59.ハンナはお見通し!

 お茶会を終えて部屋に戻り、ハンナとさらにお喋りに興じる。部屋で出来ることは限られるし、帰ってきた彼女に謝るべきこともあった。盛り上がって落ち着いたところで、おずおずと切り出した。


「あの……謝ることがあるの。紹介した婚約相手なんだけれど……」


 以前からのストーカーでした。そう告げようとする言葉が喉に詰まる。きちんと確かめずに飛び付いて、ハンナに勧めてしまった。すべて私が悪いんだわ。ルーカス様はリーコネン子爵がストーカーだと知らなかったんだもの。


「もう知っています」


「え?」


「ニスカネン侯爵家の次男は、リーコネン子爵でした。お嬢様は何も知らずに紹介しただけですよね」


 念を押すように言われ、頷いた。でも知らなかったから許される話じゃない。慌ててそう告げたら、彼女はやれやれと首を横に振った。呆れられたのよね。当然だと思うけれど、見捨てないでほしい。


「お嬢様は勘違いなさっています」


「勘違い?」


「ええ、私はエサイアス様自身は嫌いではありません。監禁されたり、仕事を辞めさせようとすることが嫌なんです」


「……ん?」


 眉を寄せて疑問符を浮かべていると、お行儀が悪いと指先で突かれた。両手で皺を伸ばしながら、今聞いた衝撃の事実を検証する。監禁しなくて、仕事を続けさせてくれたら、彼自身は受け入れるという意味?


「毎回ピンチに現れて助けてくれる上、侍女でおまけの私を気遣う人です。顔はいいし、騎士として有能なのも知っています。追い回して情報を集めたり、監禁の準備をしたりするのは論外ですが……」


 嫌いではない。彼女の口にした衝撃の一言が、再び脳裏をよぎった。


「じゃ、じゃあ……婚約は継続なの?」


「ええ、せっかくのご縁ですから。これを逃すと婚期自体が遠のきそうですし。両親も喜んでいました」


 半分諦めていた娘の結婚、それも相手は爵位もちとくれば……ご両親も安心しただろう。ストーカーだけど、それだけ愛している証拠と受け止める人もいる。何より持参金の免除や、今後の支援を申し出てくれたようだ。


「彼は訪ねてきた、の?」


 頷くハンナの表情が苦笑いに変わる。すでに怪しい、彼に違いないと思っていたが、確定した瞬間だったと呟いた。実家の両親に挨拶を済ませ、笑顔で迎える彼を見て「やっぱり」と諦め半分だったとか。


「そもそも、私に婚約の話があがったのに、エサイアス様が動かないのはおかしいです」


 すでに名前呼びか。本当に嫌いじゃなかったんだ。頬を赤らめて語るハンナの話に相槌を打つ。一段落する頃には、夕食の時間が迫っていた。侍女経由で着飾るよう告げられる。


「エサイアス様が訪ねてきたのだと思います」


 ハンナは予想していたようで、慌てる私にドレスを用意する。手際よく準備を終えると、彼女も晩餐に相応しいドレスを纏った。部屋をノックする音に応じれば、正装した二人の美形……うわぁ、準備した私達より眩しい夫候補なんて、悔しいんですけど!

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