24.何ともお粗末な策略でした
逮捕された騎士は、隣国アベニウスから入国していた。ステーン公爵令息の護衛という名目で、今回の旅に同行している。この点では深夜の襲撃犯と同じだった。
アベニウス王室から届いた返答を確認すると、捕まった騎士は憤慨した。利用されて切り捨てられた。その事実に憤り、すべてを暴露する。告白の内容はあまりに一方的で、身勝手なものだった。
過去にアベニウス王国が策略を仕掛けた際、王位を継いだばかりの国王陛下を守ったのが叔母だ。当時の宮廷占い師であり、カードを読んで助言を口にした。陛下は助言を受け入れ、事なきを得た。その話がどう伝わったのか、アベニウス王室で「宮廷占い師を排除せよ」との声が上がる。
燻った不満は、アベニウス国王の心残りだったのだろう。代替わり前に宮廷占い師を奪おうと画策した。連れ帰って殺すつもりなのかもしれないし、利用する気だったのかも。どちらにしてもステーン公爵家は最初から捨て駒なのだ。
事情を知らぬまま「絶世の美女だ」と聞いた公爵令息は、うきうきと乗り込んだ。王家のお墨付きの縁談だ。一般的に断られる理由がない。それが宰相プルシアイネン侯爵と婚約したと妨害される。ここで、王室から命じられた第二の策が動いた。
連れ帰れないなら殺せ――なんて失礼なのかしら。この命令に従い、深夜の襲撃は行われた。ルーカス様に阻止され、残った者がもう一度と動き出す。それが昨夜の火事だった。
「そのまま部屋へ閉じ込めればよかったのに」
「他人事のようだが、君の命の問題だよ。それと、火事で死んだことにすると王室に証拠の提出が出来ない」
ルーカス様に言われ、それもそうかと苦笑いした。一歩間違えたら火事に巻き込まれて死んだのだ。外で確実に仕留めて私の髪か占いのカードを奪って、証拠にするつもりだったらしい。
「では、公爵令息は直接関係ないのですか?」
「意外なことに関与していない。阿呆なので話がバレないよう何も教えず、隠れ蓑として利用したようだ」
身も蓋もないが、事実なので否定する声もなかった。彼自身が命じたのではなく、地位を利用されただけ。いざとなれば公爵家を切り離し、王国は知らぬ存ぜぬを貫く構えだった。証言者がいるので、簡単にいかないが……外交的に成果があれば見逃すのかも。
利用されたと説明しても、公爵令息は話を呑み込めていない。なるほど、策略の内容を秘されるわけね。呆れながら彼の帰還予定に頷いた。明日出発し、国境まで送り届けて引き渡す。その際、罪人はこちらで引き取る旨を一方的に通知するのだとか。
話を聞いた私の要約だと「証拠は押さえた、馬鹿は不要なので返す」となる。ルーカス様に確認すると大笑いした後「ほぼ当たりだ」と肯定された。下手に地位の高い人質は、扱いが面倒で邪魔と言い切る。その上で「許したのではなく、より深い地獄を味わせるためだ」と笑う姿は、ぞくりとするほど魅力的だった。
悪魔ってこんな感じなのかな。酷い感想を抱きながら、私は王宮の一室で休息をとる。ところが数日後、監禁されていることに気づいた。外出禁止令ってなんで?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます