第93話 洞窟のレベルアップ


 オーベルジュでノワルド先生に話しかけられた。

 なんだか遠慮がちの態度である。


「セディー、悪いのだが少々つき合ってもらえないだろうか?」

「もちろんですよ、先生。どういった御用でしょうか?」

「少し洞窟を探索したいのだよ。コメダ原石が欲しくてね」


 コメダ原石はさまざまなことに利用される錬金素材だ。

 だけど、これまで洞窟で見つけたことはない。

 レアな素材ではないので、探せば見つかるはずなんだけどなあ……。

 あ、これは洞窟のレベルが関係しているのかもしれないぞ。

 僕は前世の記憶をたどってみる。

 はっきりとしたことは思い出せないけど、コメダ原石は洞窟レベルが2以上じゃないと出現しなかったような気がする。

 先生にはいつもお世話になっている。

 最近ではクレアへ贈る誕生日プレゼントの作製も手伝ってもらった。

 ノワルド先生への恩返しのためにも洞窟のレベルを上げてしまおう。


「わかりました。では今日の午後にシャルと一緒にいきましょう」

「おお、そうしてくれるか。ありがとう」


 ノワルド先生は嬉しそうに帰っていた。

 さて、では午後になる前に洞窟のレベルアップをしてしまおう。

 僕のステータスはこんな感じになっている。


 セディー・ダンテス:レベル7

 保有ポイント:62

 幸福度:80%

 島レベル:5


 僕のレベルは7になって、累積できる保有ポイントは70まで増えている。

 島レベルも5まで上がったから洞窟のレベルを2にするのに問題は何もない。

 レベルアップに必要なポイントは55だ。

 でも、洞窟のレベルを2にすると、具体的にはどうなるんだっけ?

 いきなり強い魔物が出てきたりしないよね?

 アイランド・ツクールでは……たしか、レベルアップごとにエリアが追加されるんだったな。

 第一エリアの最奥までいけば、第二エリアの扉が現れたはずだ。

 入るたびに構造がランダムに変わるのはいままで通りだけど、エリア2に行かない限り、いきなり危険な魔物が出てくることはなかったはずだ。

 ポイントはたまっているのでさっそく洞窟のレベルを上げた。


 セディー・ダンテス:レベル6

 保有ポイント:7

 幸福度:80%

 島レベル:5→6


 洞窟のレベルを上げたら、それにともなって島レベルも上がったぞ!

 そのおかげでポイントで交換できるもののバリエーションが広がった。

 おお、クレープとかおでんの屋台なんかも貰えるんだ!

 おもしろそうだけど、今は人手が足りないんだよね。

 おや、これはなんだろう。

 ステータス画面に新着メッセージが届いているぞ。

 宝の地図をプレゼント?

 思い出した!

 これは洞窟のレベルアップに対するご褒美だ。

 普段はランダムな構造だけど、この地図を持って入れば地図通りの洞窟が現れる。

 そして、この地図に示されているバツ印の地点には宝箱があるのだ。

 ノワルド先生のコメダ原石を探すついでにこちらの宝箱もゲットしておこう。



 午後は予定通りノワルド先生と一緒に洞窟探索に出かけた。

 もちろんシャルにもついてきてもらっている。

 単に戦闘力だけじゃなく、五感が鋭いシャルは索敵能力にも優れているからね。


「張り切ってコメダ原石を探すであります!」

「ついでに宝箱もね」

「ふぉおっ! 父上、宝箱の中には何が入っているでありますか?」

「それは開けてからのお楽しみなんだ。稀にハズレのアイテムもあるんだけど、大抵は便利なアイテムが入っているんだよ」

「チーズケーキでありますか?」

「それは便利なアイテムじゃなくて美味しい食べ物だね」


 レアマジックアイテムより、一切れのチーズケーキの方がシャルにとっては宝物なのだろう。

 地図通りにずんずんと進み、僕らはエリア1の最深部までやって来た。

 目の前の鉄扉を抜ければエリア2だ。


「ここから少し敵が強力になるよ。みんな気を付けて」


 エリア2になると洞窟の雰囲気は少し変わった。

 ところどころに祭壇やレリーフなどの装飾が加わっている。


「宝箱は……こっちだ」


 地図を確認しながら僕らは進んだ。

 途中で何回か魔物が襲撃してきたけど、そのたびにシャルが軽く撃退してしている。

 僕も得意の火炎魔法を用意していたけど、出番はまわってこないままだ。

 是が非でも戦いたいわけではないので、それで構わないけどね。

 先生の欲しがっていたコメダ原石もすぐに見つかったよ。

 やっぱりエリア2で出現するアイテムだったんだね。

 エリア2では新しい素材がいろいろと獲得できそうだから、今後は錬金術で作れるものも増えていくだろう。

 僕らは目的地までやって来た。


「父上、あそこに大きな宝箱あります!」


 洞窟の片隅に置かれていたのはかなり大きな宝箱だった。

 大きいっていうより、長細いって感じかな。

 とにかく、この時点で僕は少し落胆していた。

 アイランド・ツクールでは小さな宝箱の方がいいものが入っている確率が高いからだ。

 それでも開けないという選択はないから、僕は宝箱の蓋を持ち上げた。


「宝物は鍬であります!」


 シャルの言うとおり宝箱の中身は農具の鍬だった。

 丈夫そうな鍬だけど、これが宝物かあ……。

 正直に言って、拍子抜けしてしまった。

 まあ、菜園で使える道具だから持って帰るけどね。

 僕は宝箱に手をつっこんで鍬を持ち上げた。


「えっ……?」


 鍬の柄を掴んだ瞬間に力が手に流れ込んできたぞ!

 そうか、これはただの鍬じゃない。

 アイランド・ツクールでご褒美にもらえる鍬といえば、女神の鍬じゃないか!

 女神の鍬は一振りで広い面積を耕せてしまうマジックアイテムだ。

 他にも女神のじょうろや女神の鎌なんかもあったはずだけど、これはそんなシリーズのひとつである。

 これがあれば農業がものすごく楽になることは間違いない。


「すごい、4マス×4マスが一気に耕せるぞ!」

「4マス?」


 僕の言葉にノワルド先生が首を傾げている。


「いえ、なんでもないのです」


 マス目は僕にしか見えないもんね。

 コテージに戻ってすぐに使ってみたけど、とっても便利だったよ。

 幸福度も100%になっている。

 これはチャンスだ、さっそく種をまいてみよう。

 三日後にはキラキラの収穫物で一杯になるはずだ。

 午後は日が暮れるまで農業に勤しんだ。

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