔に微笑みを浮かべる。何も知らなければ、立派な騎士様である。
監禁癖がある変態ストーカーなのに、その監禁を我慢する約束をした。本気でハンナが好きなんだろうな。ちらりとルーカス様を見上げ、ふふっと頬を緩めた。ハンナも私も同じだな。顔に絆されたというより、この執着激しい愛情に負けた。
結局のところ、好きになったら変態でストーカーでも関係ない。監禁したくなるほど愛されていると自覚したら、それも悪くないと思えた。
そういえば、最近……占いの回数が減ったな。幸せを手にすると、占いから遠ざかるんだろうか。伯母に相談してみよう。
目の前で愛を誓うエサイアス様とハンナ。美男美女でお似合いだ。彼女のドレスは白を貴重に、水色の淡い刺繍がびっしり。動くたびに光を弾いて、水面が揺れているよう。あのセンスの良さは、私では無理だった。彼女が自分で用意すると言い出したのもわかる。
何より、エサイアス様の瞳の色だし。手にした赤い薔薇も、赤毛の旦那様に合わせたのかな。並ぶと揃えたように見える。エサイアス様の耳や袖を飾る宝石は緑柱石。もうこれでもかって程、互いの独占欲と愛情を主張している。見ているこっちが恥ずかしいかも。
結婚式が終わると、駆け寄ったハンナの家族がぞろぞろ。たくさんいる弟妹は、姉のドレスに抱きついている。苦笑いする彼女は、叱ることなく受け止めた。ドレスが皺になることより、家族のお祝いを優先する。ハンナらしいわ。
エサイアス様のご家族は、さすが侯爵家だ。落ち着いた雰囲気だけれど、侯爵夫人だけ大泣きしている。溢れ聞いた話では、ようやく結婚してくれて安心したようだ。もう結婚しないのではないかと、本気で悩んでいたとか。
両方のご家族が顔を合わせ、雑談を始めた。混じるのは宴会までお預けかな。お祝いの言葉は後でもいい。今は幸せな光景を目に焼き付けようと思った。
「リンネア、先に庭へ出ようか」
「そうですね、ルーカス様」
庭はすでに領民が集まっていた。侯爵であるルーカス様と私のお披露目もあるので、見渡す限り人だらけ。
「先に挨拶したほうがいいかも」
「僕もそう考えていたところだ」
顔を見合わせ、侯爵家のテラスを振り返った。これは、高い位置からご挨拶しないと皆に見えないわね。
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