58.王女様の意外な実家情報
プルシアイネン侯爵家の侍女は優秀だ。あっという間に椅子が増やされ、カップやソーサーが運ばれた。気付かぬうちにお茶菓子も増えている。入れ替えたの、わからなかったわ。
きちんと三人分ずつ並んだお菓子に手を伸ばしながら、侍女の持つ無限の可能性に思いを馳せる。ハンナとエルヴィ様は穏やかに挨拶を終え、今は思い思いに紅茶を口に運んでいた。ハンナは甘党なので、ジャムを落とす。エルヴィ様は果物を沈めるところだった。
私はミルクをたっぷりの紅茶に、砂糖なし。少し迷いながら、言葉を探して占いの結果を伝えた。いくら国を離れたとはいえ、実家がピンチな可能性を聞くのは辛いだろう。肩を震わせて俯いたエルヴィ様に、なんと声を掛けようか。
「本当に……叛乱が?」
「叛乱までいくかわかりませんが、何かしらの苦難は訪れると思います」
曖昧にフォローするが、私がカードから読み取った結果は辛辣だ。反旗を翻した一人の青年に、王都の住人達が呼応して立ち上がる。彼の命は保証されないが、結果として王家は倒されるはず。エルヴィ様にとって悲しい結末よね。
「あの父や、兄が……意地悪な継母が……ふふっ」
あれれ? わかるわ、と同情した私の気持ちを返してほしいんだけど。肩を震わせて笑う元王女様は、顔を上げると満面の笑みを向けた。
「素敵、滅びちゃえばいいのよ。王家なんてないほうが国民は幸せになれるわ」
内側にいて王家の一角を担った人が、それを言っちゃうんだ。よほどひどい国みたい。あんな公爵令息が幅を利かせてたくらいだし、それを王家が後押しした話も聞いてるし。父や兄はともかく、継母に関しては……察してしまう。
物語とかでも、ヒロインが継母に虐げられる話はよく聞くもの。そうよね、第五王女ってことは、王妃様の子じゃない可能性が高いんだわ。側妃様や愛妾になる女性は若いはずだから、後で生まれる王子王女はその方々のお子様だものね。
我が国では、複数の妻を認めていない。国王陛下であっても、側妃はいないのよ。どうしても子どもが産まれなければ、兄弟姉妹の子を養子にするの。昔からそうなので、当然貴族もそれに倣う。隣国アベニウス王国は貴族も複数の妻を持つと聞いた。
「ご実家なのにいいのですか」
尋ねるハンナだが、表情はちょっと楽しんでる感じ。話を広げるために口にしたのかも。
「ええ、いいのよ。普段から私の予算を横領したり、虐げたりした人達だもの。それなのに政略結婚の駒に使おうだなんて、虫が良すぎるわ。第一、お相手の宰相閣下に婚約者がいると聞いたときの私の気持ち、わかるでしょう?」
「「わかる!」」
ハンナと口を口を揃えて同意した。政略結婚は王侯貴族の義務だけど、お相手に好きな人がいて婚約確定しているのに、割り込むなんて……ん? その頃のルーカス様も、私を好きで合ってるわよね? たぶん。
監禁したいと言ってたんだから、愛されているはず。監禁は愛の形だもの。ふふふと笑う私に、エルヴィ様は「国を出て本当に良かったわ」と柔らかな声で微笑む。
私も素敵なお友達ができて嬉しいですと返す。ハンナが少し遅れて「私も」と付け足した。
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