第91話 星の道しるべ
クレアの誕生日パーティーが近づいてきた。
アレクセイ兄さんやクレアに会うのは憂鬱だけど、出席する覚悟はできた。
それに大勢の貴族が集まるパーティーなら、兄さんたちも無茶なことはしないだろう。
会場はベルッカの屋敷なので、久しぶりに帰省できるのは少し嬉しい。
それだけを慰めに行ってみるか。
ただ、僕の部屋なんてもう残っていないのだろうな。
それはやっぱり寂しくもあった。
プレゼントには海の底で見つけた真珠を用意してあるけど、むき出しで渡すのも芸がないよな。
少しくらい加工してみようか。
ノワルド先生ならいい知恵を授けてくれるかもしれない。
錬金工房を訪ねた。
「なるほど、誕生日に贈る真珠の加工か。セディーの姪御さんはいくつになるのかな?」
「僕と同じ十三歳です。年の離れた兄の娘なので」
「素材は真珠だったね。私にも見せてもらえないかな?」
僕は巾着に入れておいた真珠を先生に手渡した。
「実に見事なものだ。真珠の価値は、大きさ、形、層の厚さ、キズの有無、色、光沢で決まると言われている。この真珠はまさに完璧といえよう」
そんなに価値のあるものなんだ!
さすがはガンダルシア島産の真珠だね。
「こんなものを贈るくらいだから、姪御さんはセディーにとっても大切な人なのだろうね」
「ま、まあ……」
そうではないのだけど、思わず言葉を濁してしまったよ。
砂の中で拾ったから実質0クラウンだし、いろいろと考えるのが面倒だっただけだ。
だけど、どうせ贈り物をするのなら相手に喜んでもらいたいという気持ちはある。
たとえその相手がクレアであってもだ。
「先生、加工のいいアイデアはないでしょうか?」
「誕生日は十日後だったな。ということは、姪御さんの宿星は白鳥星か」
「そのとおりです」
前世に誕生月の星座があったように、ここでは宿星と呼ばれるものがある。
ちなみに僕の宿星は乙女星だけど、それはまあ関係ない。
「ならば星の道しるべを作ってはどうだろうか?」
星の道しるべとは、魔力を送ると誕生宿星に向かって宝石や真珠から光線が放たれるマジックアイテムだ。
レーザーポインタを想像してもらえればわかりやすいかな。
機能的にはあれとほぼ同じである。
「これは黒真珠だから光線の色は緑色になるはずだ」
「おもしろそうですね。星の道しるべをつくって、それを指輪かネックレスにしてみます」
先生の助けを借りて星の道標を作り始めた。
光線を出すギミックはそれほど難しいものではない。
拡大鏡を使って極小の魔法術式を書き上げ、それを真珠の台座にはめ込めばいいだけだ。
「十三歳が持つには少々地味な気もするな」
作成途中の星の道しるべを見て先生が腕を組んでいる。
どうやら出来栄えが気に入らないようだ。
たしかに真珠単体では少々地味だけど、これはこれですてきだと思う。
「かまいませんよ。これはギミックが大切なアイテムなんですから」
「いや、そうはいかん。脇を飾る宝石がほしいところだ」
アカデミックな人には凝り性な人が多いと思う。
ノワルド先生も典型的なそのタイプだ。
「セディー、洞窟へ行こう。ダイヤモンドとはいかないだろうが、水晶ならすぐに見つかるはずだ」
「今からですか?」
「善は急げと言うではないか」
そのことわざはこっちの世界にもあるんだよねえ……。
先生はニコニコと嬉しそうに笑っている。
目標に向かって突き進む工程を楽しんでいるのだ。
たしかに洞窟では水晶が見つかることも多い。
でも、クレアのためにそこまでしなきゃダメかなあ?
「セディー、どうせなら納得のいくものを作ろうじゃないか」
先生にそう言われて僕も考えを改めた。
これは自分のためでもあるのだ。
「わかりました。シャルを呼んできますので洞窟へ行きましょう」
僕らは支度をして洞窟へと向かった。
洞窟を三十分ほど調査すると、前方でキラリと光る何かを見つけた。
魔物の眼の光じゃない。
洞窟の壁に埋もれるように小さな結晶が入っている。
「先生、これは水晶でしょうか?」
「いや、これはトパーズだよ」
慎重に石を調べていたノワルド先生が教えてくれた。
無色透明だから、クリアトパーズと呼ばれているものだな。
水晶に似ているけど硬度はずっと高い。
ありふれた水晶でじゅうぶんだと思っていたのだけど、予想に反していいものが見つかってしまったようだ。
「これはいい。トパーズを繋げば星の道標の出力が格段に上がるのだよ」
真珠から放たれるレーザー光線がさらに太く見やすくなるそうだ。
「では、これをベルンの細工師に持ち込んでみます」
石の加工はプロに任せるとしよう。
その日は深くまで探索せず、トパーズをゲットした場所で引き返した。
数日後、発注していた指輪と加工したトパーズが届いた。
これに真珠を加工して作った星の道標を取り付ければプレゼントは完成だ。
大粒の真珠の周りに小粒のトパーズを左右三粒ずつ取り付けて、指輪ができ上った。
夜を待って星の道標が正常に動くかを確認したよ。
左手の人差し指に指輪をつけて魔力を流すと、真珠から緑色の光が夜空に向かって伸びた。
光は真っ直ぐに白鳥星に向かっている。
「すごいであります! 光のリボンがまっすぐに星を指しているであります!」
シャルは大はしゃぎだ。
ノワルド先生も出来栄えに納得してくれたようだ。
「予想以上に出力が上がったな。さすがはガンダルシア産の真珠とトパーズだ」
「これも先生のおかげです。ありがとうございました」
クレアのことだからまた難癖をつけるかもしれないけど、僕自身が満足できたので嬉しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます